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敵をだますにはまず自分から?

「これぐらい徹夜すればなんとかなるさ」と思って結局なんとかならなかった経験をお持ちの皆さん、こんにちは。そういうとき、自分の能力の低さと見積りの甘さを呪い、己の愚かさに打ち震えながら後悔しますよね。逆に、「なんであいつはできもしないくせにああも自信満々なのだ」と毒づきながら、自信過剰な同僚の尻拭いのために深夜のオフィスで残業したことのある読者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

どうも我々人間というやつは、天狗になりやすいのかそれとも生まれつき楽天家なのか、自分の能力の評価というものが苦手なようです。さまざまな社会学の研究によると、人間は自分が他人よりも優れていると思う傾向があるようです。たとえば、25%の人が、自分はリーダシップで上位1%に入ると思っているとか、90%以上の人が自分は平均よりも運転がうまいと思っている、などの調査結果が報告されています(※1)。

では、なぜ人間はこうも自分の力量を見誤るのでしょうか?

自己欺瞞の進化

ここからは、自分の能力に対する(誤った)思い込みのことを「自己欺瞞」とよぶことにします。進化生物学者は、この「自己欺瞞」が進化した理由を説明するために、ある仮説を提唱しています。この仮説によれば、自己欺瞞が進化した理由は、他人を効率的にあざむくためなのです(※2)。

もし、意図的に嘘をつこうとすると、それに伴って様々な「兆し」が現れるかもしれません。たとえば、嘘をつくとき、眼が泳ぐ人、いますよね?とすると、それを見破ることは比較的簡単そうです。では、どうすれば相手に嘘を見破らせないか?自分でも意図せずに嘘をつけば、見破られずに相手をだますことができそうではないですか?

自信過剰な人ほど評価される

この仮説の検証のために、Lamba博士とNityananda博士は、大学生を対象にして面白い実験を計画しました。博士たちは、ある授業の初回のチュートリアルの時に、参加した学生に、自分とクラスメイトの成績を予想してもらいました(※3)。博士らは、自分が予想した成績と実際の成績との差を使って「自己欺瞞度」(=嘘つきの度合い)を測りました。自己欺瞞度が正の値なら自分のことを過大評価している人で、負の値だと自分のことを過小評価している人ということになります。続いて、クラスメイトが予想した成績と実際の成績との差を使って「騙し度」(=クラスメイトを騙せたかどうか)を計算しました。これは、正であればクラスメイトに自分を過大評価させていることになり、負であれば過小評価されていることになります。

さて、結果はどうだったでしょうか?まず、約4割の学生が、自分の成績を過大評価していました(※4)。そして、「自己欺瞞度」が高いほど「騙し度」が高い傾向がありました(※5)。つまり、自分の成績を過大評価している人ほど、他の人からも高く評価される傾向にあったのです。加えて、「自己欺瞞度」が低い人(=自分に自信がない人)は、クラスメイトからも低く評価される傾向がありました。

おわりに

この研究が示唆していることのひとつは、人間が自分と他人の能力を評価することの難しさです。他人を評価しなければならないときに、自信過剰なだけの人のことを過大評価してしまっていないか?そもそも、自分自身も自信過剰なのではないか?そんなことを考えだしてしまって、読みながら怖くなりました。解決策が提示されているわけではありません。それでも、結果を心にとめておきたい論文でした。

(執筆者:tiancun)


参考文献

Lamba S., Nityananda V. (2014) Self-deceived individuals are better at deceiving others. PLoS One 9, e104562.

※1 https://en.wikipedia.org/wiki/Illusory_superiority

※2 自己欺瞞の進化についてもっと詳しく知りたい方は、デイビッド・リヴィングストン・スミス『うそつきの進化論』(日本放送出版協会)をどうぞ。

※3 被験者は大学一年生73人で、そのうち71人は入学まではお互いのことを知りませんでした。

※4 自分を過大評価していた人の割合は約40%、正確に自分の成績を予想した人は約15%、過小評価していた人は約45%でした。

※5 同じ評価を、6週間後の授業終了時にしてもらったときも、自信過剰な人が過大評価される傾向は変わりませんでした。



これまでのあんそろぽじすとの記事は以下からご覧ください。

https://note.mu/anthropologist/m/mf200d5ddbbe8?view=list

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