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知識の不足を補い合って

共同研究という言葉があります。ひとりひとりの研究者が持っている知識や技術だけでは問題を解決するには不十分な場合があるので、それぞれの得意技を組み合わせることで、共同して問題解決にあたるのです。協力して問題を解くことは、日常生活の中でもよくあると思います。団体スポーツは想像しやすい例だと思いますし、「そんなの仕事だと当たり前」と思われることでしょう。

われわれヒトの場合、お互いを補い合っての問題解決は普通のことのように思えます。では、ヒト以外の動物の場合はどうなのでしょうか。今日は、魚でも、グループが足りない知識を補いあって問題解決できることを示した実験を紹介します(※1)。

誰も完全な知識は持っていない
実験に使われたのは、トゲウオとよばれる魚の一種です。エサを食べるには2つの課題をクリアしなければなりません。一つめは、エサ箱まで辿りつくこと(課題1:エサ箱への到達)です。エサ箱はスタート地点から遠いところにあり、まずはそこまで泳いでいかなければなりません。二つめは、エサ箱の中に入ること(課題2:エサ箱への侵入)です。エサ箱には2つの小さな穴があり、そこを通って中に入らないと、エサを食べることはできません。

この実験では、9個体からなる群れを、個体の数は変えず、しかし構成を変えて、実験を行います。群れの構成は以下のようになります。

1. 事前のトレーニングを受けていない9個体
2. 課題1(エサ箱への到達)の訓練を受けた3個体と、なんの訓練も受けていない6個体
3. 課題2(エサ箱への侵入)の訓練を受けた3個体と、なんの訓練も受けていない6個体
4. 課題1(エサ箱への到達)の訓練を受けた3個体、課題2(エサ箱への侵入)の訓練を受けた3個体、なんの訓練も受けていない3個体

つまり、どの群れでも、訓練を受けていたとしても、2つの課題のうちどちらか1つだけで、2つの課題両方の訓練を受けた魚はいないのです。それぞれの群れで、エサ箱の中に入った割合や、入るまでの時間を比べました。4番目の構成のグループが、もっともパフォーマンスが良いような気がしますね。しかし、このグループが他のグループよりも成功するには、先行する訓練を受けた個体に、他の個体がついていかねばなりません。

トゲウオは知識を合体させる
さて、結果です。予想通り、4番目の構成のグループが、エサ箱に入った数も、エサ箱に入るまでのスピードも、一番でした。この実験が示唆しているのは、一個体一個体は問題を解決し切る知識を持っていなくても、複数個体の知識を組み合わせることで、グループ全体のパフォーマンスを向上させることができるということです。

不完全な知識を互いに補いあって問題を解決するのは、どうやらヒトだけではなさそうです。

(執筆者:tiancun)

※1 Webster, M. W., Whalen, A. and Laland, K. N. (2017) Fish pool their experience to solve problems collectively. Nature Ecology and Evolution 1, 0135.

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