変わるものと変わらないもの

「あんそろぽろじすと」を見てくださっているみなさん、あけましておめでとうございます(とはいえ、これが掲載される頃はきっと2月ですが)。いつもありがとうございます。ここを見てくださっているみなさんは、どんなウェブサービスを愛用していらっしゃるでしょうか?年越しの瞬間を狙って、SNSに投稿したりしましたか?Twitterで何百人もいるフォロワーとお祝いでしょうか?それともFacebookで世界中の友達に向かって飯テロでしょうか?年賀状も、電子メールに置き換わってしまったという方も多いのではないかと思います。どれも、この十数年のうちに、急速に普及していった技術です。それどころか、人類史の大部分では、対面しての会話、もしくはジェスチャーくらいしかコミュニケーション手段がありませんでした。インターネットをはじめとする通信技術の進歩によって、そうした時代と現代とでは、コミュニケーションのあり方は大きく変化しています(※1)。ちなみにtiancunは、その技術の進歩とグローバル化のために、1月2日締切の仕事を抱え呪いを吐きながら年を越しました。

さて、社会関係を維持することには大きなメリットがあります。以前の記事で、霊長類について紹介しましたし、人間でも、社会ネットワークが健康に影響するという研究が数多くあります(※2)。そうした社会関係を維持するのに、かつては明らかにコストがかかりました。遠くに住んでいる人と会って話をするのは大変でしたし、SNSのように、何百人もの人に一斉にメッセージを送るなんてできません。霊長類では、毛づくろいが社会関係の維持に重要な働きをしていると考えられています。Dunbar博士は、人が言語を話せるようになったのも、このコストのためだとする仮説を提唱しています(※3)。集団サイズが増加したため、毛づくろいでは、十分な数の群れの仲間と社会関係を結べなくなったので、人は言語を使って社会関係を維持するようになったというのです。さて、情報技術の進歩は、コミュニケーションのコストを下げているといえそうです。では、その結果、現在のコミュニケーションは、これまでと全く違ったものになっているのでしょうか?今回は、物理学者と人類学者が協力して行った研究を紹介して、その疑問に答えたいと思います。

Saramaki博士らは、18か月にわたる24人分の携帯電話の通信記録を解析しました。この24人は実験開始時は高校生で、実験期間中に大学にあがったり就職したりし、環境の大きな変化を経験しています(したがって交友関係も変化すると期待されます)。解析の結果、まず、コミュニケーションの大部分は、ごく少数の人とであることがわかりました。平均すると、全通話数の約50%が上位3人とでした。続いて、時間を経ても変化しない、個人に特有のコミュニケーションのパターンがあることが示唆されました。

どういうことかもう少し詳しく説明しましょう。通話回数の多い順に、一番、二番、…と、相手をランク付けしていきます。同時に、全通話数に占める各人との通話回数の割合も計算します。たとえば、一番の人とは全体の30%、二番の人とは10%、というように。こうして計算した、ランクと通話割合の関係の時間変化を追跡します。環境が変化すると、誰とコミュニケーションするかは変化します。しかし、あるランクの人が入れ替わっても、そのランクに応じたコミュニケーションの割合は大きくは変化しなかったのです。たとえば、あなたが高校生のとき、電話の30%をお母さんと、10%を弟と話すのに使っていたとしましょう。このとき、全通話数のうち一番の人は30%、二番の人は10%を占めています。時を経て、あなたは大学生になり、彼女ができたとします(リア充!)。すると、あなたは通話回数のうち30%を彼女と話をするのに使い、10%をお母さんと話すようになるかもしれません。ここでも、全通話数のうち一番の人は30%、二番の人は10%を占めているのです。

このようにして、誰とコミュニケーションするか、というコミュニケーション相手の中身は入れ替わっても、順位に応じた通話数の配分は時間がたっても変化しない傾向にあったのです。このことは、あなたが誰かと親密になると、これまで親密だった誰かが、あなたの社会ネットワークからはじき出されるということを示唆しています。

Facebookの友人関係の分析からも、同様に、親密な人の数はごくわずかだという結果が示唆されています。ユーザの平均の「ともだち」の数は100人を超えていますが、活発にやりとりをする相手の数は多くの場合10人に満たないのです(※4)。

この論文の結果は、現代の情報技術をもってしても、人間が親密な関係を築ける相手の数は限られている、ということを示唆しています。一年のはじめに、技術によって変わりうるものとそうでないものに思いを馳せるのも一興かもしれません。

(執筆者:tiancun)


元論文:Saramaki, J., Leicht, E. A., Lopez, E., Roberts, S. G. B., Reed-Tsochas, F., and Dunbar, R. I. M. 2014. Persistence of social signatures in human communication. PNAS 111, 942-947.


※1 十数年前の、電話といえば固定電話だった時代のコミュニケーションとさえ、もう大きく違ってしまっているのかもしれません。中学生のころ、女の子の家に電話してお父さんが出た時の絶望を、今どきの中学生は味わうことがないのです。


※2 社会性と健康や適応度の関係について、下の記事/本でもっと詳しく紹介されています。

「社会性が生死を分ける?」あんそろぽろじすと

https://note.mu/anthropologist/n/n354435fab596

ニコラス・クリスタキス、ジェイムズ・ファウラー(鬼澤忍訳)『つながり』

石川義樹『友達の数で寿命が決まる』


※3 この話題について、下の本でさらに詳しく紹介されています。

ロビン・ダンバー(松浦俊輔、服部清美訳)『ことばの起源――猿の毛づくろい、人のゴシップ――』

ロビン・ダンバー(藤井留美訳)『友達の数は何人?』


※4 Marlow C (2009) Maintained relationships on Facebook.

http://overstated. net/2009/03/09/maintained-relationships-on-facebook 


これまでのあんそろぽじすとの記事は以下からご覧ください。

https://note.mu/anthropologist/m/mf200d5ddbbe8?view=list

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