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鹿島が抱える課題を"監督目線"で考えてみた①

初めに

今回は、初めて試合のレビュー以外の考察になります。2021シーズンの目標をリーグ制覇に掲げながら、6試合を消化した時点で1勝1分4敗と低迷する鹿島の課題についてザーゴ監督の視点に立って考えてみた事を2回に分け、前半となる今回はここまでの試合のデータも交えた現状の把握と問題提起、後半では解決策の提案をテーマとして書いて行く予定です。
私自身サッカー観戦歴は12年程度ですが(3連覇の頃から)、戦術や分析について学び始めたのは1年前なので浅い知識にはなりますが、この場をお借りして自分の考えを言語化し整理できればと思います。

"監督目線"とは

タイトルにもある通り、この考察においては私が独自に定義する"監督目線"として以下の事を前提とした上で話を進めていこうと思います。

・目指すスタイルの大枠(ボールを保持し攻撃で主導権を握る)は変えない・現在所属する選手の中で解決策を見出す・短期間での選手の成長やメンタル面に期待する話は極力しない
 → 要は「今持っている駒で勝負するなら」という事

※これはあくまで今回私が考察するにあたっての「縛り」のようなものであり、能力や適性未知数の選手を起用して成長を促したり、隠れた才能を引き出すのも監督の大事な役割であることは承知しております。

鹿島が抱えるビルドアップ問題

ここまでリーグ戦6試合を消化し、勝ち点をたったの4しか積み上げられていない最大の原因はずばりビルドアップ、とりわけゴールキックなどのセットされた状態からの前進が上手くいっていない点にあると思います。
前線には昨シーズンリーグ屈指の得点力を発揮したエヴェラウド、上田の2トップがいながら、今季ここまでの得点数は6(うち3点がセットプレー)と、流れの中から得点を生み出せていない事が伺えます。
また対戦相手の移り変わりを考えると、開幕から清水、湘南、広島とボール非保持の局面では陣形を下げて守るチームとの対戦では、いずれも20本以上のシュートを記録していました。しかし三國や重廣を中心に鹿島最終ラインにプレッシャーをかけてきた福岡や、インターセプト数リーグトップの名古屋、先日の浦和との対戦ではガクッと本数が減り、ビルドアップで引っ掛かり中々シュートまで持ち込めない課題が露呈してきた印象があります。
よって本考察ではこのビルドアップ問題について深堀りしていく事とします。

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図1.シュートスタッツの変化

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図2.ビルドアップ成功の目安となる敵陣30mライン侵入回数

ビルドアップの目的とは

ではそもそもビルドアップを行う目的とはなんでしょう。私が考えるにビルドアップの目的は、相手の第一プレッシャーライン(大体はFW)を超え、味方が中盤で前を向いてボールを持てる状況を作ることだと思います。
海外では10年ほど前にバルセロナがポゼッションサッカーで世界を席巻し、スペイン代表が2010W杯、2012のEUROを同じくポゼッションスタイルで制覇したため、欧州を中心としてロングボールを放るよりも後方からショートパスを繋ぎポゼッションを重視するクラブや監督は増えていきました。
その結果、かつてのピーター・クラウチのような”純粋な”ターゲットマンは現在欧州では絶滅危惧種に近い存在となっています。
近年ではJリーグでもビルドアップを重視し、GKを含めた最後方からの組み立てを行うチームが増えてきています。我らが鹿島アントラーズでもザーゴ監督が就任してからは、ビルドアップ時にアンカー(ボランチの一枚)が最終ラインに落ちる、いわゆるサリーダ・ラボルピアーナを採用しチームを欧州基準に近づけようとしているようです。
しかしこのようなビルドアップに対して、ハイプレスで敵陣ゴール近くでのボール奪回を狙うチームが増える事も当然な流れであり、現在の川崎フロンターレはまさにハイプレスでJリーグを一人勝ちしている状況ともとれます。
つまり、ビルドアップに力を入れるという事は、即ち相手のハイプレスを回避し、プレスの裏にある広大なスペースを利用できるアドバンテージを狙う事とほぼ同義になっているのです。

何が起きているのか

では次に鹿島のビルドアップでは何が起こっているのかを考えて行きます。試合開始前に紹介されるメンバーの並びでは4-4-2となっていますが、ゴールキックや一度落ち着いた場面からの攻撃では、以下のような3-3-2-2の並びとなります。

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この時のチームの振る舞いとしては、こんな感じでしょうか

最終ラインの3人でパスを回し相手の第一プレッシャーライン(2人と仮定)に対し数的優位を活かし揺さぶりをかけながら前へのパスを伺う
前進のパターンはおおよそ以下の①~⑥のどれかとなる
①CHにターンできる余裕があれば、シンプルに預ける
②SBへ渡し、サイドから前進
③OHへ楔を打ち込みスピードアップ
④CBから対角線のSBへロングフィードを送る
⑤相手最終ライン背後に走るSTへ縦のロングパス
⑥ボールホルダーが犬飼の場合、そのままドリブルで前進

一応6つほど挙げてみましたが、実際のところは右サイドで③を選ぶ回数が非常に多くなっています。特に犬飼が不在の際はそれが顕著で、彼が不在だった福岡戦、浦和戦ではそれぞれ右SBだった広瀬、常本がチーム内のパス本数トップになっています。またエリアごとのパス本数でみても、自陣右サイドの深い所でのパスが多くなっています。

浦和戦エリア間パス図

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ではこの前進方法が上手くいっているのかというと、そうとも言えないのが現状ではないでしょうか。どちらかというと、この選択は逃げの印象が強く、相手のプレッシャーによって外に追い出された結果サイドを選択せざるを得ない状況に追い込まれているといった印象が拭えません。
先日投稿しました浦和戦の記事においても、下図のような自陣右サイドからの前進で相手のプレスにはまってしまった場面を紹介しました。

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この試合に限らずこれに似たようなシーンは非常に多く、最終ラインから受けたレシーバーや周りが余裕を持って前を向けないために、やり直しになったり、もしくは相手ブロックが密集した中でガチャガチャとしながら進んでいく羽目になってしまっています。(でも荒木選手などはそれが上手かったりするのですが)
なんにせよ、再現性と成功率が高いビルドアップが出来ていないことは事実であるとみていいと思います。

原因①三竿の不調

では、こういった現象が何故起きてしまうのか、考え得る問題点をいくつか挙げていこうと思います。先に取り上げたシーンのようにボールを受けた右SBが出し所を失うシーンでまず気になるのは、三竿の消極的な振る舞いです。
例のシーンでいうと、関川が常本に出したことで三竿をマークしていた武藤は関川へのパスコースを消すために彼のマークを外れます。その後武田がスライドしてケアしに来るとはいえ、三竿には少しの間時間とスペースの余裕が与えられます。
ここで三竿ができた事は2つ
1.下図のオレンジのスペースに出て、ワンタッチでもいいから相手ブロックをずらすパスを出す
2.小泉にスペースを消された場合でも今のポジションでボールを受け素早く逆サイドへ展開する

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以上2つが挙げられると思います。ですがどちらともに要求されるのは、素早い判断と確かなボールコントロール、そして何よりボールホルダーである右SBとの意思疎通です。
ですが、今シーズンの三竿を見ていると、この様なシーンで敢えて右SBから視線を逸らすように周りを確認していたり、隠れてしまうような動きが目立ちます。またスペースに出てボールを受けてもミスをしてしまう事も多く、それが彼を消極的にしてしまっているのかもしれません。
サリーダ・ラボルピアーナは最終ラインでの数的優位の担保のために一時的に降りる手法なのであって、そこに居場所の良さを見つけてしまっては彼のボランチとしての才能も潰れてしまいかねません。
この問題でいうと、ルヴァンカップ福岡戦での舩橋は素晴らしいサポートの動きを見せていました。選手の特性とそのクオリティーはそれぞれ違うので、ここだけで評価するのは違いますが、ボール保持の局面では間違いなく舩橋の方が適正を見せています。

原因②プレーの質の低さ

そもそも何故サイドに追い込まれるか。それは相手のスライドや寄せが間に合ってしまうから。つまりは鹿島最終ラインのパススピードが遅かったりコントロールに隙があるからです。関川はフィジカルの強さや縦への意識は魅力ではありますが、パスの受け方やトラップが非常に雑な印象があります。確かに自陣深くであればそこまで相手は詰めてこないので多少の余裕があります。ですが、そのアドバンテージをクオリティーの低さを補う為に使ってしまうのはあまりにも勿体ない気がします。
町田の振る舞いも少し淡泊で、貴重な左利きというアドバンテージをフルに活かせているとは到底言えません。
近年ではCBのレジスタ化が進み、欧州ではPSGのマルキーニョスや、マンチェスターシティのラポルトに代表される戦術眼に長けたCBがゲームを最後方から作っています。Jリーグでも谷口や畠中、若い世代でも柏の古賀はチームのビルドアップにおいて重要な役割を果たしています。何よりチームの先輩犬飼は出場したほとんどの試合でチームトップのパス本数を記録しています。(彼はポジションを外れて出ていく事も多いため理想のお手本とは言えませんが)
とにかく関川、町田にも一つでいいので攻撃の局面での良さを発揮して欲しいと願ってやみません。

原因③前線との距離感

最後に挙げられる原因である前線との意思統一の問題について、サッカーを少し大きな枠で捉え直してから考察を進めたいと思います。

単なる「ポジション」だけでは戦術を語れない程に、現代フットボールは複雑化していると言われています。そんな現代フットボールの最先端を行くグアルディオラが得意とするポジショナルプレーにおいて、アンカーやトップ下といったポジション名はもはや「位置情報」を示す単語に過ぎません。例えば同じ”アンカー”であってもカゼミーロ(レアル)とジョルジーニョ(チェルシー)では担う「機能」が全く異なります。試合の状況によってフォーメーションは何通りにも変形するし、そのたびに選手の立ち位置、役割も変わってきます。
この曖昧で複雑な戦術を理解するにあたり、フィールドプレーヤー10人を「ビルドアップユニット」「アタッキングユニット」に分類する方法があります。また、イタリア代表育成年代コーディネーターのマウリツィオ・ヴィンティは、攻撃の局面における選手の振る舞いは「コンストラクター(=構成者)」と「インベーダー(=侵略者)」に分けられるとしています。
これを鹿島にあてはめると、以下のように設計されているのではないでしょうか。

ビルドアップユニット : 後ろの3人、ボールサイドのSB、CH
アタッキングユニット : 反対サイドのSB、前の4人

ここで問題となるのはユニット間の距離です。多くの試合で鹿島はビルドアップに苦しみ停滞します。そうなると、アタッキングユニットはエヴェラウドや上田へのロングボールを要求し、OHもその落としを拾える位置に構えるために高めにポジションを取ることで、ユニット間の距離が時間の経過と共にどんどん開いてしまっています。
また、CHのレオシルバはボールを保持した際には自らドリブルで押し上げて行く事が多く、密集したピッチ中央で中距離のパスを前方にズバっと出せる柴崎や小笠原とは異なるため、ドリブルのコースを消されてしまうとアタッキングユニットにボールを届ける事が難しくなってしまいます。

中締め

この様に現在の鹿島は、選手個人の適正やチームとしての機能にそれぞれ問題を抱えている状況です。ではこれらをどの様に解決していくかを次回まとめて行きたいと思います。


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