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ももこ、担任に妬まれる

ももこが小学校高学年になったときのこと。
ある日の授業中、児童たちがこっそり仲間内でメモを回しているのを見つけた担任がそのメモを取り上げた。
メモには、同級生の名前を記して「○ね」と書かれていた。
すぐに犯人捜しを始めた担任が、「これはももこさんの字ではないですか」と言い始め、ももこは問い詰められた。
身に覚えのないことを言われて、ももこは全力で否定したが担任の疑いは晴れないまま。同級生の中にはももこの字ではないし、ももこはそんなことをする子ではないと担任に告げるが、納得してもらえなかった。どこまでも担任はももこの字であると言い張り、ももこはやってないと言い続けた。

ももこはいつも学校で起こったことを家で話していた。
だから、学校で良からぬメモが回り、それをももこが書いたと担任に疑われている事も、その日のうちに私は知った。
そもそも、ももこはメモに書かれた名前の子を嫌ったこともなく、ましてやメモの内容のようなことを思うはずもなかった。

さて、どうしようか。
いきなり学校に電話をしてクレームをつけるのではなく、もっと他に方法がないだろうかと考えつつ、ももこに毅然とするように伝えた。

あなたがやっていないことを、やりましたというのはおかしいし、言うべきではない。担任の先生に疑われようとも、身に覚えのないことは断固として認めないこと。それでもあなたを犯人に仕立てようとしていると感じたら、お父さんお母さんに言いなさい。その時は担任の先生と話してあなたをちゃんと守るから。

2,3日後に行事があって学校に行く予定があったので、多分その時担任と話せるだろうと思っていた。その時になったらどう話そうか、私は考えた。

学校に行き、私は行事を見た後にさりげなく担任がいる方へ向かった。
親しくしている同級生のお母さんたちは既に事件の内容を子どもたちから聞いて知っていたので、私より怖い顔をして担任をにらみ付けていた。
すーっと近寄って、「先生、ももこの件ですがお話ししてもよろしいでしょうか。」
瞬間緊張を走らせる担任教師。
「ももこは、先生から犯人扱いされてとても傷ついております。先生との信頼関係にヒビが入ったと思うのですが、先生としては今後どのようにももこに接するおつもりでしょうか。」
と言うと、「私はももこさんを犯人扱いした覚えはありません。ただ、ももこさんの字と似ていたのでそうではないかと聞いただけです。」
あら、話が違う。
後ろで固唾をのんで見ていた数人のお母さんたちは、ブンブンクビを横に振り、怒りで顔を紅潮させながら、「ももちゃんが犯人だと皆の前で言っていた、とうちの子が言っていたのに」と言い始めた。

いや、ちょっと待って。
援護射撃の気持ちは嬉しいのだけれど、外野に喋らせては話がこじれる。
これは私と担任が話すことなのでちょっと黙っていてと言いたいけれどそうも言えず、彼女らを手で制して再び担任に聞いた。
「それでは、先生はももこが犯人だと思っていないのですね?ももこが犯人扱いされたと話しているのは全くの誤解だという事ですか?全てももこの勘違いだったということでしょうか?他のお子さんも、先生がももこを犯人だと思っていると、ご家庭でお話ししているようですが、それはどのように釈明なさるおつもりでしょうか。」
目が泳ぎ始め、うろたえる担任。
「私はただ・・・ ももこさんを傷つけるつもりはなかったの・・・・・・」
「では先生、ももこにちゃんと謝ってくださいね。謝る相手は私ではありません。ももこですから。先生とももこの関係が修復されるようお願いします」
そう伝えて、私はその場を離れた。

外野は、「もっと言ってやれば良かったのに」と興奮していたが、私はあれだけ言えば十分だと思った。

後日ももこに聞いたが、いつまでたっても担任からは何の謝罪もなく、メモの事件はうやむやになったとか。
何を言ったところできっと謝らない教師なのだろう。校長に訴え出る保護者もいるだろうが、そこまで事を荒立てるつもりもなかったし、何よりも、ももこ自身が「もういいよ。友達はみんなももこじゃないこと分かってくれていたから、それで十分。悪いことをしたと思っていない先生に謝ってもらっても嬉しくない。」と言ったので、その話は終わりにすることにした。

さらに数日後、呆れる話を近所の友人から聞いた。
友人の息子は偶然、ももこの担任の子どもと同級生だった。私から話を聞いていた友人は保護者会の後にももこの担任に近寄り、わざと事件の話をしたのだそうだ。
担任は友人に、「ももこちゃんは出来が良くて、つい我が子と比較して嫉妬してしまったんです。」と話したそうだ。
その話を聞いて、何なのそれ、嫉妬からももこを犯人に仕立てたの?
ええ~!?とのけぞるほど驚いたのだった。
所詮、教師も人間。人の親であれば嫉妬もあろう。
でもしかし、さすがにあれはないだろう。
友人はこう付け足した。「先生のお子さん、可愛くて性格も良くてクラスの皆から好かれているらしいの。それなのに自分の受け持ちの子と比べて低く見てしまうなんて、お子さんがかわいそうだよね。」

何とも締まらない事件のオチに、一人の大人としてとても情けない気持ちになったのだった。

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