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成功体験の呪縛

こんにちは。今年から地元のスポーツチームがプロリーグに昇格して嬉しいtiancunです。とはいえ、もう地元から遠く離れて暮らしているので、テレビで応援することになりそうです。みなさんはテレビでスポーツ観戦なさいますか?現地観戦とテレビ観戦の違いのひとつが、解説者の存在です。視聴者以上にエキサイトする解説者もいますが、ほとんどの解説者は、試合を観る上でのポイントをわかりやすく説明してくれます。そんな解説者がよく、「◯◯選手は今当たっている」とか、「チームに流れがきている」とか、言ったりしますね。「流れ」って何やら超自然的な響きがありますが、自信満々に断言されると、観ている我々も、なんとなくそんなことがありそうな気がしてしまいます。


「Hot hand」効果

実際に、アメリカで行われた研究によれば、解説者だけでなく、観客もそう考えているようです。バスケットボールファンのうち9割の人が、シュートを連続して決めやすい傾向があると考えており、「hot hand」と呼ばれているそうです(※1)。でも、これだけだと、「hot hand」の効果がほんとうにあるのかどうかを明らかにしたことにはなりません。我々は、解説者の言葉を鵜呑みにしてしまっても良いのでしょうか?


「Hot hand」は実在するのか?

Neiman博士とLoewenstein博士は、バスケットボールの試合のデータを使って、この現象を検証しました(※2)。博士たちは、ある選手が3ポイントシュートを成功した後と失敗した後とで、次のシュートとして3ポイントシュートを試みる確率が変わるかどうかを調べました。その結果、シュートの成功後は、失敗後に比べて、3ポイントシュートを狙いやすいことがわかりました。この結果は、選手が「hot hand」を信じていることを示唆しています。では、「hot hand」は真実なのでしょうか?みんなが信じているように、シュートが決まることで、次のシュートの成功率は上がっているのでしょうか?

しかし実際には、「hot hand」は存在していませんでした。3ポイントシュートの成功後でも、シュートの成功率は上がることはなく、むしろ下がる傾向にありました。つまり、前述した「勝ち癖」(またはhot hand)とは逆の結果が示唆されたのです。

実は、様々なスポーツについて、このような「良い結果が連続する」傾向が調べられているのですが、それを支持する証拠は少ないのです(※3)。シュートを決めることで選手やチームの調子が上がるのではなく、単に調子に乗っているだけのケースが多いようです。

著者らは、このようなことが起こっている理由として、過剰な一般化があるのではないかと推測しています。バスケットボールのようなスポーツでは、常に状況は移り変わります。前のシュートが決まったとしても、その状況と、次にシュートを打つ状況は大きく変わっている可能性のほうが高いでしょう。ところが、選手は、そうした状況の違いを無視して自分のシュートの成功率を過度に高く見積もってしまうのではないか、というのです。


あなたの周りにもいませんか、一度だけの成功体験を過度に一般化してでかい顔をする人が。一般化は、自然から法則を見つけ出すことにも不可欠であり、科学においても大事な能力です。しかし、人間は過度な一般化を行いやすいということに留意して、後ろ指をさされないよう気をつけたいものです。

(執筆者:tiancun)


※1 Gilovich, T., Vallone, R., and Tversky, A. (1985) The hot hand in basketball: On the misperception of random sequences. Cognitive Psychology 17: 295-314.

※2 Neiman, T., and Loewenstein, Y. (2011) Reinforcement learning in professional basketball players. Nature Communications 2: 569.

※3 Bar-Eli, M., Avugos, S., and Raab M. (2006) Twenty years of “hot hand” research: Review and critique. Psychology of Sport and Exercise 7: 525-553.

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