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ハゲタカファンドの「How to ゴルフ場M&A」Part Ⅲ

債権を買い集めろ!

このようにして銀行から買い取る「債権額」が、計画案の決定権を握る額かどうかが非常に重要です。「債権額」とは、銀行に払う買取金額ではなく、元々ゴルフ場に貸した貸付額です。

僕たちの保有する債権額がゴルフ場の負債の過半数になることが重要なのです。ですから、僕らは複数の銀行からターゲットのゴルフ場の債権を買い集めることもありました。
計画案の成否を決定できる額まで獲得できればゴルフ場は取得したも同然です。逆に獲得できなければ、嫌われ者の外資ファンドに勝ち目はありません。

債権を外資ファンドがいくらで買い取ったかは関係ありません。
仮に1円で買い取った債権であっても、額面が100億円の債権なら100億円分の決定権があるのです。
3000万円の預託金を持つ会員が100人いたとして、全員が一致団結しても債権額は30億円。僕らが100億の債権を持っていれば、僕らの決定権の方が強いのです。

実際にゴルフ場に渡したお金の大小は真逆ですから不公平に見えるのですが、これがルールなので仕方ありません。(もともと銀行は実際に100億を貸しており、僕らはその地位を受け継いだだけですから、別に不公平ではないのですけど)

法的整理の計画案が可決されるには、先に述べたように、
①債権額の過半数
②債権者数の過半数(会社更生では少し複雑ですが)
の両方の賛成が必要です。

僕たちが①債権額の過半数を獲得しても、②債権者数の過半数の賛成が得られなければ計画案は可決されません。債権者の人数では、数百~1000名以上もいる会員が圧倒的多数です。
対する外資ファンドはたったの1票です。会員たちは、外資ファンドの計画案を否決することもできるのです。
でも、会員たちは賛成票を入れざるを得ないのです。

なぜ?

法的整理の「計画案」が可決されるカラクリ

法的整理では、①債権額の過半数、②債権者数の過半数、その両方の賛成が得られない場合は否決となり「破産」に移行します。

破産は、完全に会社を消滅させて不動産などの資産を競売にかけてお金に変えて債権者で分配する方法です。
事業主体がなくなるのですから、ゴルフ場に与えられた営業許認可、借地の賃貸借契約など、ほとんどの事業基盤が消し飛びます。
「ゴルフ場」ではなく、「ただの整地された芝生」「営業許可のないただの豪華な建物」になってしまいます。ゴルフ場を再開するとしたら、イチから許認可を取得しなおしたり、関係先との契約を条件交渉からやり直しになったりして非常に手間と費用がかかります。

そんなガラクタを買い取るモノズキはまずいません。
僕たちもそんな手間はかけられませんから競売には参加しません。もしも応札するとしても、価格は手間と費用を差し引きますからスポンサーとして計画案で提示する金額を大幅に下回ります。

会員たちにとって計画案を否決するデメリットは、破産では計画案によって得られる配当より経済的メリットはさらに少なくなり、さらにゴルフ場での会員としてのプレー権すらなくなってしまうことです。
損得を考えれば、会員は計画案に泣く泣く賛成するしかないのです。

結局のところ、計画案を可決できる過半数の債権を握ってしまえば、あとは外資ファンドの意のままです。
(これに対抗しようとして会員たちが独自に法的整理を申し立てた事例もありますが、裁判所の判断でファンド側の申し立てが採択されました)

債権者集会での投票結果は、銀行からの債権を取得した外資ファンドの賛成票と、断腸の思いの会員の賛成票によって可決され、めでたく外資ファンドがスポンサーとなって、会員の2000万円の預託金は20万円そこそこに減額され、ゴルフ場は外資ファンドグループ入りし、傘下のゴルフ場運営会社が現場を仕切ることになるのです。

ルールの範囲内ですから違法ではないですし、悪いことではありません。
ですが、日本的な美意識に照らせば、いささか行儀が悪い、えげつない、やり方に映るでしょう。
債権者集会では「汚いぞ!」「恥ずかしくないのか!」「ハゲタカ!」「日本人の面汚し!」とさんざんに怒号を浴びせられたものです。

転んでもタダでは....

ひとつ補足しておきますと…。
たまには僕たちもうまくいかないこともありました。

せっかく債権の過半数を銀行から買い取っても、管財人に僕たちより好条件を提示した他社がスポンサーに選任されてしまうことがあるのです。
僕らとしても「してやられた!」「トンビに油揚げさらわれた」となる場面です。

しかし、それでも外資ファンドは損はしません。
なぜなら、僕らがスポンサー選定で負けるということは、他社の提示したゴルフ場評価額は、僕らの出した数字より高いからです。
ゴルフ場をより高く買い取る人がいれば、僕らが買い取った債権への配当金額も購入金額より大きくなります。

単純化して分かりやすく表現すれば、

ファンドは額面100億円(負債総額の51%とします)の債権を5億円で購入
※僕らのゴルフ場評価額を10億円とすれば→債権購入額:10億X51%=5.1億円

他社スポンサーのゴルフ場評価額:15億円
法定整理でのファンドの持つ債権への配当額:15億円X51%=7.65億円

7.65億ー5.1億=2.54億の儲け

となります。スポンサー選定で負けても損しないどころか、それはそれでしっかり利益が出るようになっているのです。
外資ファンドは抜け目がありませんね。

僕のココロザシ

こうやって外資ファンドはゴルフ場を取得してきたのでした。
あざとい?そうですね。我ながらそう思います。

でも、僕はある「志」があってこの仕事を敢えて選んで飛び込みました。
その理由は別稿で書きたいと思います。(「僕がハゲタカファンドでゴルフ場を買い漁った理由」

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