見出し画像

「ふたり信じあってきたことが、ここまで歩いてきた証だから」──『見たことない魔物』感想文


 先日MVが公開された日向坂46四期生楽曲『見たことない魔物』、最高でしたね。
センターのかほりんの今現在に全力を注ごうと割り切ったアイドル観の発露や、フロントを務める陽子の変わらないスター性、レジェのパフォーマンスのしなやかさ、きらくらげのウキウキダンスなど四期生のもつ魅力が日向坂の記憶をなぞって発揮されていてリピート必至です。あなたもリピートしまくってください。今回残念ながら欠席となった岸くんを含めたフルパフォーマンスを観る瞬間が今から待ち遠しく、その時が訪れていない以上まだ日本は夏を迎えていないということになります。なるんです。わしは正気だ。

 MVに目を向けると、校舎、体育館、プールとハンドダンスを繋げていく構成やダンスに紛れ込んだオマージュなど、全編を通してドレミソラシドを踏襲していく様は「あの頃の日向坂を」というファン側の求めに対して発せられた「あの頃──まだスタートを切ってまもないからこそ溢れていたエネルギーを今体現できるのは四期生である」というアンサーのようにも思えます。
この辺は見た人全員が思うことでもあるでしょうしさんざっぱら考察もされていることで、わしのような輩がノコノコ顔をだして言及するのも野暮ったいため、この辺で。

 ということで、そもそもこのnoteは初見ではあまりの楽曲の良さに脳にちっとも残らなかった歌詞について改めてちょっとフォーカスしたいなと思い始めたんでした。それすら忘れかけていた。
 おそらくあまり行儀の良い行いではないと思うので歌詞を耳コピして完全掲載するみたいなことはしませんし、従って全体的に竹内きぁりの笑顔くらいフワフワした雰囲気になってしまっている恐れがありますが、全部かーた陽菜が言ってると思って許してください。

 まず歌詞について全体的な印象として最初に抱いたのは「ドレミっぽさに気を取られていたけど、確かにこれは応援歌の部類だな」といったもの。応援歌というか、登場人物が対象人物を鼓舞する歩みについての歌詞っぽくて、なるほどどうして四期生が青春の馬のアイデンティティを継承するという流れを組んだ楽曲と言って良いのかもしれません。
 たださらによく聞くと、どうやらこの曲の視点人物(便宜上「僕」とします)が対象人物(同上「君」)に対してひたすら「大丈夫」「信じてほしい」と語りかける内容となっており、ここには「僕」が抱える一種の不安を感じざるを得ません。
 「僕」は「君」を信じながら、「会えるはず」と言って確信に至らない願いを口にしたり、また「それでも愛しているか」と問いかけたり、信じる心と裏腹に抱え続ける不安を滲ませます。

 お互い離れたところから一つの約束に目がけて歩むというストーリーの中にあって、約束というものは存在したその瞬間から「破られる不安」を連れ立ってしまうものです。この「僕」はその約束がついぞ守られることを、自分が「君」を信じることと「君」が自分を信じること、つまりお互いを信じ合えることそのものを「今を信じる根拠にしたい」という、どこか幼さすら漂わせる純粋な願いを持っているように感じます。

 それらはこの不安定な情勢の中で常に不安を抱えながら生きている私たちが、青春を費やしアイドルという偶像であり続けてくれる彼女たちを「信じる」ことで安らぎや勇気を貰うことに、もしかしたら通じているのかもしれません。
 思えば、サビで印象的にリフレインするフレーズ(荒野の7人のサンプリング)から始まる冒頭、この歌はまず「僕ならここにいるよ」と語りかけてきます。「僕」から「君」への投げかけであると同時に、画面の向こうの我々に向けられたフレーズにも思えます。。
 つまりこの曲は、最初から「僕」と「彼女」の願いと「私たち」とを繋げるところから始まっている……と言ってもいいのかもしれません。

 2人が約束の丘にたどり着いた時、その場所まで歩んできたという事実が、お互いを信じ合えた証になり、或いはお互いが信じ合うことそのものがこれまでの歩みに意味を持たせてくれるはず。
 まだ歩みの途上にあって大きな不安を抱えながら「僕は君を信じるから、僕が信じる君を信じて」と唱えるその姿は、アイドルにもファンにも投影でき得ることだと思います。

 不安という恐怖は理解の範疇の外にあり、あるいは納得という落とし所を与えてくれません。暗闇は視覚を奪うことで、静寂は予感を与えることで人に恐怖感を植え付けます。
意識や認識の範疇にないものに恐怖を抱くというのは原初的な感性であり、人は常に「理解」や「意味」を与え「安心」や「納得」を獲得することでそれらに対処してきました。
時には神の意志であるとして。また悪魔や妖怪、魔物の仕業として。

 先行きの見えないこの不安定な世界、何が起こるのかという予測を奪い去ってしまった世界、どんな見たことない魔物が目の前に立ちはだかったとしても、彼女たちが「僕を信じてくれないか」と歌うなら、私はそれを信じてみたいと思います。
 
 グッズを買ったり、お金とかを使って。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?