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舐め回すように聞く#1 『呼び込み君』 第2回

これまでのあらすじ

『呼び込み君』が音商標として登録されようと奮闘している、ということまでわかった。


全体構成

改めてスコア譜を再掲しよう。

『呼び込み君』スコア譜

 編成

メロディがリコーダー、ハーモニーとしてブラスが2〜3声、ウッドベース、ドラムはキックとスネアである。シンプルで標準的な構成と言える。

敢えて言うならメロディがリコーダーというのは変わっているかもしれない。他の楽器に比べて飛び抜けて軽く、アコースティックで演奏したらマイク無しだと全く聞こえないだろう。逆に言えばその変わった組み合わせが、よりリコーダーの音色の軽さを強調し、それが曲全体の軽快な印象に寄与している可能性がある。

また、ベースの音色としてウッドベースを使用しているのはそれなりの意図があるかもしれない。というのも、エレクトリック・ベースやシンセの音に比べて、ウッドベースの音は低音楽器としての土台感が相対的に弱い。作曲者は低音の安定感より、曲全体をアコースティックな質感でまとめることを意識したのかもしれない。惜しむらくは、ウッドベースの一般的な音域外の音を使ってしまっている点だ(最低音E1の下D1、5, 6小節目など)。

テンポ

私が計測したところBPM=131前後であった。

実は、前回触れた音商標の出願資料には、楽譜が4小節だけ添付されている。それによるとBPM=125だ。6も違うと明らかにテンポは違って感じる。いくつか動画を漁ってみたが、若干の違いが認められるもののせいぜい130〜132の間に収まっている。テープの劣化なら遅くなることはあっても早くなりはしない。というかそもそも呼び込み君はメモリ式だ。そう言えば、出願資料に音源が4小節だけついていたな、聞いて測ってみよう。

……131やんけ!!! 大丈夫か出願人、音商標ってBPMのズレたものは保護されないとか無い?

ふと、売り場に流れる曲のBPMと購買行動は何かしら関係があるのか気になった。案の定そういった調査は古くからある。1982年のMillimanのペーパー*1 によれば、「遅い曲」より「速い曲」を流したほうが、買い物客の行動は早くなりしかも客単価が上がるらしい。ここで興味深いのは「遅い曲」と「速い曲」の定義だ。この実験においては、被験者にアンケートを取り決めたとのこと。その結果、BPMが72より低い曲群を「遅い曲」、92より高い曲群を「速い曲」として取り扱ったそうだ。平均のBPMはそれぞれ64と108だった。『呼び込み君』のテンポは相当早い。
*1 Milliman, R.E. (1982). Using Background Music to Affect the Behavior of Supermarket Shoppers. Journal of Marketing, 46, 86 - 91.

構成

さて、再び楽譜に戻ろう。

『呼び込み君』スコア譜

繰り返し構造としては、8小節の基本セットを3回演奏+エンディング3小節で計27小節である。エンディングと言っても、基本セットの最初2小節にラストトーンとしてトニックの和音伸ばしを付け加えただけである。

さて、楽譜を見てもらえば分かるが、1〜3ページ目にはその基本セットの繰り返しが律儀に書き下されている。繰り返し記号を使えば1ページにまとまるではないか、という声も聞こえてきそうなのだが、なんとこの3回の演奏、全て微妙に違うのだ。まあほんとに微妙な違いなので、楽譜なんて演奏のもとになるニュアンスが伝わればいいと考え、そんな微妙な違いは捨象してしまえというのもありだ。ただ今回採譜しながらこの事に気付いてなんだか面白くなってしまい、徹底的にその微妙な違いを楽譜に洗い出してやろうと思ってしまったのだ。

その「微妙な違い」の箇所を楽譜にマークしたものも掲載しよう。

『呼び込み君』スコア譜(違い箇所マーク付き)

1回目に対し、2回目3回目がそれぞれ異なっている箇所を赤枠線でマークした。微差〜……。少し解説したい。

まずブラス(編成の2本目)。ブロックコードの8分裏打ちを基調とし、たまに16分の遊びがある、という構成だ。その遊びの具合が2回目の2箇所だけ違う。

続いてドラム。こちらはさらに軽微な差で2回目の1箇所だけ。3回目に突入する直前のスネアに16分が増えており、他の回に比べてちょっとした盛り上がりを感じる。ちなみにこのときキック(ドラムセットのバスドラム)もちょっと違う。キックは4分打ち4発4発4発3発+休み1発というセットが曲を通してのパターンなのだが、この2回目のラストの小節だけ休みではなく、キックが入っているのだ。スネアと合わせてドラムセットの盛り上がりがここに表現されているのだろうか、気付いたとき爆笑してしまった。

最後にメロディである。そもそもなぜこの繰り返しにおける微妙な差に気付いたか。私は常々楽譜上の記述として「音がどこで切れるか」について、出来る限り正確に扱うよう心がけている。どういうことか実際の状況をトレースしながら解説したい。


楽譜化をしたい演奏(ピアノロール表示)

例えば、上記のような演奏を楽譜化したいとしよう。画像ではピアノロール表示になっているが、音源を聞いてこう聞こえたものをどう楽譜に落とすか、という問題である。おそらく何も考えずに楽譜化すると以下のようにする人がほとんどだと思う。

楽譜化1

一般的に、音の出だしのタイミングに比べて音を切るタイミングは曖昧なことが多い。 曖昧というのは、多少そのタイミングがずれていようが聴者はわからないし、なので演者も気にしないという意味である。そのため作曲者・採譜者も譜記上、音を切るタイミング、言い換えると音の長さ(音価)の表現については、その正確性に無頓着なケースが多い。楽譜化1の例で言えば、例えば1音目は、演奏上16分音符程度の音価しか無いのに楽譜では倍の8分音符で表現されている。しかしながら、曲のジャンルにもよるのだが、音を切るタイミングは演奏のグルーブ感に大きく寄与するため、演奏指示を担う楽譜としては極力そのニュアンスを表現したいわけである。

ところが、実際の音価をクソ真面目に音符で表現するとこうなってしまう。

楽譜化2

明らかに可読性が低い。しかも、おそらくこれを黙って奏者に渡すと、例えば2音目の4分音符などはまず間違いなく短く切られて演奏されるであろう。個人的には悪習だと思っているが、つくづく奏者は音符の名目上の音価を場面場面で勝手に解釈して変えてしまうのだ。

現実的な演奏現場の運用としては、単純な音価表記にアーティキュレーション記号を付すことでそのニュアンスを補うということが多い。例えば私はこうする。

楽譜化3

8ビートなので、それ以下の音価の音符はアーティキュレーションの表現をするためには使わない。音の出だしがはっきり立ってれば良いですよという意味でスタッカート、2つ目の4分音符は音価いっぱいしっかり伸ばして次の音と連続してほしいのでテヌートという具合だ。最後の1音は、4分音符にスタッカートという選択肢もありうるが、他の8分音符+スタッカートとのニュアンスの違いを強調したく、こういった表記にしてみた。実際、音商標出願資料に付されている楽譜ではそちらを採用していた(採譜が全て完了してから発見したので敢えて直さなかった)。ていうかアーティキュレーションの表現ほとんど正解なのすごくない……?

楽譜化4
(商標出願 2020-124414より)

ちなみに、『呼び込み君』の出願ほど、アーティキュレーション記号がしっかり付けられている音商標は殆ど見当たらない。「ブルーレットおくだけ」ぐらい。『呼び込み君』の音商標としての識別性が、そこに依拠しているのだろうか。


さて、また話が大きく脱線したが、メロディーのアーティキュレーションをできる限り正確に楽譜表現しようと思った、という話である。先程示した、マーカー付きの楽譜の通り、1〜3回目の演奏において、全てアーティキュレーションすなわち音の切りのタイミングが違うのである。

これにより、全く同じメロディの繰り返しであるにも関わらず、微妙な新鮮味を与えているのである。……うーん、そうかな。少なくとも気付いている人は殆どいないだろう。あるとしても無意識レベルへの影響だ。

本楽曲は明らかに打ち込みである。普通なら繰り返しプレイを作りたければ、ループ機能を使うか、コピペをしてしまえば良い。しかし、ブラスやドラムのアレンジを見ると、繰り返しにちょっとした変化を入れたいという意図は感じる。それに比べるとメロディの間違い探しレベルの変化は一体何なんだ。手動演奏入力をクオンタイズしたときの誤差だろうか。本当のところはわからない。

メロディ

さてここからはいろいろな要素にフォーカスして解析をしてみたい。まずはメロディを詳しく見てみよう。

『呼び込み君』メロディ譜

先程述べたように、1セット8小節の繰り返しである。アーティキュレーションは微妙に違うものの、メロディ分析には差し支えないので1回目のものを代表で持ってきた。

モチーフ

Wikipediaによれば、ネット上でこの曲は「ポポーポポポポ♪」との愛称がつけられている。これは明らかに1, 2小節目に繰り返されるモチーフを表したものであろう。

1, 2小節目はこのモチーフが全くそのまま2回同じように演奏される。ところが3小節目、いきなり別音形が登場する。モチーフとは、繰り返しとちょっとした変化を織り交ぜながら聴者に印象づけ、丁度いいところでそれを裏切るの、というのが王道だ。ベートーベンの運命なんかまさにそうだ。

しかし、ちょっと落ち着いてよく見てみると、この3小節目の音形、モチーフをちゃんと踏まえていることが分かる。

モチーフの変形

左が1小節目、右が3小節目の音形を一部抜き出して抽象化したものだ。似ている……。いや、若干無理筋なのはわかっているが、思い出してほしいのがブラスが8分裏打ちをしているということ。右の変形した方は8分の連打であるが、これがブラスの8分裏打ちによって、2つ目4つ目が浮き上がってくる。そうなるとほぼ左の音形と機能は同じである。ブラス伴奏とセットで、この音形はモチーフを踏襲してると言えなくはないのだ。

さて、モチーフを楽譜に改めてマークしてみる。

『呼び込み君』メロディ譜(モチーフマーク付き)

最初に提示されたモチーフが、変形しながら3, 5, 6, 7小節目に繰り返されている。また、1〜4小節目と5〜8小節目は1段大きな単位での繰り返し構造になっていることも分かる。すなわち、3小節モチーフを見せて1小節変化(非モチーフによる裏切り)を見せる、という構造である。更にこの8小節自体が繰り返されることを考えると、少なくとも3重の多層構造になっていることが分かる。

8小節目のこの音形は個人的にかなり好きだ。楽譜上はアーティキュレーション表現の都合上8分音符で書いているが、本質的には4/4拍子の表拍連打である。先程も言ったように、この曲の全体的なリズムのテクスチャは「8分裏打ち」である。モチーフにもそのニュアンスがある。その裏切りの要素として、基本セットの最後の最後に、完全な表拍の強調を持ってきている。さらにアーティキュレーションを細かく見ると、演奏音価は4分音符の半分、つまり8分音符の長さできれいにズバッと切っている。これにより、ブラスの裏打ちと交互に音が出てくる、ということが起こり、より表拍と裏拍の対比が強調されるわけである。

さらにさらに、その音形は7小節目の3拍目から始まっている。モチーフの変形の最後とオーバラップさせながら、モチーフと対比する別の形をうまく持ってきている、という非常にニクい作りになっている。

シェル分析

メロディをさらに別の観点から分析してみたい。そこで「シェル」*2 という概念を導入する。

*2 「シェル」は音楽理論としての用語であるが、実はこれはSoundQuestという音楽理論をまとめているサイトで作り出された言葉であり、歴史のある一般的な楽典用語ではない。SoundQuestは自身を「自由派」と位置づけ、歴史を踏まえつつも現代の観点から包容力のある音楽理論を展開しようとするスタンスだ。分析やそこで用いられる道具は実に合理的で筆者好みであるため、今後も度々借用させてもらう事となると思う。

「シェル」とは、詳しくはSoundQuestの説明ページを御覧いただきたいが、ざっくり「メロディのコード内ディグリーによる性質の違い」と説明できる。「コード内ディグリー」とはそのコードの中である音が"何度"の位置にあるか。例えばA音のコードD6におけるコード内ディグリーは5thであり、コードBm7におけるコード内ディグリーは7thである。その5thや7thが「響きとしてどういう性質を持っているか、それによりメロディがどういう印象を纏うか」を論じていこうというわけだ。

まずメロディの1小節目について、コード内ディグリーを付したものを見てみよう。

『呼び込み君』メロディ1小節目(コード内ディグリー付き)

まずこのモチーフは、A音、すなわち5thシェルが軸になっていることに気づく。5thを中心に上下6thと3rdに振っている構成だ。

まず軸となる5thシェルは、一般的に「無色透明」「ストレート・硬い」「高揚感」といった性質を持っている。5thという度数が作る形質そのものである。『呼び込み君』が表現したいであろう「ワクワク感」みたいなものは、ルート音から5th離れることによるA音の高揚感がうまく作り出していると言える。一方で、5thシェルが持つその他の形質「無色透明」「ストレート・硬い」といったものは、この場合それほど感じられない。他パートがしっかりメジャーコード感を押し出していること、リコーダーという楽器の軽い感じなどがこれらを緩和していると思われる。

次に着目したいのが3音目のB音6thシェルである。6thの性質であるが、まず基本の1, 3, 5度ではないため、それらに比べて少しコードから「外れた」印象を受ける。とはいえ、緊張感や不安感のような形質はそれほど強く感じないはずである。言うなればちょっとした浮遊感みたいな感じがするのではないだろうか。このモチーフでいうと「ルートからぴょんと飛び上がった5thという高い壁の上で更にちょいジャンプをして6thに上がる」みたいな感じである。

また別の観点では、6thはマイナーのニュアンスをもたらす。転回すればこの場合は短3度、マイナーコードの度数だ。これによるちょっとした哀愁のような形質も6thの特徴と言っていいだろう。最初の2小節のコードをD6としたのは、このB音の働きを意識してのことである。ただし音価的にはかなり短いので影響としては軽微である。

少しシェル分析から離れるが、このB音提示は「四七抜き音階」の提示に一役買っていると考えられる。『呼び込み君』のメロディーは「ほぼ」四七抜き音階で作られている。四七抜き音階とは、4度と7度の音を使わないスケールで、C majorでいうと「ドレミソラ」だけを使うものだ。様々なジャンルで用いられるが、日本で言えば童謡の多くはこの四七抜き音階で作られており、懐かしさや東洋的な印象を持っている。『呼び込み君』に親しみやすい印象を与える一因であろう。「ほぼ」といったのは、8小節目2拍目のG音は4度だからだ。ただ、この箇所はメロディとしてスケール感を押し出すいうより、先述したとおりモチーフ裏切りとしての音形の提示とドミナントに7thを与えるための、例外的な動きと解釈してもいいだろう。

それ以外のシェルとして残っているのは5音目の3rdだ。3rdは非常にわかりやすい。major/minorを決定する役回りからか、彩り豊かな印象を受ける。連打される5th中心のメロディに3rdで彩りを添えていると言える。まあ、これも短いので、どちらかというと5thの上下でメロディを振り回した下側の着地がたまたま3rdだったという解釈でも良いかもしれない。


さて続いて3, 4小節目だ。

『呼び込み君』メロディ3, 4小節目(コード内ディグリー付き)

全体的なシェルの流れとしては、3rdから始まり、(短い4th, 3rdをはさみながらも)5thに上がり、さらに7thまで上がっていく、という作りになっている。

コードはBmin7、マイナーである。初っ端3rdシェルの連打によってそのマイナー感がまず強調される。続く5thは浮遊感や透明感と言ったテクスチャを持っている、というのはさっきの説明通りだ。

さて7thである。じつは「7thシェルの特徴はこう」というのはなかなか言いにくい。3rdと7thの詳細度数の組み合わせによってだいぶ違うからだ。細かい解説はここではしないが、マイナーセブンスコードにおける7thシェルは、形質としては比較的オーソドックスな印象を持っている。ちょっとした濁り感はあるが、ささやかな雑味といった感じだ。3和音のストレートな感じをちょっとひねるような働きがある。マイナーコードにおいてはその悲愴感を少し緩和してくれるような感じだ。

流れをもう一度おさらいすると、3rd(マイナーの強調)→5th(無色)→7th(マイナーの緩和)という作りになっている。音形として上行しながら、マイナー感がだんだん晴れていくという、2小節の中で起こるメロディの展開としては実にダイナミックだ。

偏見かもしれないが、この手の親しみを喚起したい曲でメロディとして7thシェルをこんなに積極的に取るのは珍しいのではないだろうか。フレーズの最後で2分音符の伸ばしというのはかなり強調されていると言っていいだろう。


続いて5, 6小節目。

『呼び込み君』メロディ5, 6小節目(コード内ディグリー付き)

先程の3小節目とほぼ同じものが違うコードで使われている形だ。コードが違うので同じメロディでもシェルが変わる。

ちなみに、構成としても3小節目のものが5, 6小節目で繰り返されるというのはなかなかおもしろい。4小節目と5小節目の間がぶつっと切れてしまわず、ちょっとしたのりしろのような働きで、フレーズの流れを生み出していると言える。

さてシェルについてだが、まず5thシェルが連打され7thにのぼる、という形だ。5thシェルはこれまで何度も登場したとおり。

今度はメジャーコードにおける7th、詳細度数で言えば長7度である。長7度は、転回すると半音で隣り合った関係にある度数だ。一般的ににごり感は強い。しかし、メジャーセブンスコードは、音を下から積んでいった場合、1, 3, 5度でメジャーの3和音、3, 5, 7でマイナーの3和音が形成されており、意外と整った印象を受けるはずだ。ただ、普通の3和音に比べれば、濁りが足されることでストレートにただ明るいだけでなく、少し大人びたような何かしら情緒を感じるようなサウンドになっている。そういった形質を与える音を用いた7thシェルが、ここでは小説の各後半2拍に渡って伸ばされている。先程の7thの伸ばしといい、そこそこ印象的だ。


これで最後、7, 8小節目だ。

『呼び込み君』メロディ7, 8小節目(コード内ディグリー付き)

ここも5thシェルの連打から始まる。やはり曲を通して、5thシェルは『呼び込み君』の重要な形質である「高揚感」を形作るための「キーシェル」であると言える。

残りの部分は、先述の通りアンチモチーフ的な位置づけで、あまりシェルに役割をもたせていないと思われる。敢えて分析するならシェルによってメロディがまとう形質ではなく、メロディ使用音がハーモニーにどういう影響を与えているか、くらいかな。ここのコードはドミナントセブンスであり、緊張感から次のトニックに解決することが何より肝要である。意外なことに、伴奏のブラスはここでセブンスを出していない(聞き漏らしかもしれないが)。この8小節目の2音目がかろうじて7thの響きなのだ。続く6thは、ドミナントセブンスコードにおいては13thとしていい感じのテンションとして頻出だ。ここの8小節目の4音は、跳躍なしに下降しているだけだが、全てコードトーンとしてナチュラルなもののセットになっているわけだ。

その他

さて、ここまでメロディについてだけだが、割と丁寧に解析してきたおかげで他に言うことがあまりなくなってしまった。その他でまとめてちょっと気になったところだけ拾っておこう。

ベース

編成のところで書いたとおり、音色はウッドベースである。個人的にはこれはチューバとかスーザフォンみたいな音色でも良かったんじゃないかなという気がしている。マーチとかちんどん屋っぽくなる。

基本ラインは、コードの1度5度を4分音符で繰り返すという、マーチの基本形である。コードが切り替わる直前にちょっとしたフィルインのような感じで、8分音符で動いたり跳ねたりしている。構成の項を見てもらえば分かるが、ベースだけ繰り返しにおけるちょっとした演奏の変化が無いのだ。これも謎。遊ぶ余地はあるのに。

ブラス

8分裏打ち。ベースと合わせてマーチの王道のアレンジだ。特にコメントはない。あ、音域が若干高めなのは、特徴的かもしれない。切迫感がある。

ドラム

スネアとキックのみ。シンプルで良いと思う。シンバルがあっても良かったかもしれない。





エンディング

最後にエンディングについても触れておこう。この曲のエンディングは、冒頭2小節のモチーフを繰り返し、トニックの伸ばしで突如終了する。急に終わった感が半端ない。

『呼び込み君』はそもそもおそらく曲としてのエンディングが欲しいわけではない。それでもエンディングを拵えなければならないのは、再生機の制約による都合であろう。音楽としては永久に切れ目なく続いていればそれにこしたことはないのだが、ループの繋ぎ目部分をうまく扱って再生させるような仕組みはおそらくハードウェアとして少々ハードルが上がる。

そもそもよく考えると音楽にとっては、エンディングのほうが特殊なのかもしれない。多くの曲にとって繰り返し構造を持っているのは当たり前で、それは何度繰り返しても不自然なことではない。わざわざエンディングを作り、わざわざ繰り返しを脱してそこに向かうという、不自然極まりないことをしているのは、なんのことはない演奏・出版上の制約に過ぎないわけだ。

「音楽は永久に続く」というコンセプトは実は結構古い。シュトラウスの『常動曲』は有名だ。

曲名の通り、永久に繰り返しができる作りになっており、「音楽の冗談」という副題がつけられている。実際の演奏ではどうするか。フェイドアウトする、指揮者が曲を急に止め聴衆に何かを言う、などいくつかパタンがあり、聴衆は指揮者が「如何にこの曲を終わらせるか」を楽しみに聞くという変わった趣なのである。アンコール向きの演目である。

さて、本記事を如何に終わらせるか。調べたところnoteは仕様上の文字数制限がなさそうなのだ。「サービスの制約で」という外部要因を言い訳に使えない。どうしよう。


と思ってこの「エンディング」という項目を書いたわけである。

それでは次回お楽しみに。

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