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はじめての茶の湯に触れる「一億人の茶道教養講座」

「一億人の茶道教養講座」岡本浩一(淡交社 2013年)


生活スタイルの変更によって生じてしまった余白時間に読むなら、これまで手に取る時間がないと感じていた本や、すぐには役立つことのない内容のものがふさわしい。

茶道のお稽古をはじめたいと思っている人。もしくは、習いたいとまでは思わないけれど、茶道とはどういうものかを掴んでおきたいという人――。本書は、その両者に向けて書かれている。少し長めの序論では、本書のコンセプトと教養の構造について触れ、仕事を持ちながら、その一方で教養を身に着けることについて解説している。ここであきらめずに読み進めていくと、本文に辿り着くことができる。

その後の解説は、具体的だ。「茶席の掛け物に書かれていることは何か」「茶道はどうやって生まれたのか」「利休による革新とは」「茶道具や茶室について」「侘茶のコンセプトは」など。所作から入るのではなく、まずは茶の湯について知りたいという人の知的好奇心を満たしてくれそうな本書。茶の湯の文化や精神性のエッセンスのみをギュッと閉じ込めたような内容になっている。

茶碗や茶道具の鑑賞ポイントである「名所(などころ)」などの解説は、初心者には詳しすぎるように感じられるかもしれない。なぜ手っ取り早く教養としての茶道を身に着けるための新書に、このような解説を加えているのだろうと考え、そして、あの序論に戻るのだ。
日本文化である茶道は“侘び”の美観に支えられていると、そこに書かれている。著者が、侘びのコンセプトの概念理解を目指すという無謀とも思える挑戦に取り組んでいたことに気付くのは、読み終わった後になることだろう。
実際に茶の湯を体験してからもう一度読んでみたい。読後には、そう思っているかもしれない。



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