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イシナガキクエ【起源】 第2話
以前は3日に1度は会いに来ていた実次だったが、最後に会ってから1ヶ月もキクエのもとに来ることはなかった。不自然に思ったキクエは、実次を探すべく、市場がある農村の中心部へと出かけた。突然、百姓の家の周りや市場をうろうろし始めたキクエを見て、村人は気味悪がったが、キクエは気にしなかった。唯一の心の支えであり、愛する人である実次を一心不乱に探し歩いた。それから数日の間歩き回ったが、実次は見つからなかった。
キクエはついに、他の村人へ実次の行方を尋ねることに決めた。言葉は話せないが何とかして、「実次を探しています」ということを伝えることを試みた。そこでキクエは、実次が首にかけていた笛のことを思い出し、首にものをかける仕草をすることで実次のことを示すことにした。
初めのうちは、人々はみな、近づいてくるキクエを露骨に避けていた。しかし、何度も何度もしつこくついてくるキクエを無視することはできず、しまいにはキクエの相手をするしかなかった。
「お前、何を伝えたいかわからないよ。あっちに行きな」
キクエが最初に話しかけた女には、キクエの仕草の意味が伝わらなかった。その後も、何人もの村人に話しかけたが無駄であった。
キクエが35人目の男に話しかけたとき、ようやくキクエの仕草が実次のことを示すということが伝わった。
「実次は、ここ最近ずっと見てねえよ。だが、お前が実次をずっと探し回ってることのほうがよっぽど気味が悪い。お前、まさか実次の家を狙ってるのか?」
男の剣幕に、キクエは思わず後ずさりをした。
「やめてやれ」
突然、キクエの後ろから、実次と似たような声が聞こえてきた。
「ここからは俺が代わりに話を聞こう」
声の主は、実次の兄である政次であった。
そして同じ頃、村のとある家から激しい咳の音が響いていた。その家に住んでいるのは、キクエが最初に話しかけた女であった。
第2話 完
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