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7000年前も新しもの好き?

どんなものが良いと感じるか、つまりわれわれの嗜好は、ものそのものだけではなく、色んな要因に影響されます。洋服とか、ガジェットとか、新しいというだけで買ってしまったりしますよね。そうかと思えば、みんなが使っているものがほしくなったりもします。人類学をやっていると、過去の人びともわれわれと同じだったのだろうか?という問いによく直面します。石器時代の遺跡から装飾品や道具が出土することも多いのですが、彼らも、流行りの装飾品や、新しい道具を欲しがったのでしょうか?

土器の装飾を分析して

Kandler博士とShennan博士は、考古学のデータを統計学を使って解析することで、この問題に取り組みました(※1)。博士たちが対象としたのは、線帯文土器文化とよばれる文化です。これは、約7000年前に、中央ヨーロッパに存在した文化で、この文化の担い手は、初期の農耕民だったと考えられています。そして、この文化の土器には、さまざまな装飾が施されています。

Kandler博士らが注目したのは、この土器の装飾です。博士たちは、先行研究に従って、この土器の装飾を7つの時期に区分しました。そして、装飾の種類と頻度が、時間の経過とともにどのように変化するのかを調べることで、線帯文土器文化の人びとが、どのような嗜好をしていたのかがわかるのではないかと考えました。

もう少し詳しく説明しましょう。Kandler博士らは、下記のような5つの仮説をたてました。
①:前の世代で使われている模様からランダムに選び、それを真似する。
②:みんなが使っている装飾を使いやすい。
③:みんながあまり使っていない装飾を使いやすい。
④:古いものが好まれやすい。
⑤:新しいものが好まれやすい。

それぞれの仮説から期待される装飾の多様性パターンは異なります。たとえば、②の「みんなが使っている装飾を使いやすい」とする仮説が正しければ、時間とともに装飾の多様性は減っていき、みんなが同じような装飾ばかり使うようになるはずです。

Kandler博士たちは、①〜⑤の仮説から期待される多様性パターンの時間変化を計算しました。そして、実際の土器の装飾の多様性の変化が、そのうちどの仮説ともっとも整合的であるかを比較しました。

7000年前も新しもの好き

解析の結果、⑤の「新しい土器の装飾ほど集団の人びとに採用されやすい」という仮説が、この文化の土器の装飾の多様性をもっともよく説明することがわかりました。どうやら7000年も前の人びとも、「新しもの好き」な傾向があったようです。

もちろん、我々がそうであるように、対象(今回は土器)によっても、文脈によっても、どのようなものを嗜好するのかは変わってきます。つまり、常に新しいものを好んでいたわけではなく、別の時代の、別の遺物を対象にすると、結果が変わるということも十分ありえます。それでも、7000年前に、現代人と同じように新しもの好きな人びとが住んでいたと考えると、なんだか親近感がわきませんか?

(執筆者:tiancun)

※1 Kandler, A., & Shennan, S. (2015). A generative inference framework for analyzing patterns of cultural change in sparse population data with evidence for fashion trends in LBK culture. Journal of the Royal Society Interface, 12, 20150905.

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