見出し画像

Where did you sleep last night?

 あの時代、電波に包まれて僕は眠りに落ちた。

 1269kHzの。

 瀬戸内海を越えて、徳島県から、四国放送が聴こえる。今でも鮮明に思い出せるだろう。あの空気の匂い。夏の終り。窓を叩く静かな冬。小さなAMラジオは僕の楽園だった。救われる時間だった。毎日のように、音だけの世界は僕に元気をくれた。

 なかでも、毎週日曜日の『パワフルトクシマどないしょん』という音楽番組が楽しみだった。新居豊というローカルミュージシャンがパーソナリティを努める。彼こそが僕に音楽の世界を拡げてくれたヒーローにほかならない。今は何をしているのだろうか。
 自分の曲を弾き語ったりするコーナーも楽しみで、彼のCDがほしいと思ったけれど、おそらく地元にしか置いていないのだ。ていうかライブ会場で自作CDを販売、みたいな感じだったかもしれない。ともかく、当時、僕は見つけられなかった。今ならネットである程度なんとかなるのかもしれない……と思って調べても全然情報がない。新居豊のCD求ム。

 で、彼は毎週のようにおすすめのミュージシャンを紹介してくれた。

 中学生だった僕は音楽にそんなに詳しくなんてなかった。テレビで流れる楽曲や家にあった音楽しか知らなかった。特に洋楽なんて。なので、彼の紹介する音楽は新鮮だった。そして僕の記憶が確かなら、NIRVANAのベストアルバムを買ったのが、初めて買ったCDになるんだと思う。改めて考えたらNIRVANAなんて超々有名だけど、中学生はなんにも知らないのだ。

 Smells like teen spiritのイントロを聴いて、なんか聴いたことある気がするという程度だった。でも、その程度で良かった。一回ラジオで聴いただけなのに、ずっと気になってしかたなかったのだ。メモにはニルバーナと書いていて、探しに行った。近所のジャスコに。果たしてそれはあった。しかも輸入盤で1000円とかそんなだった気がする。逆に輸入盤の方が日本で手に入れるの難しいんじゃないかって気がするが、ともかく、それを手にとって買って帰った。黒一色にNIRVANAのロゴ。これだよ。かっこええ、と思った。同級生の誰も知らない(と勝手に思っている)音楽。俺はこんな音楽知っているんだぜって勝手に優越感を手に入れていた。思い上がりかもしれない。実際当時の同級生でどれだけの数の人間がNIRVANAを知っていただろうか。ていうか当時じゃなくても、同年代の人でどれだけNIRVANAを知っているだろうか。ロック野郎はともかく。

 僕が3歳ぐらいの頃にカート・コバーンは死んでしまって、それから10年ほど経って彼と出会って、今でも僕の魂に居座り続けている。

 すべてのきっかけだった。新居さんに教えてもらった他のアーティストのCDを買う契機にもなったに違いないのだ。そう思いたいだけで、それがNIRVANAじゃなくて違うバンドだったかも知れないけど、たまたまそれがNIRVANAだったから今の僕がある。NIRVANAじゃなかったら、もっと違う人間だったかも知れない。
 新居さんはFoo FightersやSound Scheduleも教えてくれた。実際、ラジオで知って買ったのは思いつく限りではそれぐらいかもしれない。そこから興味を持っていろいろと音楽を知っていったのだから、それでよいのだ。それはとても良いことだったのだ。新居さんは今でも偉大なのだ。ありがとう。

 (今手元にCDがないからサムネ画像はさっき1分ぐらいで作った)

この記事が参加している募集

もっと本が読みたい。