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ダーウィンとヒトの分類

みなさんはチャールズ・ダーウィンという人物をご存知ですか??

NHKの番組「ダーウィンが来た!」のタイトルのもとになっている(と思われる)人物です。番組のキャラクターの「ひげじい」ほどではないですが、立派なひげを蓄えたおじいさんとしての写真が有名です。

私がダーウィンを敬愛するのは、観察と実証で自分の意見を唱えることです。また、批判に対しても証拠を用意して反論していたことです。科学者として尊敬しています。

今回はダーウィンについて、ヒトの分類にまつわるエピソードを紹介しようと思います。

種の起源“On the Origin of Species”

そもそもダーウィンとはどんな人で、彼の唱えた理論がどんなものであったのかはご存知でしょうか?

ダーウィンは自然科学者で、著書『種の起源“On the Origin of Species”』によって進化論を唱えました。

その他の研究でも大変な功績を残しており、生物学に多大な貢献をなした偉人です。

今でもダーウィン・メダルという生物学者にとって大変名誉な賞に名前を残しています。

(余談)日本人では「自然選択説」の一見真逆の仮説である「分子進化の中立説」を唱えた集団遺伝学者、木村資生が受賞しています。これは非常に面白いことです。進化論はより環境に適した個体が生き残るという理論なのに対し、中立説は最も幸運な遺伝子が生き残るという理論です。

進化論とは、生物を神が個々に作ったものではなく、他の種から派生し徐々に変化を積み重ねてきたものだというものです。ヒトも例外ではありません。

「種の起源」にも書いてありますが、これは何も新しい学説ではありませんでした。本書の中で古い中国の百科事典から着想を得たと書かれています。(※1)

進化論は、当時から人々の信仰を集めていたキリスト教の教義に反するものとして糾弾されてしまいました。しかし、進化論がキリスト教に対する許されざる冒涜だったのか、個人的には疑問があります。

ダーウィンと同時期の人物で、チャールズ・ライエルという地質学者がいました。ライエルはダーウィンと親しくしており、『種の起源』より早い時期にライエルは『地質学原理』という本を出版しました。天地は神が創造したのではなく、雨風などによって少しずつ変化したのだと唱えたのです。斉一説といい、太古の昔というものを良く分からない異世界などではなく、現在と同じ自然の法則が通用する世界と考えました。

彼もまた、偉大な地質学者としてライエル・メダルに名前を残しています。彼の考えがダーウィンに影響を与えたと言われています。

この『地質学原理』は受け入れられましたが、『種の起源』はなかなか受け入れられていません。今でもアメリカでは進化学を認めない州があるなんて話も聞きますね。

 海岸はあきらかに少しずつ削れていますし、山は時折崩れます。天災の爪痕を目撃することはしばしばあります。しかし全体から見れば僅かな変化に過ぎず、山の元の形をイメージすることも容易いです。(それが正確かどうかは別の話ですが)

 一方、生物は進化が目撃されることは稀で、しかもめったに証拠が残りませんし、時として全体像が大きく変わります。原生種だけを見ても生物種というものはあまりに不連続に思われます。たとえば、わずかばかり発見されている始祖鳥の化石がなければ一体どんな変化を経て恐竜(爬虫類)の一部から鳥類が出現したのか想像もつかないでしょう。前述のような地質学や物理学・化学に比べて進化学が普及しにくい・誤解されやすいのも、無理がないお話かと思います。

ダーウィンと「人種」

実際に「種の起源」の後、適者生存の発想が大いに受け入れられることもありましたが、それが大きな危険を孕んでいることもありました。絶滅政策、人種隔離、優生学、ナチスの人種政策、そのほかの国で行われた断種法など……人類史上の最悪の過ちと言われるような政策がずらりと並びます。こういった政策とともに、根拠となった社会進化論が批判され、進化論を唱えたダーウィンの名誉もともに傷つけられてしまいました。(そもそも、優生学や社会進化論を考えたのはダーウィンではないのに......。)「ダーウィンの考えは人種差別の肯定を内包している」などと批判されたり、「優れた社会を持つ「人種」が世界を支配しているし、世界を支配するべきだ」という考え方に利用されてしまったりするのです。

進化生物学に触れている人ならわかると思いますが、もちろんこういった考え方は進化学を誤解、あるいは曲解しています。

例えば今のスズメと数百年前の祖先に進化という概念を用いるのは適切ですが、スズメとツバメで「どちらがより進化した生物か」という比較はできません。適応した環境が異なるに過ぎないからです。

もちろん、ダーウィン自身も人種差別を批判しています。彼の著書、『The Descent of Man, and Selection in Relation to Sex(直訳すればヒトの祖先と性別による淘汰)』では、ヒトのあいだにはそもそもいくつかの種に分割できるほどの差がないと書いています。(そして奴隷解放運動を支援したりしています。))』では、ヒトのあいだにはそもそもいくつかの種に分割できるほどの差がないと書いています。(そして奴隷解放運動を支援したりしています。)

ダーウィンの考えは正しかったのでしょうか。ダーウィンの時代にはDNAという物質が発見されていませんでしたが、現在ではDNAの多様性の観点から彼の考えがどれだけ妥当なものか評価できます。

ある研究(※2)では、ヒトとその他大型類人猿での、ミトコンドリアDNAの多様性を比較しています。

一般にチンパンジーと呼ばれる動物は、「生息地」「遺伝的な遠縁さ」で4亜種に分類されています。そして四分割されたチンパンジーのどの亜種よりもヒトの遺伝的多様性が小さいことが示されています。

この研究では、ゴリラやオランウータンとも比較していますが、残念ながらサンプル数が少なく同一種内での広がりを見ることはできません。しかし、ゴリラ・オランウータンの異種間の差異と比べて、ヒトのあいだには遺伝的な差異が少ないことが示されています。

あくまで相対評価ではありますが、遺伝学は「人種」を「生物的な分類」として支持しません。ヒトは今でもなお「ホモ・サピエンス」ただ1種に分類されています。

ダーウィンの観察眼を綺麗に肯定する結果でした。さすがはダーウィンです!

この結果は人類の民族間に差がないという話ではありません。しかし、その差異は遺伝的に見れば小さいようです。

昨今、人と人には差があるというだけで優生学的だと猛烈な批判を受ける傾向がありますが、遺伝的に個人差があることは事実です。私も生物学者の端くれですので、その差が非常に小さい事のほうを主張したいですね。

(文責 アンソロピエロ)

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参考文献

○チャールズ・ダーウィン (1859) 種の起源 (上) (下) (渡辺政隆訳) 光文社

※1 原文 Chapter 1 - Variation Under Domestication-On the Breeds of the Domestic pigeonには“The principle of selection I find distinctly given in an ancient Chinese encyclopaedia.”とある。

○Charles Robert Darwin(チャールズ・ダーウィン) (1871) The Descent of Man, and Selection in Relation to Sex, Dover Publications

○※2 Pascal Gagneux, Christopher Wills, Ulrike Gerloff, Diethard Tautz, Phillip A. Morin, Christophe Boesch, Barbara Fruth, Gottfried Hohmann, Oliver A. Ryder, and David S. Woodruf, Mitochondrial sequences show diverse evolutionary histories of African hominoids, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 96 no. 9, 5077–5082, doi: 10.1073/pnas.96.9.5077

http://www.pnas.org/content/96/9/5077.full

fig.1を軽く見れば、どれほどヒトが多様性の小さい生き物かがわかるかと思います。

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