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5000年前、なに食べた?

昨日は何を食べましたか?スパゲティ?カレーライス?ちなみに私はサーモンとモッツァレラチーズのサラダを食べました。私にしてはおしゃれな晩ごはんです。

今の時代の人が何を食べているかは、直接聞けばすぐにわかります。よっぽど恥ずかしがりでなければ、教えてくれますよね。写真を撮ってFacebookに投稿する人もいるから、世界中の人達がどんなものを食べているかは、ネットサーフィンで簡単にわかってしまいます。

では100年前の人は何を食べていたでしょう?1914年だと大正時代だから、今と同じように写真が残っていますよね。活動写真もある。永井荷風の『断腸亭日乗』という日記には「シヨコラを啜り、一片のクロワツサンを食し」とあります。私の晩ごはんに負けず劣らずおしゃれ、というかちょっと負けた気がします。。

では更に遡って、5000年前の人達はどうでしょう?日本だと縄文時代、ヨーロッパだと青銅器時代です。こうなると写真も日記も残っていませんよね(*1)。こういう時、何を調べれば、食べていたものがわかるのでしょう?

口の中には…

最近報告された研究では、5000年前のヨーロッパ人の口の中から、なんとミルクの成分を見つけることに成功しました(*2)。え、液体!?どうやって見つけたのでしょう?

遺跡から発掘された5000年前の人は、髪の毛も筋肉もバクテリアに分解されてしまっていて、普通は骨だけになっています(*3)。ところがよくよく観察してみると、口の中には、食べたものの残りかすが歯垢として、石灰化して残っていることがあります。アメリカの研究者クリスティーナさん達はこの歯垢に着目しました。青銅器時代のヨーロッパ・アフリカの人骨合わせて約100個体から、それぞれ歯垢だけを削り取り、その中に含まれているタンパク質を網羅的に調べました。すると、ヨーロッパの人の約3分の1の歯垢から、ミルクの成分であるβ-ラクトグロブリンが見つかったのです。更にはそのミルクの種類を、牛・ヤギ・ヒツジ由来のものに分けることにも成功しました。一方で、中央アフリカ南西部の人達の歯垢からは、β-ラクトグロブリンは全く見つかりませんでした。これは、ヨーロッパの人達は酪農をしていてミルクを飲んでいたけれど、中央アフリカ南西部の人達は酪農をしていなかった為、ミルクを飲んでいなかったと考えられます(*4)。

昔の人達が酪農をしていた証拠(しかも飼っていた動物の種類も!)が、歯の隅っこに残っているなんて!「ウォーリーをさがせ!」や「ミッケ!」が好きだった私としては、隠されていたお宝を見つけたようでわくわくしてきます。更に時代を遡って、様々な遺跡の歯垢を調べれば、酪農や農耕がいつどこで始まったのか、今までよりもずっと詳しく分かる可能性もあります。

ゴミだと思われていた歯垢

ちなみに昔の人類学者は、発掘した人骨の歯に歯垢が残っていても、歯の計測に邪魔なものだとして削りとって捨ててしまっていました。なんてもったいない!!ゴミだと思われていたものが役に立つ日が来るのだから、世の中の変化とは驚くべきものです。100年後に私が骨になったら、人類学者は私の歯垢を調べて「むむ、牛のミルク!鮭!葉っぱ!おしゃれなご飯だな…」とか言ってるかもしれません。日頃から食べるものには気を遣わないといけませんね。

さて、今日は何を食べようかな?

(執筆者:mona)


*1 世界的に見ると、メソポタミアではこの頃に粘土板が用いられていて、楔形文字で農業や牧畜についても書かれています。また、エジプトではヒエログリフが使われ始めています。

*2 Warinner, C., Hendy, J., Speller, C., Cappellini, E., Fischer, R., Trachsel, C., … Collins, M. J. (2014). Direct evidence of milk consumption from ancient human dental calculus. Scientific Reports, 4, 7104. doi:10.1038/srep07104

*3 発掘された場所が永久凍土のようにとても寒い所であれば、5000年前でも髪や皮膚が残っていることもあります。

*4 酪農と遺伝子も密接に関わっています。牛乳に含まれる乳糖(ラクトース)を体内に吸収するには、ラクトースを分解する酵素、ラクターゼを体内に持っていなければなりません。この酵素の働きは遺伝的に決まっていて、牛乳を飲んですぐにお腹がゴロゴロしてしまう人は、ラクターゼの働きが弱い人なのです。現代において、ヨーロッパではラクターゼの働きが活発な人が多く、逆に中央アフリカ南西部はラクターゼの働きが弱い人(牛乳を飲んですぐにお腹がゴロゴロしてしまう人)が大半です。これはおそらく、ヨーロッパは数千年前から酪農をしていたので、ラクトースを分解できるような遺伝子が生存に有利だったのに対し、アフリカでは酪農をしていなかったため、ラクターゼが必要でなかったためと考えられます。このようなことからも、酪農の歴史を窺い知ることができます。(ちなみに日本では、ラクターゼの働きが弱い人が多いです)


余談・・・

今回の研究を行ったクリスティーナ・ワーリナーさんが、TEDでも歯石(歯垢)の研究を紹介しています。この話では「古代の人の歯垢から病気を探る」というテーマですが、こちらも面白いのでぜひ見てみてください。

http://www.ted.com/talks/christina_warinner_tracking_ancient_diseases_using_plaque?language=ja


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