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社会性が生死を分ける?

沢山のビジネス書で、コミュニケーション能力・社交能力を身につけることが、厳しい就活戦線や社会人生活で生存するための必須条件だと言われています。社交能力は、ビジネスの世界だけでなく、研究の世界でも重要です。無能のふりをして降ってくる雑用を回避し(※1)、学生におごらずしかしその不満の矛先を日本経済へとそらし、仲の悪い教授たちの間をとりもちプロジェクトを円滑に進める、そんな能力が現代の研究者には不可欠なのです。しかし、社会性が生死を分けるのは、何も人間だけではありません。

社交的なヒヒのこどもは生き残りやすい

シルク博士とその共同研究たちは、16年間にわたる調査の結果を総合し、サバンナヒヒで、社会性がこどもの生存率に影響を与えていることをつきとめました。もう少し具体的に説明しましょう。シルク博士たちは、ヒヒのメス1匹1匹について、(1) 他のヒヒと一緒にいる頻度(5m以内にいるか=ぼっちでない)、(2) 毛づくろいしている頻度、(3) 毛づくろいされている頻度、という3つを組み合わせて、各ヒヒが社交に費やす時間を表す指標を作りました。この指標が高いヒヒほど、より社交的ということになります。多くの霊長類(いわゆるサルの仲間たちです)では、毛づくろいが、社会関係を生み出し維持するのに重要な働きをしていると考えられています。シルク博士たちは、この社会性の指標が高いメスのこどもほど、一歳まで生き残る確率が高いことを示しました。つまり、社交的な親ほど、こどもを多く次世代に残す傾向があったのです。

社交性がこどもの生存率に影響を与える具体的なメカニズムははっきりしていませんが、ストレスを減少させること(※2)や、ハラスメント(※3)から守ってもらえることを、シルク博士たちは候補として挙げています。後者はたとえば、こどもに危害を加えようとしてきた相手に対して、協同してこどもを守ってくれる仲間を作る、ということです。まだまだわかっていないことは多いですが、社会関係に悩んでいるのは我々人間だけではないのかもしれません。

最後に

このような事実を明らかにすることができたのは、シルク博士らの16年にもわたる努力と、ナショナルジオグラフィックをはじめとする団体の資金援助によります。粘り強く研究を続けていくことで発見が生まれるということを示してくれている論文でもあると思います。

(執筆者:tiancun)


元論文:Silk et al. (2003) Social bonds of female baboons enhance infant survival. Science 302, 1231-1234.


※1 性格と能力によっては暴君と化し嫌なことはすべて他人に押し付けるという戦略をとることも可能ですが、そのしわ寄せは大抵弟子にいきます。

※2 人間の場合でも、良好な社会関係を築けないことが心身の病気にかかるリスクを高めることが報告されています。このトピックについてもっと知りたい方は、ニコラス・クリスタキス『つながり』がおすすめです。

※3 ヒトを含む霊長類で、(オスによる)子殺しが様々な行動に与える影響が研究されています。このトピックについての最近の教科書として、山極寿一『家族進化論』の第4章などがあります。


これまでのあんそろぽじすとの記事は以下からご覧ください。
https://note.mu/anthropologist/m/mf200d5ddbbe8?view=list

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