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あげるな、さすれば与えられん?

こんにちは、tiancunです。大学は合宿シーズンです。別に部活の合宿ではありせん。研究者の合宿です。研究者を一箇所に閉じ込めて研究発表をしたり聞いたりします。大学というのは合宿が好きなところで、tiancunも二週間で3回ほど合宿に行ってきました。研究者を一箇所に閉じ込めておくことで蠱毒的なケミストリーがスパークです。

合宿ではずっと生活をともにしますし、異業種交流系だと全然知らない人といきなり一緒にされるので、自分のやりたいことだけ主張することはできません。体験したことがある方も多いと思いますが、ときには自分が損になることでもやらなければ、生活がうまくいきません。「自分が損するにも関わらず人の利益になる」行動のことを、人類や他の分野では「協力行動」とよんでいます。

協力行動、よく考えてみると、われわれの日常生活でもありふれていると思います。ちょっと順番をゆずることにはじまり、仕事の当番を変わったり、迷っている人に道を教えてあげたり。そんなふうにありふれているものではありますが、しかしそうした協力行動なしにはわれわれの社会はうまく回っていかないように思われます。

だからこそ、協力行動の研究には長い歴史があります。心理学や経済学の実験や、はたまた数学まで使って、どんな人が、どんな状況で、どんな人に対して協力しやすいかが調べられています。たとえば、(日本のような)工業化した社会での心理実験では、集められた見知らぬ人の間で、協力行動をしたりされたりするのですが、協力的な人に、お返しとして、協力が集まってくるという傾向がありました。たとえば、あるときにあなたがtiancunを助けてくれたので、今度はtiancunがあなたを助ける、といった具合です。

しかし、工業化された社会は、人類の歴史のほんとうにごくごく最近現れたものです。そのため、そこで得られた結果は、人類の多様性のごく一部でしなかいのではないか、という疑問が持たれています。そのため、工業化していない社会で(さまざまな文脈の違いに苦心しつつ)同じような実験ができないだろうか、と研究に取り組んでいる人類学者たちがいます。今日はそうした研究のひとつを紹介します(※)。

だれが協力されているのか?

著者たちが対象にしたのは、フィリピンのAgtaと呼ばれるひとびとです。主な生業は漁撈ですが、小規模な農耕や賃金労働をしている人もいます。実験に参加してくれたのは、このAgtaのひとびとの18のキャンプ、計290人でした。著者らは、Agtaのひとびとにあるゲームをプレイしてもらいます。ゲームの内容は単純です。各参加者は、自分か、自分と同じキャンプの人に、お米(125グラム)をあげるかどうかを選択します。これを10回繰り返すだけです。

自分以外の人にあげることを選んだ割合を、協力の割合とみなします。著者らが注目したのは、どのような人が協力をされているか?とくに、協力している人(お米を他人にたくさんあげている人)ほど協力されるような傾向はあるだろうか?ということです。

結果の紹介にうつりましょう。ふたつの傾向がみられました。ひとつめは、近親者に対して協力する傾向です。もうひとつは、協力していない人に対して協力する傾向です。つまり、お米を自分でとってしまう人のほうが、他の人からお米をもらう傾向があったということです。このふたつめの結果は、記事の最初で紹介した傾向と反対です。

著者らは、データをもっと詳しく分析してみることにしました。そうすると、あまり協力していない人は、世話が必要なこどもがいる人だったり、年齢のために支援が必要だったりする人でした。考えてみると、当たり前のような気もします。われわれにも思い当たりますよね?

さらに詳しく調べてみると、このような支援は、近親者にのみ向けられていたわけではありませんでした。つまり、自分の近親者なかの困っている人に、選択的にお米をあげたわけではなさそうでした。

おわりに

今回の研究が、工業化された社会での研究と完全に異なる結果かというと、そうとも言い切れません。Agtaのひとびとの方が、より長い時間のスケールでお返しの関係を考えている可能性もあります。たとえば、小さい頃に村のおじさんに良くしてもらったので、おじさんが年をとった今はお返しに助けている、といったような。

われわれの社会はとても複雑で、どのような要因が、どんなタイムスケールで現れるのか、まだまだわからないことがたくさんあります。今回のAgtaのひとびとの結果だけから、工業化していない社会について過度な一般化をすることも困難です。今後いろいろな社会で、いろいろな研究を継続して行っていく必要があるでしょう。

(執筆者:tiancun)

※ Smith, D. et al. (2018). A friend in need is a friend indeed: Need-based sharing, rather than cooperative assortment, predicts experimental resource transfers among Agta hunter-gatherers. Evolution and Human Behavior. (doi: 10.1016/j.evolhumbehav.2018.08.004)


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