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(仮)トレンディ電子文 第24回:トレンディ、疫病、さんまちゃん

 はやりやまいはやはりやばい(綿矢りさ)…と感染者数のピークに併せ自分も床に臥していたが、TVが無い自宅はダラダラと映画やネトフリを見る環境が整っているとは言い難く、ディスプレイよりも手元のiphone画面で、それも30分以内の動画を連続して見続けるというのがどうにも楽だった、で、そのような過ごし方のベストを探った結果、トレンディ期「笑っていいとも!」の金曜日名物、タモリとさんまの雑談コーナー動画が最も療養に適した尺(おおよそ15~20分)と内容(明るい)であると判断、動画サイトにてひたすら見続けたのだった。

 「エムカク」氏のさんま研究が1985年までしか刊行されていない2022年現在、トレンディ期の明石家さんまを論じた本は無い。無いばかりか「さんまのトーク術に学べ」といった視点の自己啓発本ばかりが存在し、2022年は終わってるなと思う限りだ。BIG3関係を見ると樋口毅宏の「タモリ論」や新沢ひろ子の「ビートたけし論」内ではそれぞれさんまに一章を割いているが、いずれも主役との比較程度に止まっており、内容も今一つ的を射ているとは思えない。後者の本で言及されていた「さんまの結婚後の変化(当時はそれを凋落とする向きも多かったそう。確かにトレンディ後期のさんまはG帯にレギュラーを持たない)」については小倉千加子のコラムのほうが正確に状況を捉えている。それによるとさんまは連れ子を迎え入れ、演技する父=「過剰な父」となることで、逆に独身男のイノセンスを守ったのだという。そこでは彼の「男の人脈づくり」をあまり顧みない(≒非政治的な)芸風も引き続き温存され、また徐々に年長者となる故の役割の変化も伴わない。一時的には「実父」に落ち着いて笑いのエッジがトーンダウンしてしまう危惧もあった(絵本なども出していた)と聞くが、早くも92年には「離婚・家売却・借金」という笑いの種として強めの事態が訪れ、積極的にネタ化していく。父としての円熟を引き続きなさない、ある意味「強靭な笑い」がこの時期以降のさんまには齎され、また日テレ仕事が各種始まることで90年代の後半も残りのBIG2を差し置いて加速し続ける(因みにこの時期出まくっていたドラマでもさんまは父親役が少ない。「世界で一番パパが好き!」も父親感の過少を逆手に取った「田村正和メソッド」な起用に思える)。そうした過程により「父権」的ではないが、しかしお笑い至上主義的な権威性が醸成されたことが、現在まで続くさんまの特殊さ(捉えようによれば辟易さ)だと思うが、ナンシー関も同時期(99年)のコラムで「(90年代半ば以降に)さんまがトークの天才であると認知されたことで一番大きいのは(略)さんまがやっているタイプのトーク形式が本流(のひとつ)であると認知されたというほうにある」と書いている。この指摘が重要なのは、この時期以前、トレンディ期のいいともでは「場の支配者」とは別な立ち位置からさんまのトークは発せられているように思えるということだ。

 前述の通り自分は、さんまとタモリのフリートークを療養中、無間地獄の如く見続けた。どの日もおおむねさんまがイニシアチブを取る形で「笑いとなる自身の出来事」を引っ張り出してきて、タモリがツッコむかズラす。さんまのような達人のフリートークに何か「スタイル」を見出すのは本当に難しいのだが、その出来事のチョイスについては何かルールがあるように感じる。「男性同士で共有するネタ」「分かる人に分かる題目」は極力排除、と言わないまでもその場で"いいとも用"に昇華され、場の空気にトーク内容をどこかしら直結させている風なのだ。同番組のゲスト出演時すら「常習博打」「がさ入れ」などの自分のテリトリーのワードを使いまくるたけしとは対照的に、さんまのトークは意外と「さんまの裡にある"持ち物"」という感じがしない。しかしだからと言って「場と共に作り上げた」というのでもない(観客、という存在に対してさんまは結構差別的に振舞う)。まとめると、マイルールでさんまが話を押し進めるように傍目からは見えていても、その実、そのマイルールは「いいとも」という場の空気に捧ぐため、丹念に作り上げられたものであるという風に感じるのだ。トレンディ期以降の(対女性/芸人/芸能人の冠番組で)「場の支配者」としての存在感と、これは明らかに違う。寧ろここにタモリ以上の寂しさやニヒリズムを、病床の小画面から自分は見たのだ。

 めずらしく「BIG3揃い踏み」となった92年のトークで「都知事に立候補しようと思っている」と唐突に言うたけしに「(ウグイス嬢のジェスチャーをしながら)行くで、横で。誰も入れへんやろな」とさんまは返している。さんまの本当に魅力的な立ち位置や色気は、トレンディ期の「権威にならない」スタンスにこそあるのではないか。

 




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