ハゲタカファンドの「How to ゴルフ場M&A」 Part Ⅰ

今回は、外資系企業再生ファンドが日本中でゴルフ場をM&Aしたときの手法を書き止めておこうと思います。長ーい話になりますが、ご興味のある方はご一読いただけると嬉しいです。
なお、現在ではゴルフ場M&Aのほとんどはこんなハゲタカ流の方法では行われません。もっと平和的・友好的に行われていますので念のため。

2000年代はじめ、ゴルフ場は大量に売買された

僕が現地視察や価格評価をしたゴルフ場は約500コースほどです。
当時、日本にあるゴルフ場はおよそ2400コースでしたから、そのうち5分の1あまりの精査を行ったことになります。
精査を行ったゴルフ場はほとんど例外なくその後倒産して法的整理を経てオーナーチェンジしました。もちろん僕が精査に関与しなかった案件もありますから、おそらく全体では日本中のゴルフ場の4分の1、25%以上が売買されたはずです。
そのうち僕の在籍した外資ファンドは100コース超を取得し、傘下のゴルフ場運営会社グループは日本最大のゴルフ場会社となり東証一部に上場しました。まあ大成功と言っていいと思います。

どうしてゴルフ場はそんなに売買されたの?

1980年代後半のバブル経済期には、株、不動産、債権などあらゆる金融商品は値上がりを続けるという幻想に日本中が踊らされていました。今ではまったく夢のような話です。
ゴルフ会員権も同様に、本来の「会員制ゴルフ場でのクラブライフを享受する権利」という目的を離れ、「買っておけば値上がりして儲けが出る」という動機で売買される財テク商品(懐かしい言葉です…)と認識する人も増えてしまいました。
バブル期にゴルフ場を開場したオーナーには、やはりバブル景気に踊らされて、それはそれはひどい乱脈経営にはまってしまった人が少なからずいました。

まあ、金銭感覚がおかしくなるのもわかります。
自分の会社で「会員権」と書いた紙を印刷すれば1枚2000万円とか3000万円で売れるんですから。どんな贅沢ざんまい、無駄づかいをしても、会員権を売ればザクザクとお金が入ってくるのです。使い放題やりたい放題、毎日が狂乱の宴です。
(そんなことに踊らされなかった堅実なオーナーも少なからずいらっしゃいました。これは彼らの名誉のために言っておきます)

狂乱バブルのツケ

しかし、そんなゴルフ場の錬金術にも落とし穴はありました。
今でも多くはそうですが、ゴルフ場の会員権は「入会金」と「預託金」からなっています。

入会金は、文字通り入会するにあたってクラブに払うお金で、ゴルフ場の収入=売上となります。一方、預託金は会員資格を担保するためにゴルフ場に「預ける」お金。10年程度の据置期間を経過すれば、退会する時には返金が約束されている「保証金」です。

会員募集時には、預託金を実際に返金することは絶対にない、とオーナーは考えていました。
ゴルフ場会員権は売買が可能です。バブル期にはゴルフ会員権の市場での売買価格はどれもこれも大幅に上がり続けていましたから、退会して預託金を返してもらうより、市場で売った方が得だからです。中にはゴルフなんかやりもしないのに値上がり利益を狙った投機目的でゴルフ会員権を買う人までいました。

しかし、やがて来るべき時が来てバブル景気は泡とはじけ、株や不動産とともにゴルフ会員権相場も真っ逆さまに下落してしまいました。

預託金を返せ!

据置期間を経過した1990年代後半になっても会員権の売買価格はかつてのレベルには回復しません。このままではゴルフ場会員権で大損をする、と考えた会員たちは、クラブを退会するから預託金を返してくれ、と「償還請求」をしました。
請求されてもオーナーには預託金を返せるようなお金はありません。銀座や北新地あたりで派手にバラまいたり高級車を買ってしまったのもあるのですが、そもそもゴルフ場を開場するには必要な巨額の資金が必要です。
用地を取得し、コースを造成し、クラブハウスを建てる資金を集める手段のひとつが会員権販売でした。会員から集めたお金は、芝生とかロッカールームとかレストランに変わってしまっています。まさか芝を剥がして渡すわけにもいかず、お金は返せません。

読者の中には「預託金ではなく、返さなくていい入会金でもらっとけばよかったのに」と思われる方もあろうかと思います。
その通り!なのですが、それはそれでオーナーは困るのです。入会金は「収入」ですから所得として課税されます。
対して預託金は「預かり金」であって自分の収入ではありませんから税金はかかりません。もし全額入会金でもらってしまうと、3000万円受け取っても税金を差し引くと実質6割程度、1800万円しかゴルフ場のお金にならないのですが、預託金なら3000万まるまるが手元に現金で残ります。

もうひとつの理由に、会員がゴルフ場を売買する際に、預託金という経済価値が担保されていた方が実態価値を伴うのでより取引しやすい、ということもあります。

まさか預託金の償還請求を受けるハメになるとは夢にも思っていなかったオーナーは、預託金を返せ、と迫る会員さんをなだめますが、会員も不景気でお金には困っています。カンベンしてくれるわけがありません。
Part Ⅱに続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?