エンゼルフレンチ

小学生の頃、交通事故に遭い半年間入院していた。味気ない病院食と馴染めない環境が嫌でしかたなかった。見舞いに来る母に消灯のチャイムが聞こえないように咳払いをして、どうにか1人にならないようにした。
そんなある日、母が差し入れで買ってきてくれたのがミスドだった。カーテンを締めて、誰にもバレないように、ひっそりと、細長い箱を開ける。なかでも、好きだったのがエンゼルフレンチ。チョコレートと生クリームは、入院中の僕にとってケーキだった。それから、外泊のたびにミスドに寄った。
結婚して、子供ができて、娘にドーナッツを買っていく。好きなの食べていいよ。でも、エンゼルフレンチはパパのだよ。

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