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チンパンジーにも「伝え方」が大事?

みなさんこんにちは、tiancunです。さて、今日はまず下の文章の印象を聞かせて下さい。

A. 500円もらえるが70%の確率で追加で500円もらえる。

B. 1000円もらえるが30%の確率でそこから500円取り上げられる。

如何でしょうか。AとB、どちらが好ましいと思いましたか?もし、どちらか片方を選ばなければならないとすると、どちらを選びますか?

実は……

……みなさんもうお気づきだと思いますが、このふたつの選択肢、同じことをさしています(※1)。でも、選択肢の印象は、結構違いませんか?ヒトは、同じ選択肢でも、どのように情報が提示されるかによって、選択肢の評価が変わるという傾向があることが知られています。

では、なぜヒトは、こんな合理的でないように思える傾向を持っているのでしょうか?こうした傾向はヒトだけが持っているのでしょうか?進化のどの段階で獲得されたものなのでしょうか?

安定したピーナッツか、ギャンブルな果物か

Krupenye博士らは、チンパンジーを使った実験でこの謎に迫ろうと考えました(※2)。実験の内容を説明しましょう。ヒトの実験者とチンパンジーがそれぞれひとりずつ、向かい合って座ります。実験者の片方の手の前には果物が、もう片方の手の前にはピーナッツが置かれています。チンパンジーは指差すことでどちらがほしいかを実験者に伝え、実験者は選ばれたほうの食べ物を渡します。

博士たちは、二種類の実験条件を比較することで、情報の提示の仕方がチンパンジーの選択に与える影響を調べました。第一の「報酬増加条件」では、最初見せられている果物は一個だけですが、50%の確率でもう一切れ果物が追加され、二切れになります(文頭の選択肢Aと対応)。ピーナッツをもらえる選択肢をCとよぶことにすると、この条件では選択肢AとCが提示されていることになります。もう一つの「報酬減少条件」では逆に、最初は二切れ果物が見せられているのですが、50%の確率で一個取り除かれ、一切れだけ渡されます(文頭の選択肢Bと対応)。この条件では、選択肢BとCが提示されています。

ここで大事なのは、平均してもらえる果物の個数は同じ1.5切れだということです。ただし、「報酬増加条件」では、果物が追加され、「報酬減少条件」では果物が取り去られます。

どちらの条件でも、ピーナッツを選べば、いつでも同じ個数の、見せられているままのピーナッツがもらえます。並べられているピーナッツの個数は、実験前に調べられた、実験対象の個体にとって果物1.5切れと同じ価値を持つ値となっています。つまり、実のところ、どの選択肢を選んでも、チンパンジーにとってもらえる餌の価値は変わらないはずです。

さて、結果を紹介しましょう。果物とピーナッツを提示された場合に、果物を選ぶ確率は、「報酬増加条件」では59.6%だったのに対し、「報酬減少条件」では47.7%でした。つまり、最初果物が一切れだったのに、時々一切れ追加してもらえる、という状況のほうが、安定して同じ数のピーナッツがもらえる選択肢よりも好ましく受け取られたようです。逆に、最初二切れなのに、時々一切れ取り上げられる状況は、安定してピーナッツがもらえる選択肢よりも、好ましいものとは受け取られにくいようです。

おわりに

今回紹介した研究は、チンパンジーにもヒトと同じように、結果として同じ選択肢でも、情報の提示の仕方次第でその評価が変わる傾向があることを示唆しています。そして、ヒトとチンパンジーの共通祖先の段階で、こうした傾向をすでに持っていたことも同時に示唆されます。では、なぜそうした傾向を持っているのでしょうか?なにかの役に立つのか、それとも単なる副産物なのでしょうか?その紹介はまた別の機会に……。

(執筆者:tiancun)

※1 それぞれの選択肢でもらえる金額を整理してみましょう。「A. 500円もらえるが70%の確率で追加で500円もらえる」では、70%の確率で1000円、30%の確率で500円です。「B. 1000円もらえるが30%の確率でそこから500円取り上げられる」でも、同じく70%の確率で1000円、30%の確率で500円もらえます。しかしながら、もらえる金額は同じでも、選択肢Aのほうを好ましいと思う方が多いようです。

※2 Krupenye C, Rosati AG, Hare B. 2015. Bonobos and chimpanzees exhibit human-like framing effects. Biol. Lett. 11: 20140527.

実際には、チンパンジーだけでなくボノボも対象にしています。ただし、チンパンジーと結果に差は見られませんでした。 

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