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日記:暗い朝とカレー

ようやく重い身体をベッドから引きずり出したのは8時。
ここでの8時とは「午前8時」などという健康的な時間ではなく午後8時、普通に真夜中である。
気分が下がったままなので、おもむろにスマホでクラシックのプレイリストを再生する。もっぱら最近のお気に入りはショパンだ。不健康な起床時間でもショパンのノクターン第2番をかければ、これは少し暗いだけの早朝なのでは、とだんだん僕の意識はそう誤認識してくる。
さて、腹は減ったが生憎すぐに食べれるものは昨日の晩に食べ尽くしてしまったので、簡単に朝食にはありつけそうにない。
気怠い体を飯の為と奮い立たせ、米を研ぎ始める。数日前のカレーが残っているので、優雅に朝カレーと洒落込む事にしよう!

僕は朝に食べるカレーを特別なものだと考えているのだが、何故にそう思うのかというと、昔に母親が持っていたタイトルもよく覚えていない有象無象の少女マンガの1ページに、明らかに物語の本筋には一切の関わりを持つ事が出来なさそうな仕事に勤しむ金髪のチャラ男が、メインヒロインがチャラ男の同僚のイケメン男の為に作ったカレーのおすそ分けを貰うシーンにて「朝からカレーが食えるなんて幸せモンだなぁ俺は」というセリフが、少年の頃の私にはなぜか特別印象に残っているからである。確かに、朝からカレーなんて食べる事は滅多にないだろうし、特に仕事に忙しい日の朝に、若い女子がカレーを持ってきてくれたならばそのカレーは特別に美味い物になるだろう。
かくして、僕にとっての朝カレーは大層特別なものなのである。

久々の朝カレーはどんなに美味いだろうか、と思いを馳せながら米を研ぐ。プレイリストは現在ラ・カンパネラを再生中。釣られて米を研ぐ手も軽やかなリズムを刻み始める。
炊き加減は固めが好み。なので水を少なめにし、炊飯器のスイッチを入れる。
せっかく体が動き始めたので、この隙に一日の中で最も面倒なイベントである風呂を済ませる事にする。経験上、汗でベタつく髪で食うカレーは美味さ半減どころではない。

時刻は10時。1時間半ほどかけて全身全霊で風呂を終わらせた頃には、米が炊けていた。なんとも長い風呂だが、起きてすぐ入れるだけ褒めては欲しい。

さてさて……と炊きたての米をよそい、カレーをかける。
珍しく小学生ぶりの甘口カレー。隠し味は豆板醤だ。肉は高くて入れられず、変わりに茄子を入れてある。しかし野菜もそれなりに高くて敵わない。
18歳にもなってやっと初めて一人で作ったカレーだが、かなり良い出来である。自画自賛にはなるが、豆板醤の辛味と旨味が甘口のルゥをよく引きたてており、アレンジももはやお手のものだ。

結局僕は2皿目をおかわりし、1.5合炊いた米を全て平らげ腹一杯になり過ぎてしまった。
過度な満腹によってしばらくボーっとした後、ふと窓を見るとまだ外は暗い。時計を見ると午後の11時半。どおりで暗いわけだ。暗めの朝だと認識しかけていた脳は現実に引き戻され、再び昼夜逆転という事実を認識し始める。

今週中には戻せればいいのだが。そう思いながら、僕のかなり暗い朝は始まったばかりである。

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