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こどもの大病も良く聞くと

私が生命保険業界へ転職した平成元年は未だバブル期で高額な生命保険がよく売れていました。診査医として毎日走り回って、年間診査件数1000件を超える状態です。

重大月いわゆるキャンペーン月の翌月は、初回の引受査定で特別条件がついたお客さまや心電図検査・血液検査もれのための不備解決の診査で動くことになります。

朝から続けざまに血液検査だけを5件することなどもあり、自分が吸血鬼になった気分でした。ちなみに高齢者の血管に注射針を刺すのは得意です。

大手生命保険会社の支社医長時代に次のようなことがありました。

小学校入学前の男子をもったある若い父親の一言。「うちの子供は小さい頃お腹を切る大病をしたので、生命保険に入れないのかな」とつぶやいていた。いつも熱心に訪問していた営業職員さんも、この子の既往歴のことを聞くと蜘蛛の子を散らすように寄り付かなくなってしまう。この父親に学資保険を勧めようと思っていたのかもしれません。

ある日、一人の生保営業職員さんがこの家庭を訪問し、くだんの父親から子供の病気の話を聞きました。その父親が言う。

「昔の手術があるから、生命保険に入れないのかな。病名は、ヒルシュスプルング病というらしいのだがね。」

その営業職員さんは、

「私では分かりませんので、会社の先生に聞いて見ますね。」

と言って帰っていった。

数日後、その営業職員さんが再びやってきて、その子供の生命保険加入が大丈夫そうなことを伝えてくれました。ヒルシュスプルング病(先天性巨大結腸症)の手術が後遺症や合併症なく無事に終わっていて一定の経過年数があれば、生命保険に加入できることを教えてくれた。その父親は大喜び。

後日、その父親は子供を生命保険に加入させたのは言うまでもなく、小さな建設会社を経営していた父親自身も法人契約で保険金1億円の生命保険に加入してくれました。そして営業職員さんは生命保険会社の診査医を連れて社長の自宅を訪問したということです。

こんな対応をしてくれる生命保険会社にお勤めの営業職員さんとそのお客さんは、幸せですね。もちろん生命保険会社には、あなたのお役に立ちたいと思っている新契約部門の社医(診査医、査定医)や引受査定者も多いですよ。

ヒルシュスプリング病とは、結腸壁のAuerbach神経叢(アウエルバッハ:筋層間神経叢)、Meissner神経叢(マイスナー:粘膜下神経叢)の先天的欠如により、罹患部の狭小化およびその口側の拡張をきたす疾患です。いずれも腸の蠕動運動を支配しています。アセチルコリンエステラーゼ陽性神経線維が増生しています。新生児では、機能的イレウス症状(嘔吐、胎便排泄遅延)を、乳幼児以降の発症では、巨大結腸症(慢性便秘、腹部膨満)をきたします。出生5000人に1人の程度でみられます。

出生1~3日後に好発します。便臭のある胆汁性嘔吐、腹部膨満、胎便排泄遅延、慢性便秘など、機能性イレウス症状をきたします。胎便排泄とは、正常では生後12時間遅くても48~72時間以内に1,2回排出される、緑黒色、粘稠で無臭の便です。

単純X線で全体に拡張した腸管像、骨盤内にガス像の欠如がみられます。造影検査で、患部位の狭小化(narrow segment)、口側の巨大結腸(megacolon)、腸管の口径差(caliber change)、直腸生検で、神経節細胞の欠如、直腸壁アセチルコリンエステラーゼ活性の亢進などの所見がみられる場合、ヒルシュスプルング(Hirschsprung)病を考えます。

 確定診断は上述の造影検査、直腸生検および直腸肛門内圧検査において、肛門内括約筋反射欠如を確認することで行います。

新生児期に、保存療法と一時的人工肛門造設を行います。6ヵ月以降に、外科的根治術(Duhamel, Soave法、直腸筋層切除術など)を行います。最近では、開腹をしない腹腔鏡下結腸プルスルー術などがあります。いずれにしても、神経叢が欠如している部分を取り除き、正常な部分どうしをつなぐことが行われます。

 病変が全結腸以上に及ぶ症例を除くと死亡率は2%程度です。術後排便機能に関してはいずれの術式を行っても、約80%に正常な排便機能が期待できることから予後は良好といえます。しかし、広範囲無神経節症においては排便管理や栄養管理に難渋し、腸炎による敗血症から死に至る例もあります。

(参考)
難病情報センター ヒルシュスプルング病(全結腸型または小腸型)


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