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ももこの小学校生活② 低学年編 お友達との関係に涙する

小学生になってから、ももこは一輪車や縄跳びを休み時間ごとに練習してできるようになった。
3月生まれで他の子たちより何でも遅かったももこは、少しずつ「やればできる」ことを実感していったようだった。

仲良しのお友達もできて、それなりに楽しい小学校生活を送っていた。
ももこは、とてもお友達を大切にする子どもだった。
特に教えた覚えもないけれど、悪口は言わない、意地悪はしない。
当たり前なのだけれど、自分がされて嫌な事は人にはしない子だった。

ももこは、1年生の途中から転校してきたSちゃんと大の仲良しで、毎日下校してからSちゃんと何をして遊んでどんな話をしたか、私に聞かせてくれた。

2年生の夏休み明け、帰宅するなりももこは泣き出した。
大好きなSちゃんが急によそよそしくなって、休み時間遊ぼうと誘っても返事もしないし他の子と遊ぶようになった、という。
ももこがSちゃんに何か悪い事をしたのかと聞いても「別に」という言葉だけ。
何度も聞くと、「うるさい!」と怒鳴られた事。
そんなことを泣きながら話すももこ。

学校生活ではよくあることで、お友達との関係で悔しかったり悲しい思いを何度も経験し、それを乗り越えてというよりもやり過ごして年齢を重ねてきた私たちは、いつしかそんなことがあった事さえ忘れてしまう。
大人はついつい「よくあることさ」と言いがちだけれど、大人にとってよくあることでも、それを初めて経験する子どもは辛いに違いない。

ぽろぽろと大粒の涙をこぼしながら話すももこを見て、私は大人として、いや一人の人間としてももこに何を言ってあげれば良いのだろうかと、本当に戸惑ったものだった。

口先だけの慰めなら何とでも言える。
私は母親として何かを言わねばならない思いに駆られていたけれど、何も言ってやれないことに気付いて、ももこにおやつを出して少し泣き止むのを待った。

少し落ち着いた頃、私から
「おかあさんもね、似たようなことあったなあ」と話した。
「おかあさんも悲しくて泣いたの?」と聞くももこに、
「泣きはしないけど、どうしてそんなことするのかなって怒ったり悔しい思いをしたり。ももこと一緒だね」
そんなことを話しながら、最後に
「Sちゃんとの事は悲しいし悔しいけれど、ももこが悪いんじゃないからね。嫌な事をされたからと言って、ももこはお友達を悲しませるような事はしないでいて欲しいな。」と言うと、「ももこはそんなことしないもん!」と力強く言った。

自分が大切に思っていても相手はそう思わない場合もある、というのは子どもだけでなく大人の世界も同じ。
身勝手な行動で誰かを悲しませるような事が減ると良いなあと思いながら、ももこの涙の跡を拭いてやりながら一緒におやつを食べたのだった。

高学年になるまでSちゃんはももこの存在など知らなかったように、他の子と仲良くして学校生活を楽しんでいたようだった。
その後Sちゃんが転校して、もうももこの視界から消えてしまったのだけれど、ももこはずっとSちゃんのことを気にかけていた。

ももこが大学を卒業する頃に、ひょんなところからSちゃんが出産してお母さんになっていたことを知り、ももこは「Sちゃん、幸せそうでよかったね」とつぶやいたのだった。

私は内心、Sちゃんからそっけなくされてあんなに悲しんでいたのに、と少し不満だったのだけれど、素直にSちゃんの幸せを喜ぶももこの気持ちがとても愛おしく感じた。

子どもは経験から学んでいる事が圧倒的に大人よりも少ないから、大人は子どもに対して何も分かっていないと言いがちだけれど、そうなのだろうか。
大人って、大事な何かを置き忘れているのではないかと、ももこを見て時々思ったりもしたのだった。

そんな優しいももこが後々心に傷を負うことになるとは、誰が予想できただろうか。

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