サインと指標性(2):考察の意義、日常におけるサインの目的、筆跡とは何か

▼小まとめ

・日常におけるサインの目的:
①本人確認
②社会規範を守れるかどうかのテスト
③名前の提示
④所有物の確認(他人からの防衛)
⑤行為の完結を第三者に証明する

・(仮説的な)筆跡の性質
①一貫性:同じ人が何度書いてもなくならない質(クセ)。一貫性があり、形式的な特徴があるので、他人が模倣できる。
②一貫性からの逸脱:書かれた文字の微妙な差異。模倣できない(模倣する側にも不可避的に生じる差異)。
③交換しようのない質:この質は、①と②をどう捉えるかによって現れたり消えたりする。①と②によっては説明できない性質のこと(完全に説明できる、とするならば③は必要ではなくなり消える)。


・どうしてこのような考察をしているのか?:
①メタ価値論の一種としての議論
(=指標性という価値の規範、指標性からみた価値について、指標性という名の価値)
②VTuberと指標性、という議論をさらに精緻にするため


・日常でのサインの用法を考えてみよう。
公的な書類、重要な書類に自分の名前をサインする、といった場面が思い付く。クレジットカード使用時のサインも同様の種類として分類できるだろう。
書類によってサインの目的は変わってくるが、本人確認(本人であることの証明)という目的は共通してあるだろう。
場合によっては、強い責任が発生することもある。借金や連帯保証人の契約書などにサインをする、といった場合。
日常でのサインは、本人確認という共通の目的はありつつも、その意味は文脈(書類の種類)によって変わる、と言えるだろう。

・公的な書類を書くときに、どれくらい形式を気にするだろうか。
*(汚いサイン)悪筆な人物は、字を見られることを恥ずかしがるかもしれない。(サインが汚すぎると、本人の確認から逸脱するのではないか。目の前で書かれたとしても、本人であるとは限らない、という疑いを持つことはできる。)
*「ボールペン字検定」があるように、他人に送る文字は綺麗であるべき、という規範が存在する。それはある見本に対して似ている、という意味であろう(文字のバランス、線の質、といった点に注目できる)
*どんな達筆の人物であれ、文字を装飾したりはしないはずである。書道の師範であれ、草書などの特殊な字体を公的な文書に使わない。任意のフォントを再現できるような人物でも、公的な文書でそうしたフォントで書いたりはしないだろう。
*サインを書くべき場所にサインを書かない、というのもひとつの形式的逸脱であろう。どうしても書くべき枠の上に文字を書いてしまう人を想像できる

▼公的な文書におけるサインの形式は、次のような規範としてまとめることができる:
①(一般常識的な)見本に合った文字を書くこと
②しかるべき空間や枠のなかに文字を書くこと
しかし、これらの規範は本人確認という目的とどういう関係にあるのだろうか。むしろ、①と②からほどよく逸脱したほうが、本人確認としての意味があるのではないか。
★公的な文書における文字の形式(の規範)は、社会の規範に適合できるかどうか、がわかるに過ぎない。
*書類をみる人物が根をあげるほどの悪筆というのはあり得るが、それは結局書き直せば済む。ここで代筆の問題が出てくるのだろう(そもそも文字が書けない障碍を持つ人物)。
*また、他人を困らせるために下手に字を書く、といったことも考えられるが、これは単に露悪的なだけではないか。

・では、本人確認とはなにか。本格的な詐欺のケースを考えなければならないのかもしれない。
*結局、本人確認の目的を為し得るのは、第三者からの承認のある書類なのではないか。たとえば、運転免許証やマイナンバーカード。そしてこれらの書類は、承認を得るための本人確認(あるいは信頼の確認)を済ませることによって得られる。その本人確認の過程で、手書きの書類の提出がなされているパターンがほとんどではないか。

*病院の待合室で、なんの関係もない別の人間の名前(もしくは偽名)を書く人物。まず、スタッフによって保険証に書かれた情報との不一致が指摘されるだろう。また、保険証がないとしても、病院ごとのカードや、問診票と不一致が生じる。

*宅急便を誤った人物に届けてしまう、という場合。これは確かに、確認の手続きを怠るために発生するミスであろう。(システムではなく、人為的なミスだけに着目するのであれば。)
ミスを防ぐ素朴な方法は、①住所・名前と表札などとの対応を文字で確認する、②口頭で名前を確認する(**さん宛でお間違いないですか)、③サインをしてもらう(印鑑を押してもらう)、などといった方法だろうか。
③のサインは、本人確認の意味もあるが、確かに荷物を受け取った、ということの証明、という意味が強いだろう。

・これ以外の場面でのサインを考えるとなると、特殊な例になってくる:
*単に自分の名前を示す:名札
*自分のものであることを示すためのメモ:持ち物に書く名前、冷蔵庫のアイス、飲み会の紙コップ
*自らの存在をアピールする:落書き、グラフィティ

・「履歴書は絶対に手書きでないと許さない人事担当者」の言い分を考えてみよう

・日常におけるサインの目的:
①本人確認
②社会規範を守れるかどうかのテスト
③名前の提示
④所有物の確認(他人からの防衛)
⑤行為の完結を第三者に証明する


・筆跡とはなにか。また、筆跡と書道とはどういった関係にあるか。
*その人だけの筆跡、というのがある。というか、筆跡という言葉を用いるとき、交換しようのない質(その人だけが持ちうる性質)としての筆跡が言われているのではないか
*ひとつひとつの書かれた文字は異なりうる。
同じ人が同じ字を書いたとしても、それぞれ微妙に異なる文字になるだろう。
印刷されたサインであれ、多少のブレは生じている。それが多くの場合認識の閾値を越えないというだけで。
*そのため、筆跡には一貫性が必要になる

▼差し当たり、筆跡に次のような性質を認めてみる:
①一貫性:同じ人が何度書いてもなくならない質(クセ)。一貫性があり、形式的な特徴があるので、他人が模倣できる。
②一貫性からの逸脱:書かれた文字の微妙な差異。模倣できない(模倣する側にも不可避的に生じる差異)。
③交換しようのない質:この質は、①と②をどう捉えるかによって現れたり消えたりする。①と②によっては説明できない性質のこと(完全に説明できる、とするならば③は必要ではなくなり消える)。

・印刷機にさえ筆跡はありうるし、AIを用いれば筆跡は真似しうる。またアナログ執筆機で紙にペンで書けば、物理的接触も存在したかのように見せることができる

(・印刷機に筆跡はありうるのか?
印刷機ごとのクセは考えうるが、それは機械を製造する段階で排除されていくだろう。
あまりにも強いクセのある印刷機は、AIの導いた筆跡すら再現できないだろう。)


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