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FIDE Album 2016-2018より

冬の寒さも厳しくなってきた折、皆様いかがお過ごしでしょうか。
チェスプロブレムの世界においては、11月にチェスプロブレム世界大会がアラブ首長国連邦(フジャイラ)で開かれました。私は現地参加はしませんでしたが、創作トーナメントに2作品応募し、そのうち1作品でCommendationを得ることができました。

さて、世界大会内でもアナウンスがあったとのことですが、FIDE Album 2016-2018が発売されました。これは、2016年から2018年までに出たチェスプロブレムの中ですぐれた作品を集めた作品集で、現在はオンラインで購入することもできるようになっています(https://www.fidealbum.com/)。

私も2016-2018のFIDE Albumを上記サイトから購入したため、内容を紹介していきたいと思います。なお、掲載作品は2000作近くあるので、興味を持たれた方はぜひ購入されることをお勧めします。
以下、ジャンルごとに分けて各1作品ずつご紹介します。

2手メイト

Stojnic, D. Politika 2016

#2 (11+11)

まずは、シンプルな2手メイトからです。初手は使っていない駒を使う手で自然ですが、黒のディフェンスをすべて見つけきれるでしょうか?

1.Qc4! (2.Qxd4#)
1…Bxe3 2.Sg3#; 1…Shxf5 2.Bg2#; 1…dxe5 2.Sd6#; 1…Sgxf5 2.Rg4#; 1…Sf3 2.exd3#; 1…Rd5 2.Qxd3#; 1…Qxe5 2.Sg5#; 1…dxe2 2.Sd2#

初手はQxd4#を狙う手ですが、黒には7通りの受け方でd4に駒を利かせることができます。しかし、その7通りに対して白の2手目の詰まし方が全て異なるという記録作で、しかも7通りが全て黒Kの逃げ道を塞ぐ手になっています。(1…dxe2 2.Sd2#だけそのようになっていませんが、これはおまけのようなものです)
この作品で、d4に駒の効きを足すため黒Kは5か所の逃げ道を塞がれることになります(f5が2回、e5が2回塞がれているため)。これを6-8か所にすることはできるでしょうか? 8か所は通常のチェスでは不可能なことは容易にわかりますが、それではどのようなフェアリー条件を追加すれば可能でしょうか? (Pao/Vaoは自明ですね)

3手メイト

Agapov, I. A. Gulyaev-110 MT, Kudesnik 2017-18 1st Prize

#3 (9+8)

100年前の雰囲気を残す3手メイトです。もちろん、これは作品に新規性がないということではなく、古いテーマを徹底的に追い求めた結果現代的な装いとなっていると感じます。

1.Qb7! (2.Qf3+ Kxe5 3.Bf6#)
1…dxe5 2.Bxg5+ Kg4 3.f6#
1…Rxg6 2.Sd3+ Kg4 3.fxg6#
1…Rg3 2.Rg4+ Rxg4 3.Sd3#
1…Rg3 2.Rg4+ hxg4/Kxe5 3.Sg6/Re4,Qe4#
1…Kxe5 2.Re6+ Kd4/Kf4,Kxf5,Bxe6 3.Bd6/Qe4#
1…d5 2.Qxd5 ~ 3.Bxg5,Qd4#

初手はいきなりナイトをサクリファイスする1.Qb7!が解です。素晴らしいのはこれだけではなく、1…dxe5、1…Rxg6、1…Rg3 2. Rg4+ Rxg4という3解が、盤上にあるキングとポーン以外の駒がすべて使われたモデルメイト(黒キングの逃げ道がすべて1つの白の駒のみで塞がれており重複がない)になっていることです。
驚くべき初手と3つ以上のモデルメイトをもつ3手メイト、というのはBohemian Schoolと呼ばれた19-20世紀はじめごろのチェスプロブレム流派で追及されたテーマです。FIDE Albumの解説には"Bohemian Octet"と書かれていますが、これは白の8つのピース(ポーン以外)がすべて働くようなBohemian School流の作品である、ということでしょう。

4手以上のメイト

Popov, G. Moscow Tourney 2016 1st Honourable Mention

#23 (5+10)

次は23手メイトです。これだけ長いと身構えてしまいそうですが、だいたいの場合このような作品はメインラインが1つだけで、しかもこの作品のように黒から白キングにチェックがかけられるような初形の場合は白の手はチェックの連続であることがほとんどです。

1.Bh3+ Kg1 2. Rg5+ Kh1 3. Bg2+ Kg1 4. Be4+ Kf1 5. Bd3+ Ke1 6. Rge5+ Kd1 7. Be2+ Ke1 8. Bc4+ Kd1 9. Ke4+ Ke1 10. Bd2+ Kd1 11. Bf4+ Ke1 12. Kd4+ Kd1 13. Be2+ Ke1 14. Bg4+ Kf1 15. Bh3+ Kg1 16. Rg5+ Kh1 17. Bg2+ Kg1 18. Be4+ Kf1 19. Bd3+ Ke1 20. Rde5+ Kd1 21. Be2+ Ke1 22. Bg4+ Kf1 23. Bh3#

これは解説するよりも並べていただいたほうが楽しめると思うので、ぜひ並べてみてください。やることはRg5+の時にビショップに干渉しないようにビショップをh6からf4に移動させるということで、Bf4+がチェックになるようにする必要があるためそれまでの工夫があるといった構成になっています。

スタディ

Hornecker, S. & Minski, M. M.Dvoretsky-70 MT 2017, Commendation

Win (7+3)

白先白勝ちです。
黒には1…Rxh3#と1…Qf2+ 2.Kh1 Qg2(g1)#があるので、白はすぐにアクションを起こす必要があります。幸い、黒キングがeファイルに行ってe8=Qがチェックで入れば白は勝てるので、そのことを使って指していきます。
1. Be2+!が好手で、黒は1…Ke1しかありません。 ここで2. Qd3とすれば 2…Qf2+ 3. Kh1のあとにチェックが続かず、白勝ちのように見えますが、黒には 3…Qg1+ 4. Kxg1 Rg4+!とステイルメイト狙いの手がありました。 これに対抗するために、白も5. Qg3+!とクイーンを捨てます。そののち、5…Rxg3+ 6. Kh2 Kf2で黒にはパペチュアルチェックの狙いが出てきますが、 7. Bf3! Rxg7 8. e8=S!と外すのがうまく、 8…Re7 9. Bh5 Rd7 10. Sf6 Rxd2 11. Se4+までで白勝ちとなります。途中の細かい分岐は記載していないので、興味がある方はぜひ検討してみてください。

ヘルプメイト

Kovacevic, M. G. Denkovski MT 2017-2018 1st Prize

H#3 (3 sols.) (4+14)

3手3解のヘルプメイトです。3解のヘルプメイトはCyclic-ZilahiをはじめとするCyclic系のテーマが多いですが、ここで見られるのは全く異なるテーマです。

1.Bg1 Bxf6 2.Bc5 Bd8 3.Rd6 Sxa5#
1.Rh7 Bxf4 2. Rc7 Be3 3. Bd6 Sd8#
1.Qd3 Bh4 2. Kb5 Bf2 3. Sc6 Sd6#
(1.Qd3 Bxf6? 2. Kb5 Bd4 3. Sc6 Sd6? 4. Rxd6; 1.Qd3 Bxf4? 2. Kb5 Be3 3. Sc6 Sd6? 4. Bxd6)

最初の2解はB/Rの対比です。3解めは一見関連がないですが、最初の2解においてpositiveな効果を持っていたラインオープン(Bxf6/Bxf4をすることで黒のB/Rを必要な場所に運ぶ)がnegativeな効果(d6の駒取り)を持つようになっています。テーマとしては3手が必要で、かつオリジナルな3解の扱いで、とても面白い作品です。

セルフメイト

Kozyura, G. Problemist Ukrainy 2016, 1st Prize

S#7 (9+5)

Kozyuraさんの作品は、この作品のように黒の駒が少ない中で複数の変化の中に明快な対比があることが多いです。

1.Qg1? h5!; 1.Qf4? hxg5!
1.Re6!
1…hxg5 2. Qg1 g4 3. Bd3 g3 4. Re2+ Kc1 5. Re1+ Kd2 6. Qg2+ Kxd3 7. Rd1+ Rxd1#
1... h5 2. Qf4 h4 3. Kg1 h3 4. Rf2+ Kc1 5. Rf1+ Kd2 6. Qh2+ Kxe3 7. Re1+ Rxe1#

2解でChameleon-Echoになっており、かつBanny Themeのパターンになっています。白の手順が精妙に確定しているのも面白さを増しています。

フェアリー

Heinonen, U. The Problemist 2018-I, 1st Prize

H#2 (4 sols.) Anti-Circe

Anti-Circeは、駒取りを行うと取った駒が元の位置に戻ります。

1.Sbxd2(+Sb8) bxc8=S(+Sb1) 2.e1=S Sc3#
1.Sfxd2(+Sb8) bxc8=B(+Bf1) 2.e1=B Bg2#
1.e1=R bxc8=R(+Rh1) 2.Rxe6(+Ra8) Rh5#
1.e1=Q bxc8=Q(+Qd1) 2.Qxe6(+Qd8) Qb3#

白と黒が同じ駒にプロモーションするBabson Taskで、しかもHelpmate of the Futureタイプの4解になっています。H#2という短編作ですが、逆にBabson Taskは短編のほうが難易度が高くなると思います(アンダープロモーションの意味を求める必要があるため)。

レトロ

Kousaka, K. & Hashimoto, S. Problem Paradise 2015-16 1st Prize

PG 20.5 (16+13)

1.b3 Nf6 2. Bb2 Ne4 3. Bxg7 Rg8 4. Bb2 Rg3 5. h4 Rf3 6. exf3 f6 7. Bb5 Kf7 8. Bxd7 Nc6 9. Bh3 Qd6 10. Bc1 Qh2 11. g3 e5 12. Bf1 Bh3 13. Bb5 Rd8 14. Ke2 Rd5 15. Qe1 Nd8 16. Bd7 Rb5 17. Kd3 Bb4 18. Kc4 c5 19. Kd5 Bf1 20. Bh3 Bd3 21. Bf1

Problem Paradise誌からの掲載作です。(ちなみにProblem Paradise誌からはこの作品を含めて11作がFIDE Album 2016-18に掲載されています)
白のBの一方は盤上を2周し、もう一方はg7Pを取って元の位置に戻ります。
ぜひ並べて、なぜその手順が限定されているのかをお楽しみください。

おわりに

FIDE Albumは、チェスプロブレム傑作選であり、さまざまなアイディアを表現したプロブレムが数多く収録されています。上記で紹介した者はほんの一例ですので、この記事を読んで興味を持たれた方は、ぜひ購入をお勧めいたします。

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