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ブラッドボーン 夜明けを追う狩人 第六話 『下水橋』

 

「なるほど…この市街から聖堂街に向かうには、大橋を使うほかないのですが獣狩りの夜、橋門が閉じられているとなれば、そうもいきませんね…うーん…であれば、下水橋はどうでしょうか?」

相変わらず咳をし調子は悪そうだ。ギルバードがいうには治安のよくない街の南側に下水橋があるらしい。こんな獣が徘徊する今じゃ治安はあまり関係なさそうだ。俺はギルバードに再びお大事にと告げ、街の探索に出ることにした。

街の南側と聞いたものの、あちこち道が封鎖されている上、どっちが南なのかわからない。あまり調べてない場所、パッと浮かんだ大橋を目指すことにした。

街の中には再び獣たちが歩き回っていた。どこからあらわれたんだか。正直気が滅入ったが思ったよりすんなり通れた。集団で動いているが、石を投げれば当たったやつだけこちらに振り向く。どうも仲間を呼ぶ知能はないらしい。獣の特性か?一対一なら負けることもない。一体一体処理して進む。

大橋に辿り着き周りを見渡す。来た時気付かなかったが、降りる階段があった。先は狼型が燃やされている広場の上方だった。そして不自然に樽やら木箱が詰まれた通路がある。ノコギリ鉈を叩きつけ破壊してみると、下からツンっとする臭いが昇ってくる穴とはしごがあった。

恐らくこの下は下水橋だ。ただギルバードのいう位置とは違う気がするが。ここからでも聖堂街へ通じているのだろうか?間違っていたら引き返せばいいか。ひとまず降りることにした。

ただその前に拾ったものを整理する。目ぼしいものを探しながら歩いたが結構収穫があった。輸血液、水銀弾、そして火炎瓶。不思議なことだが、このポーチ、見た目以上に入る。何か特殊な技術が使われているのかもしれない。どんな技術かわかることはなさそうだが。

気を取り直しはしごを降りる。そこは夕日すら届かぬ石に囲まれたトンネルだった。煙が立ち空気が地上より淀んでいるのが目に見える。一人、二人しか通れぬ小さな通路のすぐ横は深さ5mほどの溝があり、下水が流れる。そこには巨大ネズミが走っていた。通路の先は手足が伸びより獣化した人型がうろつく。普通の人型より醜悪な見た目をしているが一人でうろついている。一人なら恐れることはない。相手の振りに合わせ銃を撃ち、内臓を握りつぶす。

途中足場が途切れ、はしごをつたい下水に降りた。水の深さは足首ほど。靴に入る水が不快だ。巨大ネズミがこちらに向かってきたが人型より脆かった。ただ囲まれると厄介そうだ。確実に止めを刺し進む。聖堂街につくことを祈って水に流れに沿って歩いたが、あいにく崖だった。高さは15mほど。遠くにはしごが見える。あそこに回るしかないか。

とりあえず何かないかと探すと狩人と思われる死体があった。……服の大きさは合いそうだ。目立った損傷はない。狩りを続けるならより適した服がいる。服を剥ぐのは……と少し躊躇したが、死体から物を拝借している手前今更か。

血に汚れた服を脱ぎ捨て、別の血に汚れた服に着替える。帽子は黒、上下も黒、黒のマスクと小さな黒のマント。薄暗いここによく似合う。そして体に馴染む。手触りから前の服より頑丈であることが伝わる。だが獣の膂力の前では気休め程度だろうな。現に元の持ち主は死んでいる。

戻る前に崖の上から下を覗く。下には死体がいくつも倒れており、一目で落ちて無事な高さではないことがわかる。落ちれば死体の仲間入りだ。そう常識で考えるのだが、感覚では飛び降りられそうな気がした。俺は段差から降りるように足を一歩踏み出し、死体が待つところへ落ちていった。

地面に着地。衝撃が両足から上に登っていき、全身の骨が砕けるような振動が走る。だが骨は砕けることはない。血が骨に染みわたり支えるのを感じた。血はだいぶ消費されたが死には遠い。輸血液を一本刺せば直る範囲だ。

輸血液を刺し一息つくと死体が唸り声を上げた。ゆったりとこちらに這ってくる。弱そうだが数がいる。下手に相手せず向こうにあるはしごを登る。下半身は腐って立てないようで登ってこない。おそらくこのはしごは聖堂街に通じる道ではないだろうが、一度上まで登り切ることにした。ここにずっといると気が滅入る。

はしごを登り切ると夕日が俺を照らした。噴水のある広場の近くだ。鉄の門があり、噴水側からは来れないようになっている。街は街で陰鬱だが、下水の中にいるよりもマシだ。

家の窓を見ると人の気配がした。探索したとき街にいる人に話しかけたが、邪険に扱われ話にならなかった。だがギルバードのような人物が他にもいるかもしれない。とくに期待せず声をかけてみた。

「……あなただあれ?知らない声、でも懐かしい臭いもするの。もしかして獣狩りの人かな?」

少女がいうには母が父を探しに行ったらしい。獣狩りの夜だからと。不安と寂しさが漏れ出る声を聞いていると、つい母を探すといってしまった。母は真っ赤なブローチをしているとのこと。そして父の好きなオルゴールを忘れていったのであったら渡してほしいと、オルゴールを受け取った。例え自分たちのことを父が忘れていてもこの曲を聴けば思い出すらしい。思い出深い曲だということはわかったが、変な例えだな。

少女の母に出会えることを願って、再びはしごを降りた。下水の中は動く死体だらけだ。遅いので対処は楽だが、いちいち相手をするのも面倒だ。適度に無視しながら前に進む。

より奥に進む通路とはしごのあるところについたが、先に続くのはどっちだ?少し悩んでから奥に進むことにした。もしどちらかが行き止まりなら、はしごの上り下りより歩きのほうが楽だ。通路を歩いてしばらくすると豚が見えた。明らかに普通とは違う大きさの豚。身長は俺より二回りほど大きい。そして豚は怒りの咆哮を向ける。

俺は横の壁を見た。通路の大きさは豚が入る程度だ。もしもここに突っ込んでこられたら……想像したくない光景が頭の中に流れ、俺は急いで走った。豚のいる部屋に突っ込み、今に突っ込んできそうな豚の横につく。こちらを突飛ばそうと体を振るが、横に動き続けば当たることはない。真後ろを取り、体を反らせるだけ反らし力の限り武器を叩きつける。豚は体をべたりと地面に体をつけ、突っ込むにはちょうどいい位置に穴が来る。気が進まないが……思いっきり手を突き刺し、そこにあるものを握りつぶす。

手を引き抜くと大量の血が噴き出し、聖職者の獣のように霧のように消えた。近くには「ノコギリ証」というのが落ちていた。これは使者に渡すものらしい。どうなるかは後で確かめるか。

そのまま道なりに進むと外に出て、上に登るはしごがあった。かなり長いはしごだ。落ちた崖よりも高い。登っている途中、獣をうめき声が聞こえ、慎重に上がると近くに大男がいた。俺は驚いたがそれも大男にも同じだったようで、突然大男は岩を転がし、前方にいた人型を押しつぶしていく。

どうやら分岐にあったはしごを登ると岩が転がっていった通路に出るようで、人が通るのを待ち構えていたようだ。よくわからないまま不意打ちの形になり、大男そして近くにいた盾持ちも始末する。

安全を確保し道なりに進む。そこは墓地だった。グチャリ、グチャリ、何かを潰すような音が響いていた。

 


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