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200208 希望を語る人

大学の卒展に行った。実家が大学から近いので、就活に行くついで、という体で月曜も休みを貰った。特に急を要さない用事に4連休を得れるの凄いな。高校出るまで、というか大学でさえも、授業がある限りは体調不良でもなければ学校を休んだりしなかった。

朝、院生として卒展に出展している同期に連絡をとると、思いの外早く返事が返ってきた。そのうち僕が大学に行くという情報が回ったらしく別の友人からも連絡がきた。彼女は大学2年の時に出産し学校を休学していて、急に来たボイスメッセージにはもう3歳になった彼女の娘の声が入っていた。

途中の乗換駅で50分ほど待ち時間があったので、院卒業が確定した同期への祝いの品と自分の専攻への差し入れを買う事にした。僕はめちゃくちゃに優柔不断で、特に買い物においてそれはいかんなく発揮される。結局、プレゼントに小さな中乗りさんと栗かのこ、差し入れにみすず飴を選ぶのに40分程かかった。後から連絡がきた友人には長野の土産は間に合わなかったが、彼女の子供に何か買ってやりたいという気持ちが抑えられなかったので、大宮駅で改札を出てすぐの店通りにあった都会っぽいお菓子を家族分、買っていった。

15時、大学の最寄駅では先に実家から来た母の車が既に待っていた。一緒に卒展を見に行こうと約束していたのだ。しかし母は最近手芸にえらく凝っていて、せっかく遠出したついでに手芸屋で布を探したいと言ったので、この日は別行動をとることにして、僕だけ大学に送っていってもらった。

大学に着いて、まず先ほどボイスメッセージをくれた友人に電話をした。急なメッセージの内容にツッコみつつ、何処にいるか聞く。その時彼女は絵画専攻の部屋にいたらしかったが、僕が自分の専攻に行くと言ったら今から向かう、と言ってくれた。彼女は交友関係が広かったので、わざわざ自分なんかが電話して結果呼びつけてしまったのはちょっと間違ったかな、と思った。

僕が卒業した専攻の部屋に向かうと、受付に見覚えのある顔が居た。後輩だ。2つ下の後輩は授業で関わることもいくらかはあったが正直名前までは覚えていないし、向こうも覚えていないだろう、と思い何食わぬ顔で芳名帳に書き込もうとすると、名前を呼ばれて仰天した。こちとらマスクもしてるのに。しょうがないのでこちらが名前を呼ぶ文脈にならないようヘラヘラ誤魔化しながら、買ってきた土産を渡した。

院の卒業が確定した友人は廊下で後輩と喋っていた。声をかけに行くと、もう一人の友人も一緒に居た。彼女らは昨日も会ったかのように、ごく自然に僕を受け入れ、そのまま他愛もない話をした。一緒に居た後輩は今年度の一年生だそうで、先輩3人に囲まれながらもよく喋る子だった。しばらくして先程電話をした友人からラインが来ていたのに気づいて、会話から離れて彼女と合流した。彼女は娘と一緒に来ていて、お互い近況を聞きつつも娘の相手で手一杯のようだった。彼女ら家族はこの2年間で2度拠点を移しているようで、僕も周りもそれは知らなかった。娘は人見知りしないらしく、まだ喋れないような小さい頃に一度会ったきりの僕に、手に持った折り紙を「はいどーぞ、はんぶんこ」と言って渡してきた。かわいい。来春からは大学が運営している幼稚園に通うらしい。小さいうちから色々なことに触れさせたい、とのことだ。もうすっかり母親になっていた。

この後僕に声をかけてきた教授との話が結構面白かった。僕はこの教授のゼミに入っていたわけでは無かったが、作品制作についてよく相談しに行っていて、彼は自前の旋盤機械を貸してくれたりもした。彼はこの2年間で専攻の長になったらしく、そのおかげか展示のクオリティは格段に上がっていた。今年はこんな授業をした、と楽しげに話す教授を見て、自分が失くしてしまった希望、のようなもの、がこの大学にはまだ残っているんだな、と思った。この2年間で僕は安易に希望を語ることが出来なくなってしまったように思う。逆に教授から今何やってるの、と聞かれた時はしどろもどろになってしまった。僕が進もうとしているのは彼らのような明るく照らされた道ではないから。僕は希望を恥ずかしげもなく語れる人にもはや薄い寒気を感じてしまうが、同時にそんな姿勢が自分の首を締めているのも薄々感づいている。僕の大学時代は、一見明るく楽しい、希望に満たされたものだったと思っていたが、それは自分が置かれた環境であって、その環境を自分に投影していただけのことかもしれない。

そういや一個上の先輩も来てたな。同郷で学生時代から話しやすい人だったからギリギリ覚えていた。彼女はフリーランスを目指してデザインの仕事をしているらしい。仕事について、というか生き方について、結構長々と話してしまった。正直同級生との会話よりもしたい話ができた気がする。同級生らとの会話はなんというか、まあそういう人達なんだけど、『ウケ』を重視した内容になっちゃうんだよな。久しぶりに会ったんだから今までどうしてたかとか、どんなことが変わったかとか突っ込んで話したかったんだけどな。何ではるばる6時間かけて会いに来て知らないゲームの話されにゃならんのだ。暗にお前はお呼びじゃないんだよって言われてんのか、とは思った。まあ、うまく話を展開させれなかったのは自分の落ち度なのでいいけど。

結局展示終了時間を30分過ぎるまで会場に居て、そのあと同期2人と寿司を食ってホテルまで送ってもらった。彼女には学生時代からいつも車を出してもらっていて申し訳ないな。

部屋に入ったら母がレモンのチューハイを煽りながら納豆巻きを食べていたのでウケた。どうやら本当に手芸屋だけ行って、飯も食わずに帰ってきたらしい。母は旅行先で時間を無駄に浪費することに全く罪悪感がないらしい。いい性格だと思う。



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