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血管の中を流れる血液は、赤血球、白血球と血小板からなる血球成分と血漿成分で構成されます。これらの血球成分は、骨髄にある造血幹細胞から分化して作られます。この造血幹細胞に異常が起こり、必要以上にこれら血球が生産される病態を骨髄増殖性腫瘍といいます。骨髄増殖性腫瘍の中には次のような疾患があります。

真性多血症(polycythemia vera; PV)
慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia;CML)
本態性血小板血症(essential thrombocythemia;ET)
原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis;PMF)
慢性好中球性白血病(chronic neutrophilic leukemia;CNL)
慢性好酸球性白血病(chronic eosinophilic leukemia;CEL)
好酸球増加症候群(hypereosinophilic syndrome;HES)
肥満細胞症(mastocytosis)
分類不能骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms,unclassifiable; MPN,U)

血小板の役割

血小板は、巨核球の細胞質から生まれる血球成分の1つで、おもに止血の役割を担っています。血小板は粘着性があり、出血したときに傷ついた血管壁に付着して出血を止める働きをするので、数が減ると出血しやすくなったり、出血が止まらなくなってしまいます。この血小板数が、疾患や機能異常によって増減していないのかを調べるのが血小板数検査です。

本態性血小板血症

骨髄増殖性腫瘍の中で、主に血小板が過剰に増える疾患が本態性血小板血症(essential thrombocythemia; ET)です。血小板の過剰な増加には、遺伝子異常が関与しています。異常が見られる代表的な遺伝子としては、JAK2遺伝子やCALR遺伝子があります。これらの遺伝子は、血液細胞の増殖に関与する酵素を発現する重要な遺伝子です。

一般に血液細胞の増殖においては、増殖の命令を伝える物資の増殖因子とその受容体が結合し、その結果、増殖の命令が核へ伝えられて、赤血球、白血球と巨核球などの血液細胞が増殖します。一方、本態性血小板血症では、JAK2遺伝子やCALR遺伝子などの異常により、増殖因子なしでも巨核球の増殖が促進されます。

本態性血小板血症の診断時平均年齢は、50歳から60歳で、年齢の第1のピークは60歳にあり、この年齢での性差はありません。第2のピークは20歳にあり、ここでは女性が多いです。

基本的に無症状

本態性血小板血症は、基本的に無症状です。人間ドックや定期健康診断などの血液検査で偶然に血小板の検査値異常として見つかることが多いです。日本人間ドック学会では、血小板数33万/μL以上を異常としています。本態性血小板血症では、血小板数が60万/μL以上になると病的であるとされていますが、多くの症例で100万/μL以上となっています。病勢が進行して血小板数が100万前後に著しく増加すると、血栓を起こしやすくなります。さらに血小板数が200万を超えると出血を起こしやすくなります。臨床症状としては、倦怠感、盗汗、集中力低下、掻痒感、骨痛、体重減少などが見られることがあります。

WHO分類(2008)

本態性血小板血症の検査には、血液検査の他、血液形態検査、遺伝子検査、骨髄検査などがあります。本態性血小板血症の診断基準(2008年WHO)は次のとおりです。

1. 血小板数が45万/μL以上
2. 骨髄生検で 主に大型の成熟した巨核芽球の増殖がある一方で、
  骨髄球系、赤芽球系の増加がほとんど認められない。
3. 以下を除外基準として次の疾患を鑑別診断する。
  (1)真性多血症
  (2) BCR-ABL陽性慢性骨髄性白血病
  (3)原発性骨髄線維症
  (4)骨髄異形成症候群
4. JAK2V617Fや他の遺伝子変異の証明、もしくはそのJAK2V617F遺伝子
 変異がないならば、反応性血小板増加症を否定できる。
注)反応性血小板増加症には、鉄欠乏、脾摘術後、手術、感染症、炎症性疾患、膠原病、転移性癌、リンパ増殖性疾患などがある。

参考 2008年WHO分類

血栓症と出血の予防

本態性血小板血症の治療は、血栓症と出血の予防です。血小板の数が100万/μLを超えるような場合には、アスピリンやチクロピジンなどの抗血小板薬を投与して、血小板の働きを抑えます。また、血栓による症状や出血傾向がある場合や、高齢者の場合には、ヒドロキシウレアもしくはアナグレリドを投与し、血小板数を減らします。これを高リスク本態性血小板血症患者に対する血小板数減少療法といい、血小板数40万/μL以下を目標にします。

ヒドロキシウレアの副作用としては、食欲不振、嘔気、口内炎、腹痛、下痢、皮疹、皮膚潰瘍などがあります。一方、アナグレリドには不整脈を中心とした心障害、出血などの副作用に注意が必要です。

本態性血小板血症は、骨髄増殖性腫瘍の中では良性疾患であり、平均寿命を全うすることも可能であると考えられています。しかし長期の経過で骨髄線維症に移行することがあります。またまれに急性骨髄性白血病に進行することもあります。その場合には、症状に応じた治療が必要になります。


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