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髭ガードの効果のほどは

髭ってなぜ生えているのでしょうか。それは、多くの人類学者が探求している謎のひとつです。これまでのあんそろぽろじすとでも、「転校生はモテる?」「おひげの人が多いのは」で髭の話をとりあげましたが、これは、「異性から魅力的に映るか」を検証した研究でした。

他にも髭の効果を扱った研究があり、髭が生えていると、生えていない場合に比べて、「社会的地位」が高く、「アグレッシブさ」が強いように評価されると報告されています(※1)。戦国武将の顔も、髭があるのとないのとでは、だいぶ印象が変わると思いませんか?では、その印象は正しいのでしょうか?今回紹介するのは、髭が戦いに役に立っているかどうかを調べようとした研究です(※2)。

この研究で検証した戦いに関する髭の仮説はふたつです。ひとつめは、髭があることで、攻撃から身を守る働きがあるのではないか、というものです。もふもふの髭は、たしかにクッションになってくれるような、くれないような気がします。

ふたつめは、むしろ、髭はハンディキャップなのではないか?というものです。つまり、最初の仮説とは逆に、髭は戦いに邪魔なものだというのです。たしかに、髭が生えていると、相手から掴まれやすくなってしまいそうですよね。では、なぜ、邪魔なはずの髭を生やすのでしょうか?もし髭がハンディキャップなら、髭を生やせるのは、髭というハンディキャップがあっても戦いに勝てる男性となるでしょう。こうした理由で、髭は「強さを表すシグナル」として機能しているのではないかという仮説です。

髭ファイターの強さのほどは

著者らは、世界最大級の総合格闘技団体Ultimate Fighting Championship(UFC)の戦績のデータを使ってこれらの仮説が検証できるのではないかと考えました。対象としたのは、395人の選手による600試合です。

著者らは、もし、髭に防御効果があるならば、髭の生えた選手はノックアウトされづらいと考えました。また、もし、髭が「強さを表すシグナル」なら、髭を生やした選手は生やしていない選手よりも勝利しやすいはずだと考えました。

統計解析には、選手の戦績を説明する要因として、体重やファイティング・スタイルや、リーチなどとともに、髭の有無が組み込まれました。つまり、他の諸々の要因を考慮してなお、髭の有無によってノックアウトされやすかったり勝ちやすかったりしたかを分析したのです。

髭はこけおどし?

解析の結果はどうだったのでしょうか。なんと、髭には、なんの効果もみられませんでした。髭が生えた選手は、生やしていない選手に比べてノックアウトされるにくいことも、髭を生やしていない選手よりも勝利をおさめやすい傾向も、ありませんでした。勝敗に関して統計的に有意な効果がみられたのは、選手のリーチでした。

著者らはこの結果から、髭は、実際よりも自分を強く見せようとする「ニセの」シグナルである可能性がある、と考察しています。髭が生えていると、「社会的地位」が高く、「アグレッシブさ」が強いと評価される傾向があると報告されています(※1)。そのため、実際には強さがともなっていなくても、髭が生えていれば、対戦相手に「こいつは手強そうだ」と思わせる効果があるのかもしれません。

勝負に関するデータの統計解析はなかなか複雑なので、今回の結果だけから髭が(一般の)競争の勝敗におよぼす効果の有無を結論づけることは難しいでしょう。他のスポーツではどうなのかも、調べてみたいところです。

(執筆者:tiancun)

※1 Dixson BJ, Vasey PL (2012) Beards augment perceptions of men's age, social status, and aggressiveness, but not attractiveness. Behavioral Ecology 23, 481–490.

※2 Dixson BJW, Sherlock JM, Cornwell WK, Kasumovic MM (in press) Contest competition and men’s facial hair: beards may not provide advantages in combat. Evolution and Human Behavior. doi: 10.1016/j.evolhumbehav.2017.11.004.

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