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システマティック・レビューのレビュー(新生児・呼吸編)

概要


主に Cochrane Library から、新生児の呼吸管理についてピックアップしました。
大枠が掴めるようにかなり端折りました(日本に採用がない薬剤は割愛しました)ので、ニュアンスが微妙なところもあるかもしれません。また、少し時間の経ったレビューだと、その後の文献で明らかになったことも多いかもしれません。
鵜呑みにせず、実際の文献や最近の文献をよく読んで、吟味してください。



人工呼吸器


Subramaniam P, Ho JJ, Davis PG.
Prophylactic or very early initiation of continuous positive airway pressure (CPAP) for preterm infants.
Cochrane Database Syst Rev. 2021;10:CD001243. PMID: 34661278

超早産児に対する予防的 nasal-CPAP は、機械換気と比較して、BPD・「死亡またはBPD」、機械換気を減らす。生後1歳半での神経発達障害にはおそらく差がない。
早産児や超早産児に対する予防的 CPAP を、酸素療法などの支持療法と比較した研究は乏しい。
late-preterm 児に対する予防的 CPAP については、情報がない。

超早産児の BPD 予防には、「いきなり気管挿管」よりも「とりあえず nasal-CPAP」がよさそう。


Klingenberg C, Wheeler KI, McCallion N, Morley CJ, Davis PG.
Volume-targeted versus pressure-limited ventilation in neonates.
Cochrane Database Syst Rev. 2017;10:CD003666. PMID: 29039883

乳児に対する VTV モードでの人工換気は、PLV モードでの人工換気と比較して、死亡またはBPD、気胸、低炭酸血症、重度の頭蓋超音波異常、人工換気を減らした。VTVモードが神経発達の転帰を改善するかは不明である。

Volume-targeted ventilation は、期待される通り、過換気を減らして短期的な予後を改善した。



酸素投与


Lui K, Jones LJ, Foster JP, Davis PG, Ching SK, Oei JL, et al.
Lower versus higher oxygen concentrations titrated to target oxygen saturations during resuscitation of preterm infants at birth.
Cochrane Database Syst Rev. 2018;5:CD010239. PMID: 29726010

早産児の蘇生の開始時点の低めの吸入酸素濃度(FiO2 < 0.4)は、高めの吸入酸素濃度(FiO2 ≥ 0.4)と比較して、死亡率または重症度、気管挿管率、死亡率に大きな影響を与えるか不明である。

早産児の蘇生において、吸入酸素濃度を高めで開始するのがよいか、低めで開始するのがよいか、よく分からない。


Askie LM, Darlow BA, Davis PG, Finer N, Stenson B, Vento M, et al.
Effects of targeting lower versus higher arterial oxygen saturations on death or disability in preterm infants.
Cochrane Database Syst Rev. 2017;4:CD011190. PMID: 28398697

超早産児に対して目標酸素飽和度を低め(85%~89%)に設定することで、高め(91%〜95%)に設定した場合と比較して、「死亡または重大障害」や「重大障害」に有意差はなかったが,死亡リスクは 28/1000 だけ増加した。

超早産児の目標酸素飽和度は、高め(91%〜95%)の方が低め(85%~89%)よりもよさそう。


Askie LM, Henderson-Smart DJ, Ko H.
Restricted versus liberal oxygen exposure for preventing morbidity and mortality in preterm or low birth weight infants.
Cochrane Database Syst Rev. 2009(1):CD001077. PMID: 19160188

早産・低出生体重児の吸入酸素濃度に制限を設けることで、死亡率を上昇させることなく、未熟児網膜症の発症率と重症率を有意に減少させた。至適な目標範囲は不明である。

(今となっては当たり前だが)吸入酸素濃度には一定の上限を設けるべき。



サーファクタント


Abdel-Latif ME, Osborn DA, Challis D.
Intra-amniotic surfactant for women at risk of preterm birth for preventing respiratory distress in newborns.
Cochrane Database Syst Rev. 2010(1):CD007916. PMID: 20091659

早産のリスクのある女性に対するサーファクタントの羊膜腔内投与は、その効果を評価した無作為化試験はなかった。観察研究の結果からは、安全かつ実行可能で、効果的であることが期待される。


Abdel-Latif ME, Osborn DA.
Pharyngeal instillation of surfactant before the first breath for prevention of morbidity and mortality in preterm infants at risk of respiratory distress syndrome.
Cochrane Database Syst Rev. 2011(3):CD008311. PMID: 21412918

分娩中に(第一啼泣前に)サーファクタントを咽頭内に注入することの効果を評価した無作為化対照試験や準無作為化試験はなかった。観察研究の結果からは、安全かつ実行可能で、効果的であることが期待される。


Singh N, Halliday HL, Stevens TP, Suresh G, Soll R, Rojas-Reyes MX.
Comparison of animal-derived surfactants for the prevention and treatment of respiratory distress syndrome in preterm infants.
Cochrane Database Syst Rev. 2015(12):CD010249. PMID: 

乳児に対してベラクタント(牛由来・改良型)またはポラクタントアルファ(豚由来)を投与する比較試験において、退院前死亡、「修正 36 週での死亡または酸素投与」、治療を要するPDA、サーファクタントの追加投与はベラクタントの方が多かった。ただし、ポラクタントアルファの方が投与量が多かったことを考えると、用量の違いをみているだけなのかもしれない。

乳児にサーファクタントを投与するに当たって、ベラクタント(牛由来)がいいかポラクタントアルファ(豚由来)がいいかはよく分からない。


Ardell S, Pfister RH, Soll R.
Animal derived surfactant extract versus protein free synthetic surfactant for the prevention and treatment of respiratory distress syndrome.
Cochrane Database Syst Rev. 2015;8:CD000144. PMID: 26301526

呼吸窮迫症候群に対する動物由来サーファクタントの投与は、合成界面活性剤の投与と比較して、人工呼吸器サポートの必要性が早期に改善し、気胸が減少し、死亡が減少した。動物由来サーファクタントは、壊死性腸炎および脳室内出血の増加と関連する可能性があるものの、重症脳室内出血は増加しない。

サーファクタントは合成界面活性剤よりも動物由来のものがいい。


Rojas-Reyes MX, Morley CJ, Soll R.
Prophylactic versus selective use of surfactant in preventing morbidity and mortality in preterm infants.
Cochrane Database Syst Rev. 2012(3):CD000510. PMID: 22419276

RDS 発症のリスクがある児に対する予防的サーファクタント投与は、RDS と診断した児に対する選択的サーファクタント投与と比較して、エアリークと死亡のリスクを減少させない(出生前ステロイド投与や CPAP が広まる前の研究では減少したが……)。「選択的サーファクタント投与+早期 CPAP で安定化」で予後が良い。

昔のことはともかく、今は予防的サーファクタントは必要ない。


Bahadue FL, Soll R.
Early versus delayed selective surfactant treatment for neonatal respiratory distress syndrome.
Cochrane Database Syst Rev. 2012;11:CD001456.

補助換気を必要とする RDS の乳児に対する早期の選択的サーファクタント投与は、RDS が悪化するまで待機した場合と比べて、急性肺損傷のリスク(気胸や肺間質性肺気腫のリスクの減少)、新生児死亡や慢性肺疾患のリスクが減少する。

RDS と診断したら、悪くなる前にさっさとサーファクタントを投与した方がよい。


Soll R, Ozek E.
Multiple versus single doses of exogenous surfactant for the prevention or treatment of neonatal respiratory distress syndrome.
Cochrane Database Syst Rev. 2009(1):CD000141. PMID: 19160177

RDS と確定診断された児に対する動物由来サーファクタントの複数回投与は、単回投与と比較して、酸素需要と呼吸器条件を改善し、死亡および気胸のリスクを減少させた。

RDS の児において、サーファクタントの単回投与で呼吸障害が改善しないなら、複数回投与を検討すべき。


Abdel-Latif ME, Osborn DA.
Nebulised surfactant in preterm infants with or at risk of respiratory distress syndrome.
Cochrane Database Syst Rev. 2012;10:CD008310.

RDS の予防または早期治療を目的とした、早産児に対するサーファクタントのネブライザー投与について、その効果を支持するデータも否定するデータもない。やるにしても臨床研究としてやりましょう。


Abdel-Latif ME, Osborn DA.
Laryngeal mask airway surfactant administration for prevention of morbidity and mortality in preterm infants with or at risk of respiratory distress syndrome.
Cochrane Database Syst Rev. 2011(7):CD008309. PMID: 21735428

RDS の早産児(出生体重 1200g 以上)に対するラリンジアルマスクでのサーファクタント投与は、短期的に酸素需要を減少させるかもしれないという小規模研究があるが、有意差はなかった。やるにしても臨床試験としてやりましょう。


Stevens TP, Harrington EW, Blennow M, Soll RF.
Early surfactant administration with brief ventilation vs. selective surfactant and continued mechanical ventilation for preterm infants with or at risk for respiratory distress syndrome.
Cochrane Database Syst Rev. 2007(4):CD003063. PMID: 17943779

早産児に対する「早期のサーファクタント投与+nasal-CPAP 管理への移行」は、「待機的・選択的にサーファクタント投与+呼吸器条件が下がるまで人工呼吸器管理継続」と比較して、人工換気、BPD、エアリークを減少させる。治療閾値が低い(FiO < 0.45)となおよい。治療閾値が高い(FiO > 0.45)と動脈管開存症のリスクが上がる。

悪くなる前に INSURE を行うことで、BPD とエアリークを減らせる。



ステロイド投与


Roberts D, Brown J, Medley N, Dalziel SR.
Antenatal corticosteroids for accelerating fetal lung maturation for women at risk of preterm birth.
Cochrane Database Syst Rev. 2017;3:CD004454. PMID: 28321847

早産のリスクのある女性に対する 1 コースの出生前コルチコステロイド投与は、胎児の肺の成熟を促進を目的として、ルーチンで施行すべき。ただし、多胎妊娠などのハイリスク群や感染率が高い環境(医療資源の乏しい国・病院)のリスク・ベネフィットに関するデータは乏しい。
展望 最適な用法用量を含め、先行研究のデータを用いた解析が望ましい。医療資源の乏しい環境での有害事象の可能性については、前向き研究で検討すべき。

先進国では、早産のリスクがある母体に対し、出生前コルチコステロイドを 1 コース投与すべき。


Utama DP, Crowther CA.
Transplacental versus direct fetal corticosteroid treatment for accelerating fetal lung maturation where there is a risk of preterm birth.
Cochrane Database Syst Rev. 2018;6:CD008981. PMID: 29900526

超音波ガイド下で副腎皮質ホルモンを胎児に直接筋肉注射することは可能であるが、その有効性と安全性は不明確である。


Doyle LW, Cheong JL, Hay S, Manley BJ, Halliday HL.
Early (< 7 days) systemic postnatal corticosteroids for prevention of bronchopulmonary dysplasia in preterm infants.
Cochrane Database Syst Rev. 2021;10:CD001146. PMID: 34674229

出生後早期(7日未満)のヒドロコルチゾンの全身投与 は、プラセボと比較して、退院時死亡・「BPD または死亡」・動脈管開存症を減らし、消化管穿孔を増やす。
出生後早期(7日未満)のデキサメタゾンの全身投与は、プラセボと比較して、BPD・「BPD または死亡」・動脈管開存症・未熟児網膜症を減らし、高血糖・高血圧・消化管出血・消化管穿孔・脳性麻痺・「死亡または脳性麻痺」を増やす。
展望 長期的な神経学的予後を評価する RCT が必要である。

早産児に対して出生後早期(7日未満)にコルチコステロイドを全身投与する場合、デキサメタゾンは強力だが合併症も高い。生命予後を考えるとヒドロコルチゾンが良さそうだが、長期的な神経学的予後は未だ不透明。


Doyle LW, Cheong JL, Hay S, Manley BJ, Halliday HL.
Late (≥ 7 days) systemic postnatal corticosteroids for prevention of bronchopulmonary dysplasia in preterm infants.
Cochrane Database Syst Rev. 2021;11:CD001145. PMID: 34758507

出生後後期(7日以降)のコルチコステロイドの全身投与 は、プラセボと比較して、脳性麻痺を増やすことなく、死亡・BPD・「死亡または BPD」のリスクを減らす。長期的な神経発達予後を示す研究はない。「人工呼吸からの離脱が困難な児」がよい適応だろう。
展望 出生後後期のコルチコステロイドの全身投与に関する今後の RCT では、主要アウトカムとして神経発達障害なき長期生存を含めるべき。

早産児に対して出生後後期(7日以降)にコルチコステロイドを全身投与すると、死亡や BPD のリスクを減らすことができる。長期的な神経学的予後は未だ不透明ながら、抜管困難な児はよい適応かも。


Shah VS, Ohlsson A, Halliday HL, Dunn M.
Early administration of inhaled corticosteroids for preventing chronic lung disease in very low birth weight preterm neonates.
Cochrane Database Syst Rev. 2017;1:CD001969. PMID: 28052185

極低出生体重児に対する吸入ステロイドの早期投与は、「修正36週時点の死亡または CLD」の発生率を有意に減少させる。
展望 投与経路や投与スケジュール毎の利益と有害作用を研究すべき。吸入ステロイドの利益や有害作用には、短期なものだけでなく神経発達などの長期的なものも含まれる。

極低出生体重の CLD 予防には、吸入ステロイドを早期投与するのがよさそう。


Shah SS, Ohlsson A, Halliday HL, Shah VS.
Inhaled versus systemic corticosteroids for preventing bronchopulmonary dysplasia in ventilated very low birth weight preterm neonates.
Cochrane Database Syst Rev. 2017;10:CD002058. PMID: 29041034

人工呼吸器管理中の早産児に対する吸入ステロイドの早期投与がステロイドの全身投与より優れている、というエビデンスはなかった。
展望 吸入ステロイドは全身性ステロイドよりも副作用が少ない可能性があり、長期的影響を検討する無作為化対照試験がさらに必要である。

吸入ステロイドは、ステロイドの全身投与よりも副作用が少ないことが期待されるが、そのエビデンスはない。



その他の薬剤


Stewart A, Brion LP, Soll R.
Diuretics for respiratory distress syndrome in preterm infants.
Cochrane Database Syst Rev. 2011(12):CD001454. PMID: 22161366

RDS の早産児に対するルーチンでのフロセミド投与を支持するデータはない。



新生児気胸


Bruschettini M, Romantsik O, Zappettini S, O'Donnell CP, Calevo MG.
Needle aspiration versus intercostal tube drainage for pneumothorax in the newborn.
Cochrane Database Syst Rev. 2019;2:CD011724. PMID: 30707441

新生児気胸の管理としての穿刺吸引とドレーン留置に関しては、有効性と安全性を確立するだけのエビデンスがない。



肺出血


Aziz A, Ohlsson A.
Surfactant for pulmonary haemorrhage in neonates.
Cochrane Database Syst Rev. 2020;2:CD005254. PMID: 32012227

肺出血をきたした新生児に対するサーファクタント投与 はその効果を示唆する研究はあるものの、無作為化比較試験は確認できなかった。

新生児における肺出血に対するサーファクタントの効果は、無作為化比較試験がないからよく分からない。



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