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女優のアンジェリーナ・ジョリーさん(37歳)が、乳がん予防のため両側の乳腺切除と乳房再建手術を2013年初めに受けたというニュースがありましたね。2013年2月2日に乳頭部分に最初の手術を受け、2月16日には乳房の切除手術、4月27日には乳房再建手術で一連の処置が終了しました。

欧米人と比べて日本人には少ないとされてきた乳がんですが、食生活やライフスタイルの欧米化に伴って、日本人女性の患者数は急増しています。2004年には乳がんと診断された患者数は5万人を超え、一生の間に乳がんになる確率は16人に1人と推定されています。乳がんにかかる人は、30歳代から増加し始め、50歳前後をピークとして減少する傾向にあります。

「がんが遺伝子の病気である」ことはよく知られた事実ですね。何らかの環境因子により遺伝子が傷害を受け、遺伝子の変異が起きます。この変異した遺伝子により1個のがん細胞が生まれます。

生殖細胞系列の2つの遺伝子、BRCA1とBRCA2の変異は家族性の乳がん発症と関連していることが分かって来ました。この家系の女性でこれらの遺伝子が発現している者は、そうでない女性に比べて乳がんに罹患するリスクが極めて高いようです。

近年、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(Hereditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome; HBOC)という疾患概念が提唱されています。HBOCは、BRCA1遺伝子またはBRCA2遺伝子の生殖細胞系列の先天性の病的変異が原因で乳がんや卵巣がんを高リスクで発症する遺伝性腫瘍の1つです。

女優のジョリーさんが受けた乳がん予防切除が、遺伝性乳がんのリスクが高い人を対象に日本国内でも始まるようです。癌研有明病院(江東区)、聖路加病院(中央区)が準備を始めています。 

2020年4月の診療報酬改定において、遺伝性乳がん卵巣がん症候群の患者に対する乳房切除術が保険適用となり、それに伴う乳房再建術も保険で行えるようになりました。BRCA病的バリアントが確認された乳癌患者、卵巣癌患者では、リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)やリスク低減乳房切除術(RRM)が保険適用となっています。また、術前のBRAC分析診断システムが保険適用となりました。

BRCA遺伝学的検査の保険適応は、以下のいずれかの項目が当てはまる場合です。
1. 45 歳以下の発症
2. 60 歳以下のトリプルネガティブ乳がん
3. 2 個以上の原発乳がん発症
4. 第3 度近親者内に乳がんまたは卵巣がん発症者がいる
5. 男性乳がん

また乳房再建術でも、CAL組織拡大術(cell assisted lipotransfer)という新しい医療技術(高度美容外科医療)が開発されています。再建する乳房に注入する脂肪の中の幹細胞の密度を高めることにより、従来の脂肪注入術よりも、脂肪の生着率を高めることができます。この手術自体は、注射器で行うので傷も残らず柔らかい乳房が再建できるようです。

First Warning Systemsは、乳がん自己診断ブラを開発したそうです。従来のスクリーニング検査より最大6年早く腫瘍の兆候を示す、皮膚温度の微妙な経時変化を測定できるようです。同社は、この乳がん自己診断ブラを2013年にヨーロッパで、FDA申請中の米国では2014年に販売する計画しているそうです。

厚生労働省中央社会保険医療協議会(中医協)は2013年6月12日、乳房再建手術に使用するラウンド型シリコンインプラント(人工乳房)の保険適用を承認し、7月1日からその適用が開始されました。次いで11月29日にはより自然な形状をもつアナトミカル型シリコンインプラントの保険適用も承認され、2014年1月8日からその適用が始まりました。

乳房インプラントであるゲル充填式人工乳房は、米国アラガン社が組織拡張器とインプラントを独占的に販売をして来ました。

2019年7月24日FDAの指導の下、同社は製品の自主回収を全世界で実施する運びとなりました。というのも近年、乳房再建術や豊胸術後に生じる合併症として、乳房インプラント関連未分化大細胞リンパ腫が知られるようになってきたからです。また、2020年8月20日米国シエントラ社のシリコンインプラントが薬事承認され、10月1日から保険適用となりました。2021年7月30日国内で2例目の乳房インプラント関連未分化大細胞リンパ腫が報告されました。

(参考)
日本乳房オンコプラスティックサージャー学会
日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構

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