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プレイリスト「This Is Yoon Sang」解説


Playlist 「This is Yoon Sang」(Spotify)


 RIIZEの全貌が明らかになり、メンバーにユンサンの息子がいると判明したのがちょうど1年前。その折にSpotifyでプレイリスト「This Is Yoon Sang」を作ってみたが、ユンサンのサブスクのライブラリーは殆どがベストとそっけないジャケのボックスにまとめられており(本人の律儀そうなキャラクターを裏切らない!)、どの曲がいつの作品なのか、音だけではなかなかわかりづらい面がある。幸いユンサンはDiscogsと韓国語のWikipedia情報がしっかりしているので、それらを参考にプレイリストの解説を書いてみることにした。

いまの日本では「アントンパパ」(なつかしの"アンナパパ"みたいだ)としての知名度が圧倒的だろうが、「音楽家ユンサン」は作曲・アレンジ・卓越したベースプレイとマルチな才能を持ち、今なお現役で活動するレジェンドだ。インテリジェンスに溢れたそのルックスからも想像できる通り、作風はスマートなエレクトロ・ポップスという点で一貫しているが、デビューから丹念に振り返ってみるとシティポップ的なムードからドラムンベース、R&B、エレクトロニカとその時々の時流にもきちんと取り組んでいるのがわかる。このような特性を持ったアーティストを日本に置き換えるとやはり「YMO」の面々となるだろう。実際ユンサンのキャリア全般で帯同しているAstro Bits(bk!)はデビュー時にキョージュのバックアップを受けるなど、関わりはかなり直接的にある。しかし一方的に影響を受けているというよりは、同時代・同志向のミュージシャンとして隣国同士で「共振」していると言ったほうが正しいようにも思う(近年のリリースには、YMOがついぞ達することのなかった攻めのEDM作品もあるのだ)。またソロシンガーとして出発した彼にはYMOに無い(玉ちゃんASKA的な)「ポップスター」の屹立した存在感があり、故に前衛との距離の取り方もまた独特なのだ。キョージュ亡き今、ユンサンが今後どんな音楽活動を展開するのか注目したいところだが、ひとまずこの時系列にほぼ沿ったプレイリストで、デビューからの輝かしいキャリアを簡単に振り返りたい。


1「If you wanna console me…」
from Single  「If you wanna console me…」(2014)

ユンサン初のデジタルシングル。フランスのエティエンヌ・ダオらの歩みとも軌を一にする、大御所的余裕とダンスビートとが拮抗した良EDM。

2「ある人A」
from Album 「There Is A Man...」(2003)
ユンサンのサブスク再生回数第1位が、03年のこの曲。クールなR&Bテイストのビートにガット・ギターが乗る流麗なミディアム。PVはペドロ・アルモドバル「トーク・トゥ・ハー」を再構成したもので、曲とジャストフィットしている。

3「別れの影」
4「もう一歩」
5「幸せを待って」
from Album  「YOONSANG1集」(1990)

記念すべきデビュー・アルバムより。もちろん作曲・編曲は彼自身。デバージ的なムード+シティ・ポップの4、独特の丸みを帯びた打ち込みセンスが光る5など、早くも洗練の極み。

6「隠された時の間に」
7「簡単に言ったけど」
8「あなたに」
9「私の夢の中で」
from Album 「YOONSANG2 Part 1」(1992)

元々はダブル・アルバムとして制作されていたうちのvol.1。「歌手活動最後のアルバム」と銘打たれ、以降は作曲家として活動する予定だったそう。大ヒットしたレイン系バラード6のほか、どこか人間活動前の宇多田ヒカルっぽいフッ軽R&B7がカッコいい。

10「夜明け」
11「後悔」
from Album 「YOONSANG2 Part2」(1993)

ダブル・アルバムのvol.2は2年空いて93年リリース。ホーリーな(ほぼ)インスト10など、よりパーソナル性に寄った打ち込みポップスの印象。


12「Song 1 壁」
13「S’Aimer en silence」
from EP 「Renacimiento」(1996)

更に間が空いて除隊後の初作品。構成は少々変則的で、過去曲を海外シンガーでリメイクした楽曲+新曲2曲が入っている。リメイクは言葉の違いでここまで海外のフィーリングになるのかという驚きが随所にあり、フランス語13などまるでジャンヌ・マスのよう。


14「疾走」
15「子守唄」
16「反撃」
17「走る」
from NODANCE Album 「골든힛트(ゴールデン・ヒット)」(1996)

エレクトロ~テクノの方向性へよりシフトするため、同世代のシン・ヘチョル(N.E.X.T)とユニットを結成。ご乱心というか、全体的にかなり好き勝手やったと思しきアルバム。14はドラムン・ベースに韓国バラード的メロディが乗り、EBTGの同時代解釈と言っていい。柔らかくバウンスする17はのちにS.E.S.がカヴァー。

18「いつもそうだったように」
19「悪夢」
from EP 「Insensible」(1998)

ふたたびおフランスの匂いがする18(PVにアントン母シム・ヘジンが出ているそう)で始まるEP。打ち込みが徐々にエレクトロニカの様相を帯びてきており、きちんとトレンドと帯同している。メロウな19は高橋幸宏「The Dearest Fool」を思い出す。

20「結局…ありがちな恋の物語」
21「偶然パリで」
22「Back To The Real Life」
23「City Life」
from Album 「CLICHÈ」(2000)

ジャケが砂原まりんにしか見えないが名盤。タツロー風カッティング20からいきなりシルキー&グルーヴィーに始まり、22、23など90sグルーヴの時流を見据えつつ「ユンサン・タッチ」としか言いようのない柔らかさで仕上げている。サウンドのオリジナリティは正に「アーティスト」そのもの。

24「移徙」
25「A Fairy Tale」
26「再会」
from Album 「移徙」(2002)

ここでボッサ・ラテン方面へ急転回し、gut期の坂本龍一とかなり共振した作品をドロップ。ガットギターが印象的な24、25は日本のサンバ隊Balançaがリズムで参加。サウダージ感で溢れた四つ打ちラテン26も麗しい。

27「Good Old Love Song : Side A」
28「Man! What a Selfish Kid...」
29 「不安
 (la marcha mix)」
from Album 「There Is A Man...」(2003)

1年のボストン留学後にリリース。MJBやTLCように大らかにバウンスする28など、R&Bモードがふたたび顕著に。ジュニア・ヴァスケスみたいなリミックス29もシンプルにカッコいい。

30「去ろう」
31「臆病な魚たち」
32「その時知らなかったこと」
33「その瞳の中に」
34「永遠に」
from Album 「그땐 몰랐던 일들(その時知らなかったこと)」(2009)

RIIZEアントンはこのアルバムについて「思い出が詰まっていて、これだけ聴いて死んでも後悔しない」と言い切っている。宅録ポップスのようにコンパクトな音像でどこか肩の力の抜けた、自由さとポジティヴさに溢れた名盤。タイトル曲32のドリーミーなエレクトロニカ(Sketch Showみたい)を筆頭に、ユンサンの「柔らかさ」の持ち味が如何なく発揮されている。ここで達成感があったのか、ソロ名義のオリジナルアルバムは以降途絶えている。


35「Waltz (duet with DAVINK)」
from EP 「The Duets Part 1」(2014)
1Piece(後述)のDAVINIKやINFINITEのキム・ソンギュらとの「男性デュエット」EPから。より普遍的な境地にあるかのような滋養エレポップ。

36「Let's Get It wan9u Remix」
37「Alone」
from 1Piece EP 「Alone」(2017)

1Pieceはユンサン、Space Cowboy(ハウスの人とは別人物)、DAVINKらによるクリエイティヴ・チームで、Lovelyzのヒット曲などはこの名義で手掛けている。Doc2のラップをフィーチャーした36、ダークなEDM37とここまでのキャリアとかけ離れた「攻め」の音像。

38「Apocalypse」
39「Broken」
from Nohys EP 「ethic」(2023)

ユンサンとCaskerのイ・ジュノが結成したプロジェクトで「ノイス」と読むらしい。アプローチは歌ものエレクトロニカに韓国バラードの叙情を加味した感じで、日本にも北欧にも無い境地にあると思う。


40 「その時知らなかったこと -子どもたち」
from Album「그땐 몰랐던 일들(その時知らなかったこと)」(2009)
「その時知らなかったこと」の幼年アントンが歌うヴァージョンをおまけで。これはこれでmúmみたいで成立している。

以上40曲(本来はもっと「同時代の韓国アーティスト」、例えばキム・ヒョンチョルなどを参照しつつ解説すべきだろうが、そこまで知識が無いため書けなかった。申し訳ないです)。プレイリストにはユンサンのプロデュース作品も(トレンディ期を中心に)以降20曲入れてみた(43は斉藤由貴「情熱」と似すぎてて問題になったそう)が情報源がフワフワしており、実際ユンサン作品なのか怪しいところも幾つかあるのでご容赦ください。サブスクには無い作品としてよりグリッチ/エレクトロニカにシフトした「mo:tet」名義のアルバムが2009年にリリースされている。自分は韓国から取り寄せて聴いてみたが、殆どPROGRESSIVE FOrMという出来(ここにおいてもYMOとの共振が発生している…)で素晴らしかった。音楽家としての洗練とシンガー・芸能人(~アントンパパ)としてのキャッチ―さ、それら両軸を知ってこそのユンサンの全貌が現れることは間違いないので、是非このプレイリストでユンサンの来し方を再確認し、多面的な魅力を感じてほしい。


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