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名作を訪ねる(6)

第6回

第6回はエンドゲームスタディを取り上げます。
エンドゲームスタディは、与えられた局面から勝ち、あるいは引き分けになるような手順を見つけるという設定です。実戦(Over the board)にきわめて近いのですが、その一方で実戦ではなかなか見られない驚くべきコンビネーションなども見られます。
実戦から取材された手順が用いられることはありますが、実戦の局面がそのまま用いられることはほとんどありません。

L. Mitrofanov, 1st Prize Rustaveli MT 1967 (version)

Win (7+5)

Mitrofanov作品といえばまずこれが挙がるくらいの有名な作品です。
白番から始めて勝ちを目指します。

ちなみに、エンドゲームを解く上で最も難しいのが、「分岐がいくつかあるがどのラインが作者が意図したライン(メインライン)かわからない」ということです。これはとても難しい問題で、解答選手権は現在は「ラインを複数書いてもよい」となっています。基本的には、ある黒の応手に対して白の応手がただ一つだけ存在するようなラインがメインラインです。

さて、まずはとにかく1.b6+としましょう。もし1…Kb8なら2.g7で簡単です(実際には簡単ではないのですが、次の3.g8=Q+からのメイトスレットが受かっていません)ので、1…Ka8がメインラインになります。
ここで慌てて2.g7?としてしまうと、2…h1=Q 3.g8=Q+ Bb8 4.a7のときに黒のQが4…Qa1+と動く手があります。そのため、1段目をカットしておく意味で2.Re1!とRを捨てます。
2.Re1!に対しては2…Sc4+ 3.Kb5の交換を入れる手も黒にはありますが、その場合は少し形が変わるのでこの後の黒のディフェンスが成立しなくなります(後述)。よって2.Re1に対しては2…Sxe1として、3.g7 h1=Q 4.g8=Q+とお互いにQを作り合います(次図)。

After 4.g8=Q+

さて、これに対しては4…Bb8とせざるを得ず、5.a7で白勝ちに見えます。黒Qからのチェックは無く、次にb8を取る手が受かりません。
しかし、ここで黒には5…Sc6+! 6.dxc6 Qh5+!という抵抗がありました(なお、先ほど2…Sc4+ 3.Kb5の交換を入れると5…Sc6+が出来なくなっています)。

After 6…Qh5+!

この局面がこのスタディのハイライトです。もし白が7.Ka6なら黒には7…Qe2+からのperpetual checkがあり、ドローになります。さらに白Kが逃げてQ交換になると、黒は…Bxa7からポーンを2つ取って、最後のcポーンがプロモーションできないのでその場合も白は勝てません(KBS対KはKBS側の勝ちなので白はおおむね負けです)。

万事休すかと思われましたが、白には7.Qg5!!という強烈な手段がありました。全く無意味にQを捨てる手のように見えますし、黒のBもピンが外れて動けるようになります。しかし、この手が唯一この局面で勝ちに結び付く手です。
ポイントは7…Qxg5 8.Ka6のあと、黒Qのチェックがないということです。しかしそれでも、黒には様々な抵抗があるように見えます。白Pさえプロモーションできなければ黒勝ちなので8…Bxa7とするのが普通です。
それには最後の絶妙手9.c7!として白勝ちになります。スレットは10.b7#と10.c8=Q+で、黒は両方を受ける手がありません(最善の抵抗は9…Qd5 10.c8=Q+ Bb8 11.b7+ Qxb7 12.Qxb7#。なお、8…Qb5+ 9.Kxb5 Bxa7をメインラインとしている資料もあります。その場合も本譜と同様の手で白勝ちとなります)。

次回予定

次回はふたたび2手メイトを取り上げる予定です。

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