娘のこと。絵本
エリック・カールさんが亡くなった。作品は読んだことがなくても、「はらぺこあおむし」の装丁だけでも記憶に残っている方も多いだろう。もうとっくに成人を過ぎている私の娘も持っている、たくさんの絵本の中の一冊。
エリック・カールさんのファンが多い中、我が家の娘の評価はイマイチだった。作品の良し悪しではなく、単に虫が出てくるお話は娘の好みではなかっただけ。
娘が何度も何度も読み、何度も私に読み聞かせをねだったお話は、動物が出てくるものが多かった。「ごんぎつね」「手袋を買いに」「きいろいバケツ」、動物は出てこないけれど、「そらまめくんのベッド」「だるまちゃんとかみなりちゃん」など、一貫しているのは優しい気持ちが伝わるお話が大好きだったようだ。
寝る前の読み聞かせはもちろんのこと、病院に行く日は、幼児が読みやすいように作られた、小さい絵本を何冊かお供に連れて行っては長い待ち時間を飽きさせないようにした。娘は幼くても私が読み聞かせをした記憶をたどりながら、本を読んでいる風に装ったり、途中でわからなくなって、やはり私に「読んで」とせがんできたり。そうして通院が多かった娘は待合室で本と一緒に過ごしてきた。
成長の過程で本を手放すこともなく、娘はますます本好きに育った。学校での彼女を取り巻く環境は決して楽しい事ばかりではなかったけれど、どんなことがあっても本を読まない日はなかった。むしろ、本が傷ついた娘の心を癒してくれたのかもしれない。
20代後半になった娘は結婚し、仕事と家事をこなしながらも相変わらず本を読み続けている。「月に10冊は読みたいけれど、その半分しか読めないのがちょっと残念」という彼女の言葉に驚いた。しかしよく考えてみると、読み聞かせを卒業してから月に数十冊もの本を読んできた彼女にとって、冊数が問題なのではなく、そのくらい本と向き合う時間が欲しい、という事なのだと理解できた。
「手袋を買いに」という狐のお話は、娘の一番のお気に入りの絵本。結婚してもずっと娘の側に置いてある。小さき者の「優しい気持ち」に一番共感し感動する娘は、どんなに年月が経っても変わることなく、小さかった頃の娘そのままだ。
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