チェスプロブレム解答入門(4) 2手メイトの解き方
今までの全3回で、チェスプロブレムの解答競技に出るための知識を書きました。今回はプロブレムの解き方に関する紹介です。通常のタクティクスを解くときとは異なる考え方が必要になりますので、その一部を紹介しようと思います。
なお、この分野に関しては手に入れやすい良い本が2冊出ていますので紹介します。
Howard, K. (水野優訳)「プロブレムの解き方」チェストランス出版. (https://www.amazon.co.jp/dp/490755818X)
Nunn, J., Solving in Style. Gambit. (https://www.amazon.co.jp/dp/1901983668)
タクティクスとの違い
通常のタクティクス問題においては、多くの場合は強制手から読み始めます。つまり、チェック、駒取りを読み、それがうまくいかなさそうな場合に初めて別の手を読む、という順序になります。
しかし、現代のチェスプロブレム(特に2-3手の短手数のもの)では強制手が答えになることはほとんどありません。なぜなら、強制手が解にならないような問題のほうが面白い手筋が多く使えるからです。よって、手を考える順番を変える必要があります。
なお、解き方はここに紹介する1つではありません。あくまでも一例として考えていただければ幸いです。
2手メイトを考える
Block problem
それではさっそく、本題に入ります。
今回は2手ダイレクトメイトを考えていきましょう。復習すると、2手ダイレクトメイト(#2)とは「白が初手を指し、次のどのような黒の手に対しても白が2手目で黒キングをメイトにする手を求める」という設定です。
たとえば以下のようなプロブレムです。
Loshinsky, L., 1st-2nd HM, Tijdschrift van den Nederlandschen Schaakbond, 1930
白先2手メイトです。
まず解く際の手順として私が採用しているのは、「黒の強いディフェンスを考える」ということです。例えば、白へのチェックや駒取り、黒キングが動く手などです。これらの手はディフェンスとして強力であるため、そのような手に対して2手目でメイトする手があるかどうかをチェックし、もしなければその手に対して2手目でメイトできるような初手を探します。
ここでは1…Rxc7や1…Bxd4が該当します。それらの手に対して、白は2手目でチェックできることを確認しておきます。
次の手順としては、「白がパスしたとき、黒の手に対して2手目でメイトになるような手を考える」ということです。例えば上のLoshinskyのプロブレムだと、
1…Bb7とa7のRが縦に動く手には2.Re7#
1…Bc6には2.Rxc6#
1…Rb7には2.Rxc6#
1…Rxc7には2.Sxc7#
1…f6には2.Qe4#
1…f5には2.Qd6#
1…Rg7には2.Qe5#
1…Bg7とh7のRが縦に動く手には2.Qxf7#
1…Bf6には2.Qg4#
1…Bxd4には2.Sxd4#
となります。
さて、これで黒の手が全てであることがわかります。つまり、白はここでパスをすれば黒はツークツワンクとなり、上述のいずれかの手を指さざるを得なくなります。
よって1.Bb3!が答えです。他の手では、上記のいずれかが指せなくなってしまうことに着目ください。(例えば1.Kd8? Bf6+!など)
Threat problem
さて、上記はすべての黒の手に対して白のメイトが準備されているパターンでした。しかし、出題される多くの問題においては、黒の手に対してメイトが準備されているわけではありません。その場合には、白の1手目で次にメイトの狙い(Threat)を準備する必要があります。
Einat, P., Avner, U., Tauber, T. 1st Prize, Bournemouth, 1989
黒の強いディフェンスは1…Bxb3, Bxe3, Qxc4ですが、全てメイトが準備されています。
この場合は、白がパスしたとき、黒の可能なすべての手に対して白のメイトが準備されているわけではありません(すべて確認する必要はなく、たとえば1…a2に対してメイトが準備されていないことがわかればよいです。1…a2が生む局面の変化としては、b2への効きが外れるのでそこに白が駒を移動してチェックメイトにできることですが、それがどうあっても不可能であることがわかります)。
よって、白はここで何か狙いを作る必要があります。白Kを動かして2. Rb5#の狙いを作るのが最も自然ですが、その際に1.Ka6?に1…Bxe3!、1…Kxa7?に1…Bxb3!というディフェンスがあります。よって、1. Kxc7! (2. Rb5#)が解です。1…Bxe3, 1…Bxb3, 1…Qxc4, 1…a6に対してすべて2手目でメイトになることをご確認ください。
考え方のポイントとしては、チェスプロブレムにおいてはすべての駒に意味があるように駒が配置されていることが挙げられます。白のBa8が置かれており、現在全く役に立ってないことから、これが必ず解に関わる駒であるということになります。また、白のRb4も一見黒Kの逃げ道を塞ぐのに役立っていそうですが、Pb3/e3/f3があるので役に立っておらず、これも何か解に関係しそうであるということがわかります。そこからBa8とRb4が必ず使われるように手を考えていって解を見つけていくのが簡便だと思います。
余談: 黒のa3のポーンは主変化1. Kxc7!に対して全く役に立っていませんが、紛れである1.Kxa6?などにおいて黒のディフェンスを唯一にするという意味を持っています。(1…Ra1+を防いで、1…Bxe3が唯一のディフェンスになっています。ナイトがピンされて2. Sxe3??ができません)
このように、紛れにおいて黒のディフェンスを唯一にするための駒というのは「役に立っている駒」としてみなします。少し直感に反するかとも思いますが、現代のプロブレムにおいては紛れも解の総体の一部として見るのでこのようになっています。
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