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アコーディオンでこぼこ道中5「ボタン式ってのがあるのか…」沼は深まるばかり

ようやくアコーディオンの良さ、楽しさに気付き、本腰を入れ始めた私。けれどそこに立ち塞がるのは右手のピアノ鍵盤でした。小さな頃から多少エレクトーン教室に通わせてもらったり、音大受験を志した時にピアノを習いに行ってみたりしましたが、どうもあの白黒とは今も相性が良くありません(ただの稽古不足)

そもそもこの当時の私は、目の前にある与えられた曲を課題に弾いていただけなので、アコーディオニストの自我とか主張がはっきりあった訳ではありませんでした。漠然とアコーディオンと言う楽器で何かを弾くという事に夢中になっているだけだったのです。そして、当時持っていた楽器も、ただ漠然と「アコーディオンが欲しい」と相談して先生が用意してくれた物を求めたものでした。

【ボタン式に転向する前の写真w】

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けれども壁にぶつかり(と、言ってもただの稽古不足。いやー当時は「やってるつもり」でも、今の自分から見たらまだまだ出来る努力を悉く怠ってましたね。もっと頭を使うべきでした。深く反省)、自分で色々と調べて行く内に、アコーディオンには色々な仕組みの、違うタイプの楽器がたくさん存在している事を知ります。世界中の地域によってそこで奏でられる音楽に合うように進化した大小様々な数十種類の仲間たち。その中に「ボタン式(注1)」と呼ばれるアコーディオンが多々ある事を知ります。18歳で坂田進一先生に連れられて行った、赤坂にあった伝説のビアホール「ベルマンズポルカ」で紹介され名刺を頂戴した、後の師匠になる金子元孝(万久)先生は奇しくもC配列のボタン式奏者でした(注2)

折りしもアコーディオンと、アコーディオンで奏でられる世界中の音楽そのものにどんどん興味を持ち始めていた私は数々の奏者がボタンアコーディオンで素晴らしい演奏をしているのを見て「我が道を拓くのはこれだっ!」と閃いて入門する事に決めました(単純)。そうなると行動が早いのが私の良いところ。行動力のあるバカの突進力を発揮です。

「やらない後悔よりやった後悔」とは良く聞きますが、挑戦もしないのにアレコレ考えるだけで、手をつけない選択肢は私にはありません。早速お金を工面して、以前から出入りしていた御茶ノ水の谷口楽器さんへ飛んで行きました。全く未知のシステムの楽器が弾けるようになるかどうか、さすがに不安だったので一番小さいサイズのにしようと考えた事は良く覚えています。それでも確か20数年前の当時でさえ30万円以上はしたはずです(エキセルシャーの672という現行モデル。今では60万円弱します)。個人的な意見ですが、楽器を手に入れなければ何も始まりません。キチンとした楽器を手に入れるという事は「この楽器を始めるぞ!」と覚悟を決めた自分自身に、改めて決心を伝える儀式の一つのようにも思います。

【ボタン式に転向して程なく、大手テーマパークのオーディションを受けて合格しました。そこから足掛け13年間出演させて頂いた事は、私のキャリア形成の大切な部分になりました。写真はその時のアーティスト写真】

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そんな訳で、手に入れたばかりのピカピカの楽器を背負って「ミュゼット(注3)が弾きたいです!」と意気込んでアコーディオンの師匠金子元孝先生と十数年ぶりに再会したのでした。

【金子先生の色紙。新しい弟子が入門すると「その道に入らんとぞ思ふ心こそ 我が身ながらの師匠なりけり」と利休の歌を掛けておられました】

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初レッスンの日の事も良く覚えています。先生のお宅は駅から離れた住宅街の中にありまして、道案内なく初めてお邪魔するのはなかなか難しいので、大きな通りまで先生がお迎えに出て来てくれていました。二間続きの和室の稽古場。石膏像が飾ってあるお部屋は実家にも似た安心感を感じたものでした(父がグラフィックデザイナーで、ダビデ像の頭部や美術全集などが並べてある本棚を眺めて育った私には、とても親しみ易い雰囲気でした)

【お若い頃の金子先生。カッコイイ!】

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音階の指遣いを習い、音楽に関する問答や、私の音楽歴についての会話があり、最後にお茶を頂いてその日は終わりました。さあ、いよいよ(ようやく)ここに私のボタンアコーディオン人生が始まった訳です。さてさて、でこぼこ道中はどこへ向かうのでしょう(続く。不定期連載)

【こんな頃もありました】

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【最初に買った楽器を持って「和装で懐メロ」なんて現場もたくさん踏ませて頂きました。足掛け8年ほど週2回のレギュラーを弾かせて頂いた、ちゃんこの名店「吉葉」の楽屋にて】

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注1)「ボタン式アコーディオン」とは、広義には音を出す為の機構がボタンの操作により行われる楽器を指します。その中には大小様々、配列・システムの楽器が全て包括されます。押し引き異音の楽器も、押し引き同音の楽器も含まれますが、ここで取り上げている押し引き同音の楽器は特に「クロマチック(ボタン)アコーディオン(Chromatic Button Accordion, Accordéon Chromatique, etc)」と呼ぶ事があります。

注2)C配列(C griff, イタリア配列)はクロマチックアコーディオンの配列の一種。一番外側の列にCがあり、内側に向かって半音ずつ高くなるレイアウト。その他にも見た目には同じでも音の配置が異なるシステムが何種類かある。師事した金子元孝先生(隠居後は「万事休す」を洒落て「万久」と号しました。日本に於けるボタン式アコーディオンの黎明期を支えたパイオニア的存在でした。トライアンフ式コンサーティーナを善くした恩師坂田進一先生とは仲が良かったので、ご紹介を受けて自然な流れで金子先生に師事できた事を嬉しく思っています)

注3)「ミュゼット」とはパリの下街生まれのアコーディオンが主奏を務めるダンス音楽のこと。一部にワルツの事をミュゼットと勘違いしている方がありますが、それは誤解です。確かに好んで演奏される曲にワルツの割合が多くて勘違いされやすいのですが、ワルツの他にポルカ、タンゴやパソドブレ、フォックストロット、サンバなどなどおよそ社交ダンスシーンで演奏される多様なリズムの曲たちも演奏します。また、ジャヴァやブーレ、マズルカ、マルシェなどフランスに根差したリズムの作品が演奏される事もしばしば耳にでき、華麗で変化に富んだ楽しいジャンルです。


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