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5/30 Jリーグ第17節 川崎フロンターレ戦レビュー

久しぶりの投稿になります。投稿を怠けているうちに鹿島には色々な変化がありました。監督交代、入国が遅れていた助っ人の合流。順位も前回レビュー時の15位から6位(川崎戦前)まで上がっていました。
 そんな中迎えた首位川崎との直接対決。圧倒的強者川崎にチャレンジャーとしてどのように臨んだのかを振り返っていこうと思います。

結果

ハイライト

戦前スカウティング

この一戦を迎えるにあたり、私なりのスカウティング(量的観点多め)を後出しにはなりますがいくつか紹介させていただきます。

・川崎がこれまで取りこぼした4試合(神戸、広島、仙台、湘南)のうち、3試合は先制したのに追いつかれている。
・しかし、2点以上のリードからは全勝している。
・失点時間帯は以下の通り。

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・前半を最悪でも1点ビハインドで終え、後半にギアを上げて得点を奪いにいきたい。

・川崎はここまでのリーグ戦、相手との移動距離の差の平均は-2.314km。しかし取りこぼした4試合に限ると平均は-5.032kmまで落ちる。効率よく相手を動かす川崎も、大幅に走り負けると流石に良くないらしい。
・狭い局面に閉じ込められるとクオリティに自信がある川崎の思う壺なので、圧縮してくる川崎のブロックを素早く掻い潜り広いスペースをアタックしたい。

スタメン

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 両者とも中3日での対戦となった。川崎は引き分けとなった湘南戦から6人を変更。特に3トップは総入れ替えとなったが、おそらくこの3人がベストチョイスだろう。旗手はLSBだった前節とは違いIHでの起用となった。
 鹿島は上田が7試合ぶりに先発出場を果たしたが、変更はこの一点のみ。
エヴェラウドが9試合ぶりに戻ってきたが、三竿はリーグ戦では初めてのメンバー外となった。

前半

嵌まらない小泉システム

 試合開始から川崎がペースを握った。川崎が最後方でボールを保持する際の鹿島の狙いは川崎の攻撃のタクトを握るシミッチを消すことだった。442のブロックを作り上田と小泉でシミッチを隠しつつ、ボールホルダーに対してもどちらかがシミッチをカバーシャドウしながら出ていった。
 しかしなかなかプレスを嵌めることができない。サポートに入る旗手の対応に後手を踏み、結果シミッチに前を向いた状態でボールを受けさせてしまった。鹿島としてはIHへのパスをボールの奪いどころとして設定していた思うが、うまく揺さぶられ中々ベストのタイミングで出て行けない。

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 相馬監督に代わってからの特徴であった、小泉をトップ下におき彼に2度追い3度追いさせる守備がハマらなかったのは痛かった。川崎のパス回しは一切のもたつきが無く、彼が寄せる前に次へと渡ってしまう事が多かった。
 ボランチが連動して前に潰しに行けなかった事も大きい。プレスが嵌まらないことで陣形はズルズル下がっていき、10分が経過した頃には上田小泉の後ろには、かなりのスペースができてしまった。

際立つ引き出しの多さ

 シミッチが使えない場面でも、川崎の攻撃は多彩だった。CBからのビルドアップでは、家長は永戸と町田の間に立つことが多く、永戸は家長を意識して中に絞り気味に構える。荒木もハーフスペースに立ちシミッチと田中を牽制していたため、必然的に山根が右サイドの高い位置でフリーになり、何度も起点を作られた。
 対して左サイドの三笘は常本の外側で構え、カットインするような裏へのスルーパスや、ドリブルでの縦突破を試みる。しかしここは常本が良く対応してくれた。
 川崎がポゼッションを確立すると、家長はフリーマンのように振舞いパス交換の至る所でプラスワンとして顔を出した。立ち上がりに彼を自由にさせてしまった事で、彼に強い意識が向いてしまう。そんな中生まれたのが川崎の先制点だった。
 山根がサイドでパスを受け、永戸が出て行った際に中央への斜めのパスコースが空く。そこを見事に通され、今シーズン絶好調のダミアンに先制点を決められてしまった。十分にアーリークロスが考えられたシーンだったが、鹿島ディフェンスの視線はハーフスペースを縦に抜ける家長につられてしまっていた。

 シミッチが無理ならサイドから。三笘は抑えられても家長。その家長もオトリで最後はダミアン。一つ一つが強力であるからこそ、他の武器が活きてくる。なるほどダミアンが今シーズン覚醒したのも、去年の三笘や家長の鮮烈な活躍あっての事なのね。

 前半終了時点で、ボール保持率は川崎64:36鹿島。パス成功数は川崎349の鹿島143。圧倒された前半だったが、戦前スカウティングを思い返せば1点のビハインドで持ちこたえた事はプラス要素として捉えられるはず。あとは攻め筋をどう見出すか。なんとかギアを上げて欲しい一心でハーフタイムショーのコロッケを見ていた。

後半

勇気をもって臨んだ後半

後半開始から鹿島は小泉に変えて白崎を投入。並びは以下のようになった。

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 攻撃の局面では2列目の3人が中に絞る事で両SBが上がりやすくなった。ミドルサードで幅を確保したことで、片側に圧縮してくる川崎のブロックに対しサイドチェンジでの打開ができるようになる。多かったのは右→左のパターン。永戸がブロックの外で受ける形を後半開始から作れていた。

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 守備においても前で潰す意識が強くなり、隙があると見るや田中を町田が潰しに行く事もあった。ワンタッチで剝がされるリスクもあるが、それを許容してでもアグレッシブな姿勢を見せる必要があった。なにより一対一の守備で三笘に突破を許さなかったことが鹿島に流れを引き寄せてくれた。対面の常本はこの試合で両チーム中トップである6回のタックルを記録し、その全てを成功させている。

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荒木システムで回りだす鹿島

 荒木がトップ下に入った事で、彼がシミッチの脇でボールを受ける回数が多くなった。彼はゴールに背を向けた状態で受けてもターンが上手く、川崎ディフェンスに背走を強いることができるようになっていく。
 前半ボールに絡めずにいた上田も後半に入り存在感が増していた。荒木が前を向けることで裏へのランニングで怖さをみせ、得点の直前となる58分の決定機では彼がポストに降りた流れから積極的にボールにチャレンジし、登里から奪い返した所からショートカウンターのきっかけを作った。
 そして待望の同点ゴールが生まれる。サイド攻撃で相手を押し込んだ所からクリアボールを回収。白崎が降りてボールを受けたことで旗手をつり出し、シミッチの脇にスペースを生み出す。そこに素早い楔を打ち込み、シミッチの背後からでてきた荒木がワンタッチで前を向く。すかさず上田に繋ぎ、ソンリョンとの2度目の一対一を制しネットを揺らした。一度はオフサイド判定となるが、ジェジエウの後ろ足が残っていたか、山根の足が出ており、上田も手は出ていたもののプレーできる部分はギリギリ残しており、判定は覆りゴールが認められた。

勝敗を分けた"次の一手"

 同点ゴール後も63分、64分と立て続けにチャンスを迎えるが決めきることができない。両チームとも陣形が少し間延びするようになり、ライン間が空いたため、ピッチを斜めに進んでいく攻撃が両者とも増えていく。
 こうしたオープンな殴り合いを川崎は望んでいなかったはずだ。エリアを制限される事なくピッチを広く使えた事で運動量で上回り、守備では地上戦を仕掛けてくる川崎に粘り強く対応した。スカウティング通りの展開にワクワクしていた。
 プレスも嵌まり始め、ミスを誘発できるようになっていく。後半の飲水タイムまでは逆転の光が見えていた。
 飲水タイム明け、川崎は前線を入れ替え並びも変更。鹿島も松村、エヴェラウドらを投入し試合は最終局面へ。

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 鹿島の交代策はあまり機能しなかった印象。松村のスピードを活かし裏を取りたいが、カットインのランニングでジェジエウに捕まってしまう。サイドに流れてもクロスまでは行けず、中のエヴェラウドに合わせることが出来ないでいた。
 対する川崎。三笘に代わった長谷川は、縦への突破よりカットインや抜き切らない状態でのクロスを狙っていた。シミッチの横に田中を並べることでスペースを埋め守備の安定化を図ると同時に、2列目を家長一枚にすることでより、彼が動きまわれるスペースを確保。右WGを旗手にして、前に出る鹿島の泣き所である永戸の裏を狙い、カード覚悟で止めざるを得ないチャンスを作った。
 そして後半ロスタイム、浅い位置で長谷川にクロスをあげられる。町田と永戸の間に入った知念が潰れ役となり、町田が少し触れるもボールは小林へフリーで渡ってしまう。交代後一発で決められてしまいゲームセット。
 対応力、引き出しの多さ、一発で決めきる集中力、そして大前提である基礎的なボールスキル。やはり川崎は強かった。対して鹿島は荒木を使った攻撃しか明確な攻め筋を見出せなかった。

総括

 試合を終えて、総移動距離は鹿島118,775m、川崎113,105m。つまり鹿島が5.67km多く走っており、スカウティングからすると川崎から勝ち点を奪うには十分だったはずだ。しかし勝ったのは川崎。ただ、勝利した試合の中では一番走り負けた試合となった。
 もちろん、本気で相手を分析するにはもっと多くのパラメータを考慮しないといけない。数字だけでなくピッチ上で起こりうる具体的な現象を予測しなければならないし、プレイヤー個々の特徴を把握することも重要だ。
 鹿島の選手やコーチ陣がこの試合に向けてどのような準備をしてきたのか。どこまでが想定内でどこからが想定外だったのか。自分としての想定外は、追いついてからの勢いで逆転出来なかったことと、川崎の配置転換に対して有効な策を打ち出せなかったことだ。
 ただ一つ、もし自分が監督ならエヴェラウドと松村の配置は逆にしただろう。松村にはCB(できればジェジエウ)をサイドにつり出すような動きを期待し、クロスに対してはエヴェラウドが大外から飛び込んでくる形を作りたかった。無理かな?笑

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試合データ


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