見出し画像

なりわいで決まってるって本当ですか?

日常生活の中で、他の人の意見を参考にすること、よくありますよね。横断歩道で信号を待っているとき、本を読んでいたりスマホをみたりしていて、ふと隣の人につられて歩きだしてしまい、車にひかれかけたことはないでしょうか。それ以外にも、旅先で道を尋ねたり、amazonや食べログの評判を参考にすることは、よくあると思います。

けれども、他の人の意見に頼る度合いには、個人差があることも知られています。以前の記事「まねばかりなのは何のせい?」で、まねに頼る度合いに文化差があることを紹介しました。まねすることは、他の人と同じことをすることなので、他の人の意見を参考にしているのと同じです。では、そうした差は、一体何に起因しているのでしょうか?

なりわいが原因?

Glowacki博士とMolleman博士は、なりわいがその原因のひとつではないかと考えました。なりわいとは、たとえば狩猟採集とか農耕のような、どのようにして生計をたてているかのことです。詳しくは後で説明しますが、なりわいによって、どんな人びとに出会うかであったり、情報を手に入れる必要性も変わってきます。こうした違いが、他の人の意見を参考にするかどうかに影響するとGlowacki博士とMolleman博士は考えました。

著者らは、この仮説を検証するため、エチオピアのNyangatomとよばれる人びとを対象に実験を行いました(※1)。Nyangatomには、牧畜に従事する人びと、小規模な農業(※2)を営む人びと、賃金労働に勤しむ人びとと、なりわいが人によって異なります。同じ言語を話し、なりわいが異なっていても同じ民族集団に属しているという認識はお互いに持っています。そのうち多いのは牧畜ですが、たとえば家畜を盗まれたり、病気で死んでしまったりして、なりわいを変えることがあるそうです。

Glowacki博士とMolleman博士は、牧畜生活や都市居住では、他の人の意見を参考にする度合いが大きいと考えました。牧畜では、環境(たとえば遠くの草地や水場が利用できるか)などに関する情報を、さまざまな人から集めなければなりません。また、都市居住者も、日々の生活で見知らぬ人とやりとりをしなければなりませんし、新しい技術の情報に触れる機会も多くなります。

反対に、小規模農業では、他の人から情報を手に入れる必要は少なそうです。作業は家族単位ですし、収穫物はほとんど家族内で消費されます。そのためあまり他の人が持つ情報に依存しないのではないかと、博士らは考えました。

高得点の箱をみつける

実験の対象としたのは、Nyangatomの男性75人(牧畜25人、小規模農耕24人、都市居住者26人)です。参加者は、タブレット端末を渡され、あるゲームをプレイします。ゲームの内容は単純で、画面上に出てくる2種類の箱から片方を選ぶだけです。片方は赤で、もう片方は青です。箱を選ぶと得点がもらえるのですが、2種類の箱には、高得点のものと、低得点のものがあります。そして、各参加者は、この選択を15回繰り返すのですが、得点は累積していき、最終的な得点の合計が、参加者の報酬に結びつきます。したがって、参加者が目指すのは、高得点の箱が赤なのか青なのかを特定することです。

ゲーム自体は単純ですが、高得点の箱が簡単にはわからないように、ちょっとした仕掛けがしてあります。どちらの箱も、ランダムに得点を上下させており、得られる得点がちょっとずつ変わるようになっています。もちろん、平均すると高得点の箱を選んだほうが高い得点が得られます。

自分で見つけるか、それとも他人の意見をきくか

さきほど選択が15回あるといいました。2回目以降の選択では、参加者は事前に情報を与えられるのですが,ふたつの情報のどちらか一方を選ぶことになります。ひとつめは、前回の自分の得点を確認することです。ふたつめは、前回他の参加者3人が下した選択をみることです。実は、この実験を始める前に、3人の人たちに、同じゲームをプレイしてもらっています。彼らは他の人の選択をみることはできません。つまり、毎回、自分の前回の得点を確認しながら、独力で箱を選んでいくのです。著者らが注目したのは、(事前にプレイしてもらった3人ではなく)実験の参加者が、自分の選択の前に、事前にプレイした3人の選択を確認する頻度です。なりわいによって、他の人たちの選択をみる頻度が違うのではないかと予想したのです。

さて、結果です。小規模農業を営むひとたちに比べ、牧畜をなりわいにしている人びとや、都市居住者は、他の人の選択をみようとする頻度が高い傾向にありました。小規模農業を営む人たちで、他の人の選択をみようとしたのは全体の3割ほどでしたが、牧畜民や都市居住者は6割を超えていました。著者らの予想通り、なりわいによって他の人の選択に依存する度合いは違うようです。

おわりに

今回の研究が示唆しているのは、どのように暮らしの糧を得ているかによって、社会との相互作用の仕方や情報獲得の必要性が違っていて、さらにそれがタブレット端末を使った実験にも表れているということです。ひょっとするとわれわれも、仕事でどれぐらい人の意見を参考にしてるかが、生活の他のところにも表れているかもしれません。

(執筆者:tiancun)

※1 Glowacki, L. and Molleman, L. (2017) Subsistence styles shape human social learning strategies. Nature Human Behavior 1, 0098.

※2 horticultureの訳として使っています。通常は「園耕」と訳されます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?