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(仮)トレンディ電子文 第26回:メロディー・セクストンをよく知ろう(1)

1.  Heaven In The Nighttime
2.  Maybe For Me
3.  Mama Go Bang
4.  Beautiful Dream
5.  The Real You (Black Out)
6.  Just One Touch
7.  Give Us A Chance
8.  You've Got A Friend
9.  It's Only You
10. Good-bye

All Words by M. Sexton (Except 8 Words by C. King)
All Music by T. Namba (Except 8 Music by C. King)
All Arranged by TADASHI NAMBA
All Vocals by MELODIE SEXTON

 グルーヴィー、メロウ、コンテンポラリーといったワードが当てはまるようなトレンディ期の日本製のポップス盤は今なお「CITY POP」のラベリングのもと再発・再評価が進行中で、ブックオフ500円盤をいま再発する必要があるのとか、未CD化の盤を枚数限定で再アナログ化とはあまりにも「アーカイブ性」をないがしろにしてはいないかとか、言いたいことは沢山あるがしかし総じて嬉しいことである。久野かおりやプラチナム900を筆頭とした「ムーブメントがなければ自分も聴かなかった盤」を知れることは自分にとって、掛け値なしにこの10年で1番か2番の喜びであった。しかしトレンディ期のポップスは現状、掘っても掘っても知らない良盤が出てきてしまうのである。汲めども尽きぬこの泉を「どの仕方で」掘るか、が20年代の使命であるか。そんな使命に押し出されるように書きたいのが、今日でもなかなかピックアップされない、日本でしかリリースされない非日本人アーティストによる「日本製洋楽」。一口にこう言っても①キャリアのある海外ミュージシャンが好況の日本に招かれる形で限定リリースしたもの②セッション・ミュージシャンが日本でのみソロ活動をしていてリリースされたもの③全く素性が分からないが、とにかく日本名じゃないもの…など色々ある。いずれにせよ現状のシティ・ポップ解釈は「日本人」のポップスという視点が強いのは否めないため、どうしても洋/邦楽の区分を浸潤する「日本製洋楽」は再発見されづらい。

 メロディー・セクストン、という名前を聞いて先ずピンとくる人はトレンディ期ではなく、ハウスユニット「GTS」のディーバとしてだろう。ロレッタ・ハロウェイやキャリン・ホワイトといった錚々たる顔ぶれとともに多数の楽曲で彼女はフィーチャリングされており、95年のファーストシングル「Through The Fire」でチャカ・カーン楽曲を溌溂としたアップにし余裕で歌いこなしているほか、98年にリリースされた「BRAND NEW WORLD」はゲーム「beatmania」で使われ現在も一定の知名度を得ている(何と米ビルボードのダンス・チャートにも入ったそう)。またGTSと同じavex関係の仕事として、小室哲哉プロデュースワークの客演も忘れてはいけない。EUROGROOVEや95年ごろの「ディスコ/ソウル期のtrf」楽曲ではコーラスだけでなく作詞まで手掛けており、そのせいか同時期に発売された彼女のソロアルバムでは帯に「小室哲哉ファミリー最強のヴォーカリスト」と、95年にしかできない力業な紹介がなされてしまっていたりする…しかし、そもそも彼女のキャリアは日本から始まったわけではなく、元々は本国アメリカにてソルトンペパやブレンダ・K・スターらのバックヴォーカルを努めていたというのだから、その才能は確実に本物なのだ。90年に来日したのを契機に、活動の拠点を日本に移し、当初は大阪のクラブでのハコ・バンドとして活動していたという。その後横浜のピアノ・バーなどで歌いながらデモテープを作り、徐々にスタジオ・ミュージシャンとしての仕事を増やていく。90年代中盤はそうしたスタジオ仕事のピークだったとおぼしく、佐野元春と数度にわたりツアーに帯同し、印象的なコーラスを聴かせているているほか、CHAGE &ASKAの英語シングル「Something There」で(チャゲより前面に出た!)迫力のあるコーラスをつけていたり、KDDのコマーシャルで西田敏行とともに麗しいア・カペラを歌っていたり…とこの時期は本当に幼少の自分の記憶にも残っているようなイイ仕事が多い。彼女は売れっ子セッション・ミュージシャンだったのだ。

 そしてそんな時期のとば口、トレンディ期後半の92年にリリースされた初ソロ作品が、上に曲目を上げたアルバム「Beautiful Dream」だ。

(つづく)


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