22歳
「I'm pretty sure 'm forced to live」
彼女は生きることに対して執着がない
彼女はすべての人を羨んだ。
人気者から嫌われ者まで。成功した実業家から乞食まで。怒って中指を立てる人、得るために手段を選ばない人、アナタが欲しい!と血を流す人、身体を売る人、、
みんなみんな自分にはないものを持っている。
エナジー。彼女はサバイバル映画では脇役にもなれなかった。なぜなら序盤の前に死んでいただろうから
「サメにいつか食われるという恐怖心に耐え続けながら逃げ回るよりも、食べられちゃった方がましだし」
とのこと。
ある意味では幸せだったかもしれない。彼女が自覚できるくらいに、彼女を取り巻く環境は必要以上に恵まれていた。そうした事実もまた22歳になった彼女を戸惑わせ苦しめたのだ。
エナジーが人より足りなてないことを自覚しつつも、なんだかんだ22年も時間を潰せたのは、
この時代この国に生まれてこれたためであり、進み過ぎた文明のおかげでもあり、
生まれ育った家庭環境のためでもあった。
人生は雑木林なはずだったのに
迷わなかったし、恐れなかった。
たくさんの人達が歩んだ場所が自然に道となり、少しずつ整備されたのだった。
その恩恵に預かって、彼女は生まれてから約20年は、躊躇いもなくやって来れた。
そこに疑う余地は一ミリもなかった
人生は真っさらなはずだったのに
退屈をしなかった。
世界はあまりにも、人間を誘惑したがったからだ。夢を見させ、欲を掻き立て、一瞬で満足させる術を知っていた。夢も欲も誰かの作りものであるという事実を教えたところで、損をする人はいても得をする人はいなかった。みんながみんな策応してた
そして、生まれてから死ぬまで孤独なはずなのに
寂しさを感じずにいられた
彼女の両親は、小さい頃から今に至るまで必死に娘のご機嫌取りをした。一人娘に嫌われるのを恐れた父親と母親は、自分の方が好かれようと、嫌われまいと娘を甘やかしあの手この手汚い手を使って媚びるのだった。
そんな生かされ方が当たり前だった。
誰かにやっと生かされてた。なんの努力も葛藤も必要なかった。
だがしかし、
どうしてだろうか
彼女はそうした与えられたものを素直に感謝して受け取ることができなくなり始めていた
与えられたものをうまく利用できなくなっていくことに、罪悪感を抱き、同時に恐怖を覚えた。
これまではできたのに、他の人はうまくやってるのに、、、
世界は元の原始的で空白めいて寂しいものとなってしまった
一回ついた折り目はなかなか元に戻らない。癖になり刻まれてゆく、深く濃く刻まれてゆく
いつからこんなに色褪せてしまったのだろう。太陽は沈み、月明かりだけが頼りになるかなならないか。手探り状態でしか進めない。隣の人の腕を掴みながら、やっと歩いていける状態だ
みんな自分で歩いてる
走ってる人もいる
真っ直ぐきれいに堂々と
わたしもいつかはあぁなれるのかしら
彼女は不安に耐えられなくなった。
いい年したおばさんが人にしがみついてる姿を想像するとあまりにも滑稽で惨めに思えたし、
あてもなく、道を歩くには、あまりにもつまらなくて、どうすればいいのかわからなかったからだ。
近道や楽な道がかいてある地図を何枚か拾った。でも読み方がいまいちわからない、そもそもこんな地図正しいのかですらわからない
全てを投げ出して、その場に座り込んでみることにした
目の前を通り過ぎて行く人たちが美しかった。
生きる力こそ人間の素晴らしく尊いものだなぁ
いっしょに歩いてた時は気付かなかったけど、一人一人の顔を見つめると、すべての人が懐かしく思えて、愛着が湧いた。
それでも一度下ろした腰を上げるのは難しかった。焦燥感と罪悪感、負の感情が自分を呪う。
こんなにみんな頑張ってるのに、、、
「おやおや、お困りのようですね。わかってますよ、あなたみたいな人、他にも知ってます。そんな人達も歩けるようになりました。
あの道ゆく人たちみたいに。いや、それよりもっと美しく楽して歩ける方法を知って、今は幸せにやってます。」
彼女は嬉しくなった
こんなに怪しい商売をしてる人に、もっと早く会えないかと期待していたのだ。怪しい宗教でもなんでもよかった。歩かせてくれるものが欲しくてたまらなかったから
「ふーん。聞くだけ聴いてみましょう」
そいつのビジネスは以下の通り
1. 全ての臓器を買い取る
2. 健康体維持ののためにパーソナルトレナー及び栄養士が従属
3. 解体日まで毎年支払いが行われる
4.〜
5.〜
「もちろん、解体する日はご自身で前もって決めていただけますよ。若ければ若いほど価値が高いです。それに毎年もらえる金額も大きくなります。」
なるほど死神の商売か、、彼女はそう思った。自分から湧き出る不のオーラが、このビジネスを呼びつけたのだろう。引き寄せの法則とやらは確かに存在するのかもしれない。
とっても美味しい話であった。
生きることに執着のなかった彼女は、すぐに契約を結び、その日から5年間、一生働かなくても豪遊していける分のお金をもらって、健康的に歩いていける保証を得れたことを心の底から喜んだ。
27歳で死ぬなんてなんて光栄なのかしら! !
もはや彼女はスキップし始めていた
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