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シリーズ「新型コロナ」その36:徹底検証!ダイヤモンド・プリンセス号の真相

■ダイヤモンド・プリンセス号の対応は日本の感染症対策の試金石

大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号でいったい何があったのか?
クルーズ船での検疫・隔離・感染管理対応は、いわば日本のその後の新型コロナ対策の縮図だとも言われている。
クルーズ船対応は成功だったのか、失敗だったのか?
いずれにしろ日本にとって、その後の運命を占う重要なミッションだったことは疑いようがない。
では、その重要なミッションからどのような教訓が読み取られ、それを後々に活かせたのだろうか。
そこで、このシリーズでは、何回かに分け、様々な専門家の発言も踏まえつつ、そのあたりを徹底検証していく。
この検証作業は、コロナ以後(ウィズ・コロナ)の時代を、日本がどのように歩んでいくべきかを示す指標ともなるはずだ。

まずは、ヘッドラインとして、6人の専門家の発言を載せておく。

「現状の日本の船舶検疫は国際保健規則32条に違反している。」(関家一樹・海事代理士)
「経験に乏しい日本は、従来と同じ方法で検疫を強行してしまった。その結果が、歴史に残る集団船内感染だ。今回の検疫の問題は、これだけではない。私は、そもそも必要がなかったのではないかと考えている。」(上昌広・医療ガバナンス研究所理事長)
「船内は悲惨な状態だった。20年のキャリアの中で今回ほど自分が感染するのではないかという恐怖を感じたことはない。最大の問題は、指揮権が厚生労働省にあったこと。“専門家軽視”の姿勢が今回のクルーズ船の惨事に繋がった。」(岩田健太郎・神戸大学教授、感染管理の専門家)
「日本では「科学」が「政治」と「官僚」に埋もれてしまっている。今からでも遅くはない。科学者が先頭に立ち、官僚が支えるシステムを大至急、整えるべきだ。」(木村正人・在ロンドン国際ジャーナリスト)
「このあと日本ではCDC(疾病予防管理センター)もできないし、保健所も増えないし、感染症病床も増えないし、医療器具の備蓄も増えません。そして、いずれ次の感染症のときにまた医療崩壊に直面することになる。」(内田樹・神戸女学院大学名誉教授、思想家)
「喉元過ぎて熱さを忘れる前に、今回の事案をきちんと分析・評価して、この教訓を日本そして世界の将来に役立てなければならない。」(國井修・グローバルファンド〔世界エイズ・結核・マラリア対策基金〕戦略投資効果局長)

■タイムテーブル:クルーズ船の足跡を追う

さて、大型クルーズ船の中で感染症が起きるとはどういうことか、その真実をあぶり出すため、今回は事の経緯をなるべく詳しく時系列で追ってみた。

※ここに示すタイムテーブル作成にあたっては、次のサイトおよびテレビ番組を参考にした。
https://www.nhk.or.jp/special/plus/articles/20200507/index.html
https://bungeishunju.com/n/n28f83dea06f3
https://president.jp/articles/-/33106
フジテレビ4月19日放送「日曜THEリアル!・シンジジツ【豪華客船新型コロナ感染拡大舞台裏その時政府は】」

※乗客目線の部分、船内放送、乗客に配られた資料の内容は、実際の乗客のひとりだった小柳剛氏(※)のレポートによる。
https://president.jp/articles/-/35068
https://president.jp/articles/-/35069
https://president.jp/articles/-/35410?cx_testId=7&cx_testVariant=cx_1&cx_artPos=7#cxrecs_s
https://president.jp/articles/-/35789
https://president.jp/articles/-/35984?page=1

※小柳 剛(こやなぎ・つよし):東北新社にて、外国映画、海外テレビドラマの日本語版吹き替え・字幕制作、アニメーション音響制作、およびテレビCM制作に従事し、退社。
著書:『パンデミック客船 「ダイヤモンド・プリンセス号」からの生還』(KADOKAWA)

※日付に関しては、なるべく厳正に調査したつもりだ。ただし一日の出来事は順番が判然としないものもある。多少のズレはご勘弁願う。

<ダイヤモンド・プリンセス号メガクラスターの経緯>

1月20日
大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号が横浜を出港。

1月25日
香港到着。ここで旅を終えた香港在住の一人の男性(80歳)が下船。

1月30日
WHOが緊急事態宣言。

1月31日
船内の医務室から厚労省那覇検疫所に一通のメールが届く。「香港を出たあと、船内に発熱者が10名以上出ている」という内容。

2月1日
那覇港入港。検疫が行われるが、検温と中国への渡航歴があるかの問診だけ。PCR検査は行われず。異常がなかった2600名は沖縄観光へ。

2月2日
未明に、香港で下船した男性の感染が判明(香港発表)。

2月3日
感染者が乗っていたことがはじめて乗客に知らされる。乗客に危機感なし。
横浜市が神奈川県健康医療局に発熱者4~5人の搬送を依頼。
厚労省の当時の説明:
「経過観察し、問題なければ自宅に帰ってもらい、発熱などがなければ連絡してもらい、検査をあらためて行う」
午後8時、横浜港沖に入港。船内のレストランでは盛大なパーティー。3密状態が何時間も続く。
深夜、検疫のため厚生労働省の職員(検疫官)たちが船内に乗り込む。防護服姿で検疫開始。

2月4日
乗客はいつものように14階のビュッフェで朝食をとる。客室での隔離はまだなされていない。
この日から、ビュッフェでは、客が入れ替わる度に、ウエイター、ウエイトレスが椅子とテーブルを入念に拭くようになる。しかし、よく絞らず濡れたままの紙のナプキンで拭くため、椅子もテーブルも濡れたまま、ベトベトだった(小柳氏談)。

検疫中にも船内ではイベント実施。
厚労省が神奈川県健康危機管理課に受け入れ先病院の確保を要請。しかし患者に関する詳しい情報がいっさいなかった。
PCR検査の結果、31人中10人の陽性確認。
政府は乗客の船内隔離を決定。
その後は、乗員もマスク・手袋着用、配膳時にはドアノブにも触れないように注意。
この時点でまだ乗客側も状況がつかめていない。Wi-Fiがようやくつながりはじめる。
船内放送で「検疫作業は70%終了」というアナウンスが入る。部屋にいない人間に対し、部屋番号を読み上げ、部屋に戻るよう何度も放送。プールのそばでマージャンをやっていたり、卓球している客もいたという。
「乗船客の数に対して、検疫をするスタッフが圧倒的に足りない」と放送。

2月5日
早朝、沖に停泊中の船に厚労省職員が乗船し、乗客を客室に隔離。
「昨日10名の感染者が判明。これから原則14日間の隔離を行う。全員室内にとどまれ。船はこれから生活用水確保のため外洋に出る」の放送。
厚生労働省の電話番号を伝えるとともに、各部屋備え付けの電話で通じるという案内もされる。
その間、乗員は食堂で並んで食事、調理スタッフはマスク着用せず。

この瞬間から、薬を常用していた乗客は、薬の確保に追われる。船のフロントに連絡しようとしても通じず、厚労省に直接問い合わせると、「まず船医の判断が優先されるので、船の医務室に問い合わせてくれ」という返事だったという。官僚的で無責任な対応に、「厚労省の判断で船内隔離しているのではないのか」と腹を立てる。しかし実際には、薬は厚生労働省が発注し、乗客に配られた。いつ窓口が船医から厚生労働省に変わったのか、知らされないままだった。
どこへ電話しても通じず、通じたところは対応が素っ気なく、まるで乗客を無視するかのように、船はその日の昼頃外洋に出た。この船による「無視」がうろたえさせ、恐怖(常用薬が切れる恐ろしさなど)を感じさせた(小柳氏談)。

その頃、船のフロントも船内の医務室(外国人医師2人、日本人医師1人が詰めている)も電話がパンク状態だった。隔離生活に入ったことで、薬不足に加えて、タオルやごみ袋の交換、食事についての問い合わせなど、フロントに対しては通常の船旅をはるかに超える相談が殺到し、医務室でも発熱者等の患者への対応が限界を超えていた。

結局、その日の朝食は12時半頃に届けられた。そのとき船はすでに外洋に向けて動き出していた(小柳氏談)。

2月6日
接岸。新たに10人の感染が判明(計20人に)。
自衛隊に出動要請。
神奈川県の職員が独断で神奈川DMATに出動要請。その後神奈川県知事も承認。
厚労省も日本DMATを派遣
厚労省が検疫作業し、自衛隊が全活動サポート。
船内のレストランに対策本部設置。

2月7日
新たに41人の感染が判明(計61人に、うち乗員5人)。
アメリカ国籍の83歳の女性が体調不良を訴え、救急搬送される。コロナ感染ではなく、持病の心不全が悪化したからだという。

2月9日
災害派遣精神医療チーム(DPAT)が船内に入り、乗客へのメンタルヘルスケアを実施(~14日)。

2月10日
感染者計161人に。
この頃から、船内で乗客の生活を支えていた乗員たち、いわゆる“エッセンシャルワーカー”(社会に必要不可欠な仕事を担う人)の間からも感染者が出始める。
菅義偉官房長官が「全員に対する検査は難しい」と表明。
乗客のアーノルド・ホプランド元医師は、隔離が不十分な(グリーンゾーンがない)のを見抜き、アメリカにチャーター機を要請。
厚労省DMATの近藤久禎事務局次長の要請により、日本環境感染学会の医師たちが乗船。
橋本岳厚労副大臣も乗船。
「海水を真水にするのに、10時間沖に出る」と船長から報告。「陽性者を下船させてほしい」と頼まれ、港のターミナルに41名の陽性者のための救急搬送の待機所を設置。
「発熱患者が日々60人出ているのに、それに対して医療チームが到達するのに3日くらいかかってしまう」(厚労省DMATの近藤久禎事務局次長談)
このとき、発熱患者をPCR検査してみると、陽性率は5割以上だった。
発熱者の陽性率が5割を超えているなら、発熱者はすべて陽性者として扱う必要があるので、検査の優先度は低い。症状の重篤さで優先順位をつけるしかない、との思いからトリアージ開始(近藤氏談)。
薬は船に届いていたが、乗客には届かず。外国語の壁、薬の事情が国によって違う、などの理由。

2月11日
感染制御の専門家チームが、その原因の究明と対策に乗り出す。
船内の感染症に対する備えを調査したところ、厳密なルールが定められ、緊急の事態に備えて手袋や医療現場で使用されるN95マスクなども備蓄されていた。しかし、N95マスクは装着すると痛みや息苦しさを感じる。多くの乗員がヒモを外すなど、正しくない着け方をしていた。また、マスクを気にして手で顔を触る頻度も増えていた。
乗員の多くは2段ベッドで共同生活を送り、食事もシフト制で大勢が食堂に集まっていた。乗客が隔離されている間も乗員は働き続けた。
この日くらいから、陽性と診断された人が治療のために、数十人規模で船外の医療機関に搬送されるようになった。
ここで信じられないような現象が起きる。自分で元気に歩いて搬送車両に乗った人が、搬送の数時間の間に容体が急変したという。受け入れ側の病院も異変を感じていた。無症状の人や軽症の人でも、CT検査を行うと、およそ半数に肺炎の所見が見られたという。
「症状がないのに出る肺炎、という意味で『サイレント肺炎』とわれわれは呼びました。」(自衛隊中央病院 感染症内科医官 田村格1等海佐談)

2月12日
感染者計174人に。厚労省の職員(PCR検査にあたっていた検疫官)も感染。

2月13日
感染者計218人に。
客室に、次のような内容の船内新聞が届けられる。

〈厚生労働省からプリンセス・クルーズに以下のように通知があったことを皆様にお知らせいたします。
〇バルコニーのないお部屋に滞在中の80歳以上のお客様、または慢性持病をもつ80歳以上のお客様からすでに検体を採取しました。
〇陽性反応の出たお客様を陸上の医務機関へ搬送し、検疫期間を続けます。陽性反応の出たお客様と近い接触のあったお客様に関しましては、現時点では下船できません。
〇陰性反応の出たお客様には次のどちらかの選択肢がございます。船内客室に残られること、もしくは下船をし、かつ日本政府管理の施設にて感染症の潜伏期間が過ぎるまでお過ごしいただくこと。
〇ダイヤモンド・プリンセスにおける検疫期間は続き、厚生労働省から必要と判断されたお客様より検体を回収します。検査結果は後ほどお知らせいたします。
私共は、日本政府と連絡を取り続け、日本政府からできるだけ多くの情報を頂き皆様に共有いたします。また、厚生労働省より最近の検査で44人のお客様から陽性反応が出たと通知されました(※)。毎度のように、詳細が分かり次第皆様にお知らせいたします。皆様のご理解とご協力に心より御礼申し上げます。〉

※報道により、この時点での感染者が218人であることを、乗客は知っていたはず。

陰性者に対し、船にとどまるか、外の施設に移るかの選択をさせるなど、14日間という健康観察期限を表面上維持しながら、弱者から下船させようという動きが、この時点で出てきたことに、小柳氏は「検疫や隔離にあたって、厚労省には初めから基本方針がなかったのではないか」と疑った。

2月14日
朝九時半頃、厚生労働省の橋本岳副大臣が船内放送で唐突に発表。
内容は、薬の配布が11日で終わった、体調悪化の人に対し緊急の電話窓口を設置した、80歳以上の人に対して検査をはじめた等々、今までの実績を並べ立てるのみ。

「なんですんだことをわざわざ言うのか。これから何をするのか、どんな方針を立てているのか、その説明をなぜしないんだ!」
「橋本副大臣の口調には自慢げなものすら感じられた。
閉じこめられ、不安のなかにいる人々の気持ちがまるでわかっていない。ほんとうに腹立たしかった。
何千人という人間を隔離するには、余程の“繊細な手つき”というべきものが必要なのだ。
そのような気配は橋本副大臣の口調からは一切感じられなかった、このことは絶対に忘れないだろう。」(小柳氏談)

日本環境感染学会の医師たちが下船を表明。「学会と病院の指示だ」と理由を説明。
厚労省DMATの近藤久禎事務局次長は「専門家でさえもいられないと判断するようなところに、我々を残して帰るんですか!?」と憤慨。
「専門家がいられない場所であると認定されてしまったようなもの。それ以来体制が弱体化したのは事実」(近藤氏談)
加藤厚生労働大臣発表:
「14日間の保護観察期間中に発熱その他の呼吸器症状がなく、かつ当該期間中に受けたPCR検査の結果が陰性であれば(※)、14日間経過後に公共交通機関等を用いて移動しても差し支えないとの見解を示した」

※「14日間のどこかの時点で一度だけ検査して、その結果が陰性なら感染していないと見做し、下船の許可を出す」ということらしい。「早めに検査した人は、その後感染しない」という想定になってしまっている。

2月15日
厚生労働省が報道関係者向けに出した次のようなプレスリリースの内容が、乗客にも配られる。

報道関係者 各位
クルーズ船 ダイヤモンド・プリンセス号からの下船について
1 国立感染症研究所は、武漢からのチャーター便第1便から第3便までのPCR検査の結果(565人が陰性、陽性の1人についてもウイルス検出量は陰性に近いレベル)を踏まえ、14日間の健康観察期間中に発熱その他の呼吸器症状が無く、かつ、当該期間中に受けたPCR検査の結果が陰性であれば、14日間経過後に公共交通機関を用いて移動しても差し支えないとの見解を示しています。
2 クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の乗客のうち、陽性者や陽性者と同室の方を除く70歳以上の高齢者については、PCR検査を実施済み又は実施中です。このPCR検査で陰性の方については、上記1の見解に基づき、14日間の健康観察期間が終了する2月19日から、この14日間の健康状態を改めて確認し、問題が無い方については更なるPCR検査を行わずに、順次下船していただくこととします。
3 さらに、陽性者や陽性者と同室の方を除く、70歳未満の方については、2月16日目途から順次PCR検査を実施し、その結果が陰性の方についても、上記2と同様の取扱いとします。
4 この間同室者が陽性であった方については、その方について感染拡大防止対策がとられた時点から、上記2に従って対応します。
以上

これによると、PCR検査の対象となる人の検体を全部取り終える日から経過観察期間満了日である19日までの間の数日間に感染する可能性は完全に無視されている。しかし、その間も乗客は船内を散歩もしているし、食事の受け渡し時にクルーとも接触している。
「2月19日というタイムリミットありきの判断ではないか」(小柳氏談)
この日あたりから、各国がチャーター機を日本に飛ばし、自国民を連れ帰ることがはじまる。

2月16日
感染者計355人に。

2月17日
陰性が確認された米国人乗客約330人がチャーター機にて帰国の途に。
加藤勝信厚生労働相が感染予防に向けた「相談・受診の目安」を公表。風邪の症状や37.5度以上の熱が4日以上続くか、強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合は全国の保健所などに設けられた「帰国者・接触者相談センター」に相談するよう求めた。

※この時点で、厚労省はこの新型コロナウイルスによる肺炎が、症状のないところから数時間で急激に悪化する「サイレント肺炎」であることを知っていたはず。

2月18日
感染者計542人に。
感染管理のプロ・岩田健太郎教授が乗船するも、2時間で追い出される。その後、YouTubeで船内の現状を告発。
「この仕事を20年以上やっていて、アフリカのエボラ出血熱とか中国のSARSとかいろんな感染症と立ち向かってきたが、今回ほど自分が感染するのではないかという恐怖を感じたことはない。
船内は悲惨な状態で、ゾーニングはぐちゃぐちゃ。PPE(個人防護具)を着ている人の横を、背広を着て、サージカルマスクして、携帯を手に持ってずかずか歩く人がああだこうだと議論をしていた。」
「確かに、船内には国立感染症研究所の疫学チームや日本環境感染学会の災害時感染制御支援チームなどが入っていました。しかし、それは「専門家がいる」という数を合わせていたという程度で、実質的な感染防御機能の向上に寄与していないに等しかった。
派遣されたDMATも、災害現場での外傷や熱傷の治療が専門です。もちろん、DMATに専門外の感染対策能力を求めているわけではありません。役割が違うということです。
 最大の問題は、指揮権が厚生労働省にあったことです。船内の隔離はどうするか、ゾーニングはどうするか、防護服は誰が着て、どう脱ぐのか、こうしたことを決めるのは官僚の仕事ではありません。彼らは感染対策については素人で、今回のように医学的な意思決定など絶対にしてはいけないはずなんです。
こうした政治主導のもと、「安全」よりも「安心」を求める傾向が顕著で、ネガティブな指摘は絶対にしてほしくないという空気が現場に漂っていました。現に私が、船内で厚労省の幹部に具体的な対策を進言しても、「何でお前がそんなこと言うんだ」と冷たい態度を取られました。
 菅官房長官が2月18日の会見で「全て終わった後に検証して(略)次につなげていきたい」と語りましたが、終息して半年もすれば、「やるだけのことをやって、もう終わったんだからいいじゃないか」となるのが日本の国民性です。」
https://bunshun.jp/articles/-/36902

2月19日
検疫終了。約500人の下船開始(21日までに順次下船)。最後にPCR検査せず、検温だけ。乗客の多くは横浜駅で解散。
下船許可が下りた人には、次の2種類の書類が渡された。

「検疫法第5条第1号に基づく上陸許可について」
上記の者は、2月3日に横浜港に寄港したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」において、新型コロナウイルスの感染者が確認された令和2年2月5日午前7時より自室で14日間の健康観察期間を経過し、ウイルス検査で陰性が確認されました。また、下船時にも発熱等の症状がなかったことから、新型コロナウイルスに感染しているおそれがないことが明らかである旨の検疫所長の確認を受け(※)、検疫法第5条第1号に基づき本邦に上陸を許可された者であることを証明します。なお、上陸後は、日常の生活に戻ることができます。
横浜検疫所長 北澤潤

※この許可証は、横浜検疫所長の北澤潤氏が発行した書類ということになっているが、文面では「所長の確認を受け」という表現になっている。そもそも誰が発行した許可証なのか?

「ウイルス検査で陰性が確認され下船される皆様へ」
・あなたは、船内の自室で待機をお願いした健康観察期間が終了し、新型コロナウイルスに感染しているおそれはないと判断されたため、検疫所長より上陸が許可されました。
・しかしながら、念のため、下船した後も、以下のような行動をしていただきますよう、よろしくお願いいたします。
*一般的な衛生対策を徹底してください。(一部略)
*健康状態は毎日チェックしてください。
・毎日、体温測定を行い、発熱(37.5℃)の有無を確認してください。
・咳や呼吸が苦しくなるなどの症状の有無を確認してください。
・厚生労働省(又は保健所等)より、定期的に電話・メールであなたの健康状態を確認させていただきますので、確実に連絡のとれる連絡先をご記入し、下船時に検疫官に提出してください。
*咳や発熱などの症状が出た場合
・そのような場合には、学校や会社を休み、不要不急の外出を控えてください。やむを得ず外出する場合は、必ず、公共交通機関の使用は控えてください。
・マスクを着用し、あらかじめクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗船していたことを電話連絡し、すみやかに医療機関を受診してください。
・受診した場合は、厚生労働省健康フォローアップセンターにご報告ください。
電話:03―5253―××××(内線4757、2430)
夜間:03―3595―××××
メール:××-up@mhlw.go.jp

最初の書類では、経過観察期間が終了し、検査の結果も陰性だったため、上陸後は、日常生活に戻れる旨が書かれている。だからこそ、横浜駅までバスで送られた後は、自由解散となり、公共交通機関を使って帰宅していいということになったはずだ。ところが、もうひとつの書類では、帰宅後は不要不急の外出を控え、やむを得ず外出する場合は、必ず公共交通機関の使用は控えるよう指示されている。
このダブルスタンダードは何なのか?
現に、小柳氏と夫人は、帰宅してからちょうど14日目に保健所によるPCR検査が行われるまで、事実上の自宅待機生活を送らなければならなかったという。

2月20日
岩田教授の内部告発を受けて、橋本岳厚生労働副大臣は、船内を適切に衛生管理していることを示す写真付きのツイートを投稿したが、「ゾーニングができていない」という疑念が浮上し、その後写真のみ削除。
「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客でウイルスに感染していた神奈川県在住の日本人男性(87)と東京都在住の日本人女性(84)が死亡。
また船内で事務業務に当たっていた厚労省職員の40代男性と内閣官房職員の30代男性が検査の結果、陽性であることが判明。
※実働部隊ではなく後方支援部隊に感染者が出るということは、ゾーニングが徹底できていなかった証拠だ。

2月22日
栃木の女性が実家に戻った後に発熱。陽性が判明。

2月28日
下船後すぐにスポーツクラブを利用した静岡市の男性の感染を確認。

3月1日
乗客・乗員3711全員下船完了。

※菅官房長官は次のように総括した。
「クルーズ船の感染拡大防止に向けた政府の取り組みについては適切であった」

※4月17日現在
クルーズ船感染者712人、死者14人(外国籍含む)


さて、以上クルーズ船での対応の経緯をまとめてみると、3つの重要なターニングポイントがあったことがわかる。その分岐点で選んだ道が、まさにその後の日本のコロナ対応と絶妙にオーバーラップしていると感じる。
〇ひとつは、まず最初に感染症の専門家ではなくDMATが現場に入ったこと。
〇次に、感染症の専門家集団が次々に乗船するが、数日間で下船してしまったこと。
〇もうひとつは、感染管理の専門家である岩田教授が乗船後2時間で追い出されてしまったこと。
これらは、いかなる事情によるものなのか、次回からは、これらのことを徹底検証していく。


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