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サルも「顔色をうかがう」??

話している相手の頬がポッと赤くなったりしたら、照れているのかな、恥ずかしいのかな、もしかして僕のこと好きなのかな!?とか思ったりしますよね。(だいたい勘違いですけどね…。)反対に顔色が悪かったりすると、病気かな?大丈夫かな?と心配になったりします。このように「顔の色」というのは私たち人間のコミュニケーションにおいて、重要な役割を果たしているのです。

「顔色」を見分けるために必要な2つのこと

こうした「顔色の変化」を敏感に見分けるためには、次の2つのことが必要です。
 1.顔の色の変化に対応した「眼」を持っていること。
 2.顔自体が毛で覆われていないこと。
イヌのように顔が毛で覆われていたら、顔色は分かりませんよね。適した「眼」を持っていることと、顔に毛がないこと、この2つはどうやらセットで考えたほうが良さそうです。そして、この2つの関連を調査したのがChangiziらによる2006年に発表された研究(*1)です。

Changiziらは顔色が変わる時に、どの波長の色が最も変化するのかを霊長類で調べました。霊長類とは、広義には「サル」のことですが、南米・中南米に住む小さなネズミのようなリスザルから、私たちに馴染み深いニホンザル、そしてチンパンジーや、またヒトも霊長類に含まれます。
さて、急に小さな分子の話になりますが、顔の色を決める要因はいくつかあり、ヘモグロビン(血液に含まれる色素)もそのひとつです。ヘモグロビンが酸素とくっつくと、構造が変わって色が変化します。酸素が離れるとまた元の色に戻ります。このとき、約540nmと560nmの波長が最も変化することが分かりました。(光の波長が色に対応することを思い出してください…下図参照)
つまり、この2つの波長に対応する「眼(め)」を持っていれば、「顔色の変化」を見分ける能力が高いことになります。

霊長類の「眼」はどうなってる?

では、私たちはどんな「眼」を持っているのでしょうか?Changiziらは霊長類の眼が「どの波長にもっとも反応する」か、を網羅的に調べました。例えば、私たちヒトの眼は535nmと562nmにもっとも反応する眼を持っています(正確には M/L 錐体オプシンの感受性です。Surridge, A. K., et al., 2003 (*2))。ヘモグロビンが酸素とくっついたときに変化する波長に近いことが分かります。霊長類のなかでも、ヒトに近い種であるチンパンジーやゴリラ、日本人にもなじみ深いニホンザルが含まれるマカクは、これとほぼ同じ波長に反応する「眼」を持っていることが分かりました。一方で、同じ霊長類であっても、ロリスやキツネザルはその波長に対応した「眼」は持っていませんでした。

そしてもう一つの条件である毛について見てみると、ヒト、チンパンジー、ゴリラ、ニホンザルの顔に毛は生えていませんが、ロリスやキツネザルの顔は毛で覆われています。結果的に、顔色の変化を見分ける「眼」を持つことと、顔の毛がないことが(ほぼ)一致したのです。(チンパンジーやゴリラの顔は毛で覆われていませんが、けっこう個体差があって真っ黒のやつもいるので顔色の変化が読み取れるかどうかは…ちょっと疑問です)

以上のように、私たちが相手の顔色から様々な情報を得るのは、それができる「眼」を持っており、顔が毛で覆われていないために、可能になっていると考えられます。相手との関係性を顔色でうかがい知る、そうした行動はもしかしたらヒトに進化する前から行われていたのかもしません。上司の顔色を伺いながら話すのはしんどいですか…?いやいや、それもまた「進化の副産物」、と言えるのかもしれません。
(執筆者:eno3)

*1. Changizi, M. A., Zhang, Q., Shimojo, S. (2006). Bare skin, blood and the evolution of primate colour vision. Biol Lett 2:217–21.

*2. Surridge, A. K., Osorio, D., Mundy, N. I. (2003). Evolution and selection of trichromatic vision in primates. Trends Ecol Evol 18:198–205. 

画像は下記から引用・転載しました。
カラーグラデーション:Wikipedia Commons File:Linear visible spectrum.svg
チンパンジー:photo AC チンパンジー2
マングースキツネザル:Wikipedia Commons File:Eulemur mongoz (male - face).jpg
カバー写真&ニホンザル:執筆者撮影


これまでのあんそろぽじすとの記事は以下からご覧ください。
https://note.mu/anthropologist/m/mf200d5ddbbe8?view=list


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