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名作を訪ねる(11)


第11回

第11回はフェアリーです。前回はフェアリー駒について紹介したので、今回はフェアリー条件について紹介します。

フェアリー条件は、通常のチェスのルール(Laws of Chess記載のもの)に対して追加のルールを設定するものです。例えば、Checkless Chessという条件では、メイト以外のチェックになる手が禁止されますし、Circeという条件では取られた駒が初期位置に復活します。このように、指すことができる手に制約が付く、あるいは通常の指し手に追加して可能なことが増える、などのバリエーションがあります。
このようなルールを使ってチェスプロブレムを作る意味は、ひとことでいうと「チェスプロブレムとして実現できることが増えるから」となります。不可能なことを定めているのに(範囲を狭めているのに)チェスプロブレムとして実現できることが増えるというのは意味が分からないようですが、数学において考える範囲に制約を与えることで成り立つ定理が存在するようなものと考えてください。

今回紹介するフェアリー条件はCirceです。これは、以下のように定義されます。
ある駒(キング以外)が取られたとき、取られた駒はその駒の初期位置に再生する。駒取りと再生は同時に生起する。再生がセルフチェックになるような駒取りは禁じられる。チェックをかけられているとき、駒が再生することで再生した駒によりチェックを防ぐことができる場合はその手は合法である。
なお、可能な初期位置が2つ以上ある場合は以下のとおりとする。
・ルーク、ナイトは取られたマス目の色と同じ色に再生する。
・ポーンは取られたファイルと同じファイルに再生する。
再生したルークと初期位置にいるキングを用いてのキャスリングが可能である。ただしその場合のキャスリングの細則は通常通り。

駒の再生を、その手の後ろに[+{色}{駒座標}]で示すこととします。たとえば、白のビショップがf1に再生するときは[+wBf1]です。

Uri Avner, 1st Prize Israel Ring Tourney 1974-1988

H#2 Circe
b,c,d,e) d2->e3,f4,g5,h6

この形では、白のルークがh1に再生すれば簡単にメイトになります。しかし、白のルークがh1に再生するということは黒が白のルークを白マスで取っていることになりますが、単純に取ることはできません(たとえば、1.Qxb5+ Kf8 2.Qxa6??[+wRh1]はセルフチェックになるため合法ではありません)。


a) 1.cxd2[+wBc1] Rc6 2.Qxc6+[+wRh1] Bxd2[+bPd7]#
b) 1.dxe3[+wBc1] Re6 2.Qxe6+[+wRh1] Bxe3[+bPe7]#
c) 1.exf4[+wBc1] Rh5 2.Qxh5+[+wRh1] Bxf4[+bPf7]#
d) 1.Bxg5[+wBc1] Rxg8 2.Qxg8+[+wRh1] Bxg5[+bBf8]#
e) 1.Sxh6[+wBc1] Ra8 2.Qxa8+[+wRh1] Bxh6[+bSb8]#

チェスプロブレムにおいては、同じテーマを形を変えて並列に繰り返すことがあります。この作品はその好例で、手順の意味付け(matrixとよびます)が同じものが5回繰り返されます。
さらに考えたいのは、この手順を6回繰り返すことは不可能であるということです。白キングをどこにおいても、黒駒の再生がその前の手のチェックをブロックするような位置関係は最大5つしかありません。その意味で、本作は破られない記録作となっています。

チェスプロブレムの歴史において永久に記憶されるべき作品です。

次回予告

次回はスタディを取り上げます。

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