ソウルメイト(エッセイ)
一袋200円もしない市販のソースを絡ませたパスタを生きている退屈さだとか虚しさや些細な絶望だったりと共に平らげる。寂しさには慣れてしまったし、創作者にとって孤独とはかけがえのない友人だ。そう信じている。
孤独であることを愛するようになってから私は暫く人との間に壁を造るようになっていた。その壁は高さはゆうに7mはあり有刺鉄線と警報付き。誰をも拒んだ。
ただその壁を易々とワンパンで粉々に破壊して私に手を差し伸べる人が現れた。ヘイヘイマジかよ…。その人は私を”ソウルメイト”とよんだ。ついぞ言われた事のなかった言葉なので面を食らってしまったが、何より胸が温かくなるようになった事に気づいた。ソウルメイト。大事にしたい抱きしめたい言葉であり何よりも大変嬉しく思った。その人が私をそう思ってくれるなら私は全力で応えたいと思う。
尚この壁にはいくつもの抜け道があり、時折人がのり越えてきてまで私に関わろうとしてくれる。(今回のように真正面から破壊されるようなことはなかったけれど。)そういう人間たちと関係を築けた事が私の財産だ。
車を運転していると失われてしまうのは光や季節の香りだ。エンジンの駆動音と私のかけるミュージック。サングラスで遮光された世界。芳香剤とそれを循環させるエアコンの風。公園で車を降りると春の幽かな陽気や命の炸裂するような草花の香り。ここでは桜はまだ咲いていないけれど、それでも車内環境にうんざりした私は鼻腔をくすぐる香りに木陰のベンチで読書をする。
─柔らかな風が吹き抜ける─
ったく…少し前までは風は凍てつく痛みを伴っていたのになんて気まぐれ者なんだ君は。
さらさらと繁みから猫が出てきて私の前を通り過ぎていく。長毛の猫で私が以前飼っていた猫に少し似ていた。後光を浴びて陽炎のように奥の繁みに消えていった。
私は今でも以前飼っていた猫の夢をみる。入眠すると私は目を閉じたまま開けず金縛りにあったように動けない。するとゴロゴロと喉を鳴らした動物の気配がする。まずは顔を跨ぐ。長毛の猫なので毛が私の顔に当たる私はそこで彼だと分かる。目を開けたい。抱きしめてやりたい。しかしそれは叶わない。彼はその湿った冷たい鼻でまず私の頬にふれる。それから何度もわたしの顔をオデコですりすりしながら往復する。私は目を開けたい。今すぐ抱きしめてやりたい。彼は私の左脇に身体を丸めてスースー寝息をたてて眠り始める。彼の温かさもまるで本当であるかのようだ。私は目を開けて泣きたい。今すぐに優しく撫でて抱きしめてやりたい。しかし、それは叶わぬことなんだ。夢の中でも私はそれをわかっている。私は君に謝りたいことがあるんだ。夢の中で眠る君はただただ私に寄り添う。私は君にどれだけ感謝していたか、愛していたかを伝えたいんだ。唇は震えたまま動かず、そうしてひっそりと微睡みが訪れ静かに私は一人で朝を迎える。
最近、私はまた猫を飼いたいと思うようになった。決して彼を忘れたわけではないけれど。それは私が彼に対してずっと感じていた罪悪から逃れたいからなのだろうか。私は彼に随分辛い死に方をさせてしまったから。だからずっとまた猫を飼う事を考えられなかったのに。まだこれには苦悩が尽きないので猫をまた飼うとしたらもっと先の話になりそうだ。でも、飼うと決めたら私の全てをもってまた愛そう。
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