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そういうふうにできている さくらももこ


ちびまる子ちゃんの著者、さくらももこが妊娠、出産の経験を書いたエッセイ。妊婦の辛さがユーモラスに描かれていて、おもしろく読めると同時に勉強にもなる。わずかな心情の変化や生命を通じて考えられた哲学的な思考も興味深かった。

妊娠3〜4ヶ月は極限的に憂鬱な気持ちになるらしい。さくらももこは厭世感と表現している。「諦めて潔く、厭世感の前に全面降伏するより方法はない」と言っている通り、ホルモンバランスの影響でどうにも全てが嫌になる時期があるようだ。たださくらももこ自身、内部で処理をしており周りからはケロッとしていると思われていたようである。こういう妊婦もいるということを覚えておこうと思う。

便秘 の章では便とのフン闘劇をユーモラスに描いている。「"もうひとふんばり"という形容を、この時ほど的確に使用した例は今まで無かった。」などの表現。笑 もちろん、食物繊維など食生活が妊婦にとってどれだけ重要かも教えてくれる。

帝王切開をすると3〜4日は食事できず、2週間程度は入院するらしい。ご飯を取れないのはもちろん辛く、マタニティブルーにもなりやすいらしい。という事実が、滑稽さと同時に書かれている。食事を再開していいかどうかの目安にオナラがあるらしい。オナラが出れば腸が戻ってきたと考えられるから。それを信じ、食事を取れるとアピールするために看護師さんの前で放屁したが、まだ早すぎるのでダメと言われて放屁が無駄になったエピソードは声を出して笑った。

全体を通じて、子への愛情がすぐには芽生えなかったというような趣旨のことが書かれていて何となく共感できた。愛がないわけではないが自分と子どもは別の人間で…というような事。寂しい人間だという訳ではなくてそういう考えの人もいるんだと思う。おそらく自分もそういう人なので、何となく安心した。

最後に
「体験してみるという事は実に大切な事だと改めて思う。例えば愛情に関して言えば、初めは家族に対してだけだったものが、恋愛を経験すれば家族以外の人を愛することになり、家族への愛とは異なる質の愛を知ることができる。・・・。自分が豊かになった証拠である。そして子供が生まれると、家族に対する愛とも夫に対する愛ともまた違った愛を知ることができる。それにより更に沢山の事が見えてくるであろう。体験の有り難さとはそういうものだと思う。」

というのは素晴らしい文章だと思った。
それはそうだろうというような事だが、出産という実感が含まれていて重みを感じた。

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