死亡診断書の真実
生命保険会社が受け取る「死亡診断書(死体検案書)」を読むことが、ここ30年来の私の仕事です。そこから死亡保険金、災害死亡保険金や重大疾病保険金などの保険金支払事由に該当する「直接の死因」となった傷病名またはそれと「医学上重要な関係にある一連の疾病」を読み解くことです。
死亡診断書は、「人間の死亡を医学的・法律的に証明」し、「我が国の死因統計作成の資料」となるものです。死亡者本人の死亡に至るまでの過程を可能な限り詳細に論理的に表すもので、死亡に関する医学的、客観的な事実を正確に記入されます。
死亡診断書には、死亡の原因にⅠ欄とⅡ欄があり、Ⅰ欄は次のような構成となっています。
(ア) 直接の死因
(イ)(ア)の原因
(ウ)(イ)の原因
(エ)(ウ)の原因
さらにⅡ欄には、「直接には死因には関係しないがⅠ欄の傷病経過に影響を及ぼした傷病等」を記載することになっています。
重大疾病保険/特定疾病保険における対象となる急性心筋梗塞の定義は次のようになります。
上記の3要件を満たした上で急性心筋梗塞と診断確定されることが必要となります。すなわち臨床症状として、30分間以上続く急性の胸部痛を訴えて病院を受診し、その際の心電図検査により連続する2誘導以上でST上昇波形が見られ、血液検査にて心筋細胞逸脱酵素であるCKやトロポニンTの上昇が確認されたときに、普通保険約款上で急性心筋梗塞と診断されたことになります。
被保険者が死亡後に見つかる場合には話がややこしくなります。死亡保険金ならば死亡という事実があれば支払事由が該当しますが、災害死亡保険金や特定疾病死亡保険金の場合には、災害、急性心筋梗塞や脳卒中の有無を確認する必要があります。さらに溺死体や白骨遺体として発見されたときは、事故や事件の可能性も考慮しなければならないでしょう。
雨が降る夜に、ある高齢者が横断歩道橋の下で倒れていた事案がありました。既に息を引き取っていたので死亡は確かなのですが、歩道橋の上から落ちたのか、歩いていて心疾患を発症したのかなどを検証し、災害死亡や疾病死亡を決めなければなりません。病院のベッド上での死亡以外は、考慮すべき因子が色々あります。
また検視しか行われていないで、死亡診断書の直接死因が「虚血性心疾患疑い」などと記載された死亡診断書では、死亡者が急性心筋梗塞で死亡したのかを判断するのはとても困難です。
虚血性心疾患とは、心臓の冠動脈が動脈硬化などの原因で狭くなったり、閉塞したりして心筋に血液が行かなくなることで起こる疾患です。心筋に血液が供給されない状態を心筋虚血といいます。心筋虚血から心筋細胞の壊死が起きた病態が急性心筋梗塞ということになります。
虚血性心疾患に含まれる疾患としては、次のようなものがあります。
・狭心症(労作性狭心症、不安定狭心症)
・心筋梗塞(急性心筋梗塞)
・虚血性心不全
・虚血性心疾患の致死性不整脈
したがって虚血性心疾患の疑いには、心不全や致死性不整脈から意識消失を起こして死亡した可能性もあるというわけです。風呂場での溺死疑いの死亡事案では、入浴中に致死性不整脈を起こして死亡することもあります。この場合には死後AIをしても急性心筋梗塞を証明できないことになります。よって災害死亡でも急性心筋梗塞による死亡でもありません。
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