令和5年度司法試験予備試験合格体験記(受験8回目)

0.はじめに

 こんばんは。ゴミです。
 私は、このたび令和5年司度法試験予備試験に予備試験受験8回目で合格しました。優秀な合格者の方が目立つ中で私のような底辺受験生が合格体験記を執筆するのは正直なところ憚られますが、私の合格までの道のりがどのようなかたちであれ誰かの役に立てばと思い本記事の投稿に踏み切ることにしました。
 本記事は、それほど有益な情報が含まれていないにもかかわらず約2万字と長大になっております。一応、「5.各科目の相性(得手不得手)と使用教材」「6.予備試験合格までの学習」では、初学者段階から予備試験合格に至るまでの道のりを思い出せる限り丁寧に記載しています。いずれもやはり長いですが、本記事の肝となる部分だと思っているのでそれだけでも読んでいただけると嬉しいです。
 私を反面教師として一人でも多くの司法試験予備試験受験生が一年でも早く合格されることを願ってやみません。           

1.略歴

 合格者の学歴などが気になる方もいるかと思いますので、公開可能な範囲で簡単に私のプロフィールを記載しておきます。
・公立の小中学校を卒業し偏差値50台後半の公立高校普通科(田舎なのでこれでも市内トップレベル)にギリギリの成績で進学。
・高校を卒業後、偏差値60ちょっとの国公立大学法学部(前期)に下位4割の成績で入学。
・大学の講義は出席必須のものを除いて殆ど出席せず、基本的には自習してなんとか単位を取得(GPAはたしか2前半)。
・部活(時期により週3~5、平日3時間休日3~7時間)とアルバイト(時期により週3~5、一日あたり5時間ちょっと)を行っており、いずれもない日は週に0~2日程度。
・大学をなんとか4年で卒業して民間企業に就職し、何度か転職をしながら法律と関係のある仕事だったりない仕事だったりを行い現在に至る。

2.学習期間と勉強時間

 予備試験の受験を決意しそれを意識した勉強を開始したのは学部1年の秋でしたが、法学部だったため一応学部1年の始めから法律には触れていました。現在は社会人6年目が終わろうとしているので、予備試験合格までの学習期間は9年半ということになります。タイトルにもあるように予備試験の受験回数は8回(学部3年~社会人6年目)です。ロースクールもある今の時代、学部1年の頃から勉強を始めこの歳になってようやく司法試験の受験資格を得たというのはおそらく稀有な存在ではないでしょうか。あるときは大学生受験生として、またあるときは社会人受験生として生活を送っているので、いずれの立場の気持ちも分かるといえばそうなのかもしれません。
 これまでに費やした勉強時間は記録がないため分かりませんが、ざっくり推計して4000~7000時間ぐらいだと思います。学部1年の頃から1日あたりの平均勉強時間は「自信はないけど1時間は多分ある。2時間は絶対ない」とかそのレベルでした。参考までに、昨年1月から記録したStudyplusによると昨年の勉強時間は550時間でした。おそらく学部生(特に学部1~2年)の頃はこれより少なかったはずです。
 このように勉強時間が少ないのは、学部1年の頃から勉強以外の活動に時間を割かざるを得なかったことも多少影響しています。ですが、なによりの原因は生来の怠惰な性格自分が合格する姿をイメージできずモチベーションにつなげられなかったことです。さすがに私でも口述の前は他の受験生と遜色ないだろう程度には勉強に時間を費やしましたが、仮にそれに等しいか少し及ばない程度の頑張りがあったのであればほぼ確実もう1年か2年早く受かっていたと断言できます。もし私が予備試験受験生の方から「合格するために一番重要なことは何ですか」と聞かれたら、間違いなく「とにかく時間とモチベーションを可能な限り確保すること」だと言います。

3.予備校やロースクールとの関わり

 予備校については、受験3回目と4回目の論文不合格後に伊藤塾の予備試験コンプリート論文答練を、6回目(たしか)と8回目の短答合格後に伊藤塾の全国公開論文模試を、8回目の論文合格後に伊藤塾の口述模試を受験しました。伊藤塾に限らずいわゆる入門講座や個別指導を受けるお金はなく、答練に関しても割引込みでの金額をボーナスでなんとか支払うといった感じでした。
 ロースクールへの進学は一切考えませんでした。同情を買うのが嫌なのであまり言いたくありませんが、私の実家はあまり裕福ではなく、
・学校は全て国公立限定
・大学進学のための転居は近隣の都道府県以外不可(目安2県隣)
・大学は必ず4年で卒業し社会人になること
・大学生になったらアルバイトをし可能な限り自分の生活費は自分で稼ぐこと
・社会人になったら自分の奨学金は自分で返済しつつ実家にもお金を入れること(継続中。一応言っておくと一人暮らしです)
といった条件の下で生活を送ることが言い渡されていました。
 人によっては厳しい条件と感じられるでしょうし、私自身自分の出自を疎んだことがないと言えば嘘になります。ですが、そうした条件下でしか生きられない以上受け入れないとしょうがないですし、実家が置かれた状況は子どもながら理解していたので反発することはありませんでした。もっと過酷な環境で素晴らしい功績を挙げている方もたくさんいるでしょうし。
 ちなみに、社会人になって何年かした頃、私の状況や業界のことをよく知る友人知人から「お金を貯めて夜間のロースクールにいってはどうか。奨学金などもある」などのアドバイスを貰いました。このとき私のことを考えてくれたことにありがたさを覚える一方で「もしかしたら世間一般の社会人が言う『お金がない』と私が言う『お金がない』の意味合いは全く違うのかもしれないな」とぼんやり考えていました。

4.予備試験の成績推移

 上述のとおり1回目の受験は学部3年の頃で、それから毎年受けたので受験回数は8回ということになります。初の短答合格は受験2回目(学部4年)、初の論文合格と口述合格は今年度の受験8回目(社会人6年目)です。
 成績の推移は下記のとおりです。
 1回目:短答落ち(短答受験者下位15%)
 2回目:論文落ち(論文受験者下位30%)
 3回目:論文落ち(論文受験者ほぼ真ん中)
 4回目:短答落ち(短答受験者上位30%)
 5回目:論文落ち(論文受験者ほぼ真ん中)
 6回目:論文落ち(論文受験者上位25%)
 7回目:論文落ち(論文受験者上位30%)
 8回目:最終合格(短答400位前後、論文80位台)

5.各科目の相性(得手不得手)と使用教材

 主観的な科目毎の相性と使用教材について書いていきます。使用教材については、使えるお金と時間が限られていた(そのわりに予備の受験料は死ぬほど払ってますが)ため次のような基本方針を持っていました。
 1)基本書、判例集、基礎レベルの問題集、論証集を各科目1種揃える
 2)論文過去問は答案例つきの問題集を購入するが、購入後の年度の過去問は法務省からダウンロードする
 3)苦手科目など特に必要性がある場合に限り学者の演習本を使用する、
 4)よほど大きな改正がない限り版落ちは気にしない(買い替える余裕がない)
 基本書については、著名な学者が書いたものというより判例・通説の立場を紹介する読みやすいものを選ぶようにしていました。私が学習を開始した当初は基本刑法がやっと世に出るなど今ほど分かりやすいものが多くなく、基本書選びについては書評を読み漁って結構な時間を掛けながら慎重に行っていた記憶があります。

〇全科目共通 ※労働法を除く。

・趣旨規範ハンドブック
 論証集です。使用し始めたのは学部2年の終わり頃からで、他の受験生もそうだと思いますが現在に至るまで何度読んだか分からないぐらい読んでいます。特に独学の私にとっては「出題範囲集」とも言うべき貴重な教材です。ただ、これの記載をそのまま覚えた論点というのはそう多くなく、大半は他の教材(予備校の答案例以外)の記載を書き足したりしていました。たとえば、規範の展開に至る前の問題提起や、中途半端に判例を要約しようとしたがゆえ論理が見えにくくなっている箇所の追記はたくさん行いました。
 なお、要件事実の部分は全く読んでいません。単純に大島本2冊で足りると思ったからです。

【余談:私の論証集の選び方】
 論証集というものは他にもいくつかあると思いますが、趣旨規範を選んだ理由は「丸暗記した問題提起と規範を吐き出すような答案にはしたくない」という学習開始当初の私のこだわりでした。当時の私は「『趣旨規範ハンドブック』というタイトルなら、趣旨を学んでそこからある程度自由に規範を紡ぐことができるんじゃないか」と考えていましたが、結局丸暗記しなきゃいけない部分はしなきゃしょうがないですし、学習にせよ本番にせよ時間と労力を節約できる部分は節約した方が他に割けてよい(むしろ他にこそ割くべき)と今になって思います。
 趣旨規範自体は良い本だと思いますし他の論証集は見たことがないので比較もできませんが、少なくとも私のような動機で趣旨規範を選択する方が目の前にいたら止めたくなります。

・判例百選
 判例集です。科目によってはもっと良い判例集があるかもしれませんが、とりあえずこれを選んでおけば間違いないだろうということもあり判例百選を使用していました。学部で購入させられたりしたのでどの科目もわりと早い段階から持っていましたが、初学者の頃は読みこなすのが難しく感じていたのでちゃんと読むようになったのは社会人になってからとかそんな感じです。
 使用頻度は科目によってかなり違いがありました。下記のとおり、公法系は高、刑法と両訴は中、民法と商法は低といったところです。予備校利用者を中心に百選不要論が唱えられるほどなので、著名な教材ではありますが必須かと言われると微妙かもしれません。
 憲法:事案の概要と判旨は何周も通読し、解説は判旨が薄い場合、解釈が難しい場合、見解の対立がある場合など必要に応じて目を通した。
 行政法:基本書通読の際に出てきた理解が難しい判例、過去問演習の際に出てきた参考判例について、事案の概要と判旨は必ず、解説は必要に応じてその基本書通読や過去問演習の都度目を通した。
 民法:総則~契約各論はあまり読んだ記憶がない。家族法はそもそも持ってない
 商法:会社法はあまり読んだ記憶がない。他はそもそも持ってない。
 民訴:行政法と同様。ただし使用頻度は行政法ほど高くなかった。
 刑法:総論は民訴と同様。各論はあまり読んだ記憶がない。
 刑訴:民訴と同様。

・LEC論文の森
 基礎レベルの問題集です。使用期間は学部2年の冬から学部3年の終わりだったか学部4年の途中だったかまでで、主要な論点の習得を目指したものの結果的には答案の型を身に着けた段階で旧司過去問(スタンダード100)に取って代えられることとなりました。一応起案めいたこともやっていた記憶がありますが、たしか最初はすぐ解答例を見てそれをそのまま書き写す写経のような感じで、その後一から起案したかどうかいまいち記憶が定かではありません。

【余談:論文の森という問題集について】
 当時基礎レベルの問題集としては他に辰已のえんしゅう本や伊藤塾の試験対策問題集(赤本)があったのですが、どこかで「論文の森が一番答案例がまし」という趣旨の感想を見かけてこれにした記憶があります。
 知らない方も多いと思うので簡単に内容を紹介すると、初期の予備試験のボリュームを意識したオリジナル問題(憲民刑50問、実務基礎10問、他25問)、解答のポイント、答案例、論点の解説、発展問題(旧司過去問)が載った基礎レベルの問題集です。内容的に充実しており悪い本ではないのですが、論証が若干厚すぎる傾向にある点、科目によってはややマイナーな論点を扱っている点で初学者からすると少しレベルが高いかもしれないなと今になって思います。何より、2011年刊行で改訂も一部を除きなされていないためそろそろ実用性が怪しくなってきています。今おすすめできるかと言われると残念ながら答えは否です(改訂されたらいいなとはひっそり思ってます)。

・スタンダード100+新しい年度の過去問
 論文過去問用の教材です。平成14~22年の旧司過去問を結構な回数、予備と司法の過去問を3~4回程度回しました。
 ある程度問題を解けるようになるまでの推移としては、①全く分からずすぐ答案例と他の教材を見る、②重要な論点の存在に気づけるようになる、③主要な論点の論証の内容をなんとなく思い出せるようになる、④論証の内容をある程度正確に思い出したしたうえで一応当てはめができるようになる、⑤頭の中で答案を書くレベルの答案構成ができるようになる、といった経過を辿りました。最初に旧司をやり込み予備と司法はある程度学習が進んだ段階(論証をだいたい覚えており使う事実もなんとなく分かるレベル)で本格的に取り組むようになったので、予備と司法に関しては最初から上記④~⑤のステップにはいました。これら①~⑤の過程に至る途中途中で論文の受験を含め他の学習も適宜行っているので、過去問から習得したというよりは学習の成果が過去問を通じて可視化されたと言ってもよいかもしれません。
 一応上記①から⑤で問題検討はできますが、私は論点をよく落とすタイプで問題検討ができるようになってもその点で苦労していました。これについては今でもあまり自信がありませんが、まずは論証を問題提起からきちんと理解したうえで、繰り返し問題演習をする中でなぜ落としたのかを自分なりに分析して原因を潰すよう努めるしかないのかなという気はしています。
 基本的に起案はしませんでしたが、実際に答案を書くレベルで頭の中で答案構成をしたため1問あたりにはそれなりの時間を費やしていました。答案構成をする、答案例を見る、基本書などの該当箇所を必要に応じて読む、というのを1セットにして、だいたい旧司と予備なら30分から1時間程度、司法なら45分から2時間程度掛かります。旧司は1年度につき大問が2問あるため、全科目の平成14~22年度の旧司過去問を1周するだけでも相当時間が掛かかりました。
 オリジナル問題はおまけ程度で考えていましたが、民法に関してはたしか全問簡単な答案構成を行い、行政法に関しては旧司代わりに都庁の過去問に触れた気がしないでもないのでなんやかんやお世話にはなっています。やり切るのは大変ですが網羅性は抜群なので基礎レベルの問題集としても普通に使えると思います(旧司か予備か忘れましたがこれをやり込んでいた上位合格者や独学合格者がいたはずです)。

【余談:出題範囲が無限に思えた当時の自分へ】
 独学の私がぶつかった最初の壁として、「試験範囲はどこからどこまでなのか」「膨大な試験範囲をどうやってカバーすればいいのか」「論証集に乗っていない論点をどうやって押さえればいいのか」といった試験範囲に関する数々の疑問がありました。予備校の入門講座などであれば必要十分な情報量が含まれていたり重要度のランクづけがされていたりでなんとなく分かるかもしれませんが、基本書の大半は当然ながらそのようになっていません。加えて、旧司過去問をやり始めた頃に出てきた論点を趣旨規範で確認したところ載っていないということが時々あり、答案例を見て「一体どうやったらこんな規範を立てられるんだ」と途方に暮れたことも数えきれないほどありました。
 予備試験に合格して思うことは、「試験範囲がどの範囲であろうが、結局合格者を含む受験生が知っているのは限られた範囲(たとえば過去問で繰り返し出題された条文や論点、誰の基本書でもページ数を割いて説明されている事項、どの判例集にも乗っているような判例、論証集で重要マークがついている箇所など)に過ぎない。その範囲を外れた問題については、(時には結論ありきで)既存の知識をなんとかこねくり回して『それっぽく見える解答』をつくっているだけ」ということです。少なくも過去問や論証集などをはじめとするメジャーな教材を中心に勉強していれば、相対評価の予備試験において知識の範囲という点で自分だけビハインドを食らうことは殆ど考えられません。また、試験で出される論点をあらかじめ網羅しておくのは不可能(試験委員も求めていない)であり、未知の論点と対峙したときに適切な解答を簡単に行えないのはみんな同じです。予備試験で大きく差がつくのは「みんなが知らないことをどれだけ知っているか」ではなく「みんな見たことあることをどれだけきちんと習得しているか」なので、メジャーな教材を使用している限り出題範囲について過度に怖がる必要はないと当時の自分に伝えたいです。

・LEC短答過去問集
 短答過去問です。数ある過去問集からこれを選んだのは「価格が一番安いから」という単純な理由です。(それでも7法揃えるのは貧乏大学生にとってえらい出費でした)。初めて短答に合格した受験2回目の1月から現在まで使い続けています。短答はそれほど苦労せず合格に至ったこともあり、基本的には短答前の2~3か月間だけ使っていました。
 短答過去問は当然ながら毎年新しい問題が追加されていきますが、私はここ1~2年で民法と商法を買い替えた以外は全て2017年当時に買ったものを使い続けています。また、2017年以降の過去問は本番以外で解いていません。「書籍代や印刷代を出すのをためらうから」という理由によるものですが、特にここ数年は過去問以外の教材もそれなりに使って短答対策をしていたのであまり支障はありませんでした(ただし受験4回目はシンプルに過去問学習の手を抜いて落ちました)。
・予備試験A答案再現&ぶんせき本
 受験生の再現答案が載っている本です。予備試験の情報収集を始めて早いうちから「予備試験の論文は全科目Cで揃えれば受かる」という情報を目にしていたため、答案の型やA答案とC答案のレベルを見る目的で比較的早期に学習に取り入れていました。自分が論文を受けて以降毎年買っていたので今家には平成29年~令和4年までの6年度分があります。
 最初のうちは、過去問を解かず適当な年度の適当な科目の答案を読むという使い方をしていました。特に、憲法の答案の型についてはこれで下地を作った記憶があります。答案にはコメントがついていますが、最初こそ真に受けていたものの最近はもはや読まなくなりました。答案の評価を踏まえたうえで理屈づけた結果論なんじゃないかという疑いが拭えません。

〇憲法

成績推移:D→A→E→B→F→A
(科目に対する印象)
 憲法は好きか嫌いかで言えば好きな科目なのですが、高評価のイメージがつきにくく向き合い方が難しい科目だと今でも感じます。学習の要は百選で、判例をきちんと学んでから博打感は薄まった印象です。
 論文の成績はかなりばらつきがあり、厚く書いたところが出題趣旨に沿っていれば高評価、そうでなければ低評価というのが綺麗に表れています。去年については最初に成績を見たとき予想外の低評価で驚きましたが、あとあと考えてみると審査基準の選択の場面を厚く書いてしまい適用の場面(いわゆる当てはめ)がペラペラだったのでそれがきっと原因です。
(使用教材と使い方)
・芦部憲法
 基本書です。主に学習初期に通読しました。直近数年は気になった個所をつまみ読みする程度であまり使っていません。学部時代に購入した基本書ということで版を替えつつずっと使用していますが、今だと憲法学読本など他に話題の基本書があるのでそちらの方がおすすめかもしれません。

〇行政法

成績推移:F→F→C→C→F→A
(科目に対する印象)
 行政法は苦手意識が強く、長らく「論証は覚えているのにいまいち問題が解けない」ということで頭を抱えていました。そうした意識もあり、他の科目で使用した教材に加え学者が書いた演習書の類も2つ使用した唯一の科目です。司法過去問や事例研究行政法を含めた問題演習の繰り返しによってそれなりに慣れてきた感はあります。
 成績は上記のとおり相当ばらつきがありますが、タイムマネジメントが上手くいったときは高評価、そうでなければ低評価という感じだったと思います。要は設問2の本案の違法性をしっかり書けたかどうかといったところでしょうか。
(使用教材と使い方)
・基本行政法
 基本書です。学習開始初期から現在に至るまで、他の科目と比べて特に多く通読した印象があります。
・行政法仕組み解釈の基礎
 演習書です。使い始めたのは結構遅く、ここ3年とかその辺だった気がします。
 問題演習というより問題(特に各種行政関係法令)のアプローチの手引きという側面が強いかと思います。「初見の法令に含まれる複雑な各条項がそれぞれ何を意味するのか」を読み解くための頭をつくるうえで参考になりました。苦手ということもあって最初は難しく感じ、2度3度と読むうちに良さが分かり始めました。「行政法が得意な人からすると本書で解説されている視線の動かし方は自然と身につくものかもしれないな」と思いながら読んでいた記憶があります。
・事例研究行政法
 演習書です。これを使い始めたのは本当に最近で、今年度の論文までに満足に回せないまま本番を迎えてしまったことが心残りでした。たしか通読したのは2回とかですが、それでも十二分に良さを感じており司法の対策でもしっかり読み込みたいと思っている一冊です。
 ちなみに私が使っているのは版落ちしており、最新版と異なり1~3部構成になっているものです。3部は司法に近く難しいようなので未着手です。

〇民法

成績推移:EかF→C→F→E→C→A
(科目に対する印象)
 民法は一番最初に触れた法律科目にして一番苦手意識が強かったのですが、今では得意でも苦手でもないと言えるぐらいになった苦手克服科目のような位置づけです。苦手だった頃は本当に苦手の極みで、「94条2項と177条が問題になる場面の区別がつかない」「連帯債務と保証債務と連帯保証は全部同じ」「問題で3人以上出てきて土地や登記を転がし始めたら脳が理解を拒絶する」とかそのレベルでした。ですが、
◎旧司過去問などを通じてどのような場面でどのような請求権を行使できるかを意識するようになったこと
◎民事訴訟法や要件事実を学んで訴訟における攻撃防御のイメージが湧くようになったこと
◎学習の中で基本的な条文や概念に繰り返し触れたこと
といった学習成果が相乗効果を生み、現在では刑法の罪責検討のようにある程度確立した検討手順に沿って問題検討ができるようになりました。
 論文の成績は問題の相性が良いときでC、そうでない限りEかFという感じでしたが、今年は問題との相性の良さをそれほど感じなかったもののAでした。
(使用教材)
・有斐閣Sシリーズ ※家族法以外
 基本書です。刊行年が古いこともあって結構マイナーではないかと思いますが、民法総則の講義で買わされたのがこれだったのでこれを使っていました。学習初期こそ2回は通読したはずですが、問題演習にシフトしてからは論点の多さも手伝って論証集を開くことの方が遥かに多く、かつ後述の民法(全)を購入したこともあり使用頻度はごく限られたものとなりました。
・リークエ家族法
 なんでだったか家族法だけはちゃんと書評を見て有斐閣Sではなくこちらにしました。リークエということもあり読みやすく良い本だとは思いますが、やはり家族法以外と同じくご無沙汰になり気味です。
・民法(全)
 基本書その2です。令和2年に債権法改正があり、それまで改正法から逃げ回っていた私もさすがに改正法について記載された基本書を買おうとこれを手に取りました。使っているのは少し前の版で、購入したのは令和元年か2年かそこらでした。短答対策や基本事項の確認で2~3回通読しました。著者である潮見先生のご逝去が本当に惜しまれます。

〇商法

成績推移:F→F→B→F→F→A
(科目に対する印象)
 行政法と並ぶ苦手科目の一つです。商法というかもはや会社法ですが、条文は読めないわ制度のイメージは湧きにくいわで最も拒否反応がありました。この科目も行政法と同じく学者の演習書を使用しています。
 社会人になって株式会社の従業員となっても相変わらず親近感は湧きませんでしたが、苦行だと思いつつもとことん条文と向き合ったことで解像度はそれなりに高まってきたと感じます。個人的には、法律学習の基本たる「条文と向き合う」ということをきちんとしているかどうかで最も差がつく科目だと思っています。
 論文の成績はご覧のとおりFだらけで、論文3回目のBは旧司に近い問題が出て頑張って条文探して書いたら浮いたみたいな感じだった気がします。今年は典型論点が多いように思えて相対的に浮くことはないだろうと思っていましたが、結果としては全く予想外のAということで嬉しい誤算でした。
(使用教材)
・リークエ会社法
 会社法の基本書です。今だといわゆる紅白本をよく聞きますが、昔から使っていて特に不満もないので私はずっとこれです。
 会社法は私の中で基本書が特に重要な役割を果たした科目で、学習開始から現在に至るまでたびたび通読していました。特に昨年の年末年始休暇は「リークエ会社法を通読しながら出てきた条文は全て六法で引く」という(ある種当たり前の)勉強に始めて本気で取り組み、それによって短答過去問や論証から得たバラバラの知識が一つになった気がしました。
・ロープラ商法(主に会社法)
 判例を題材にした問題で構成されるロープラの中でも特に評判が良いものの一つということで、8回目の1月頃に1周だけしました(起案はせず答案構成して読むだけ)。先述したリークエ会社法通読の直後に読んだこともありますが、取り組みやすく良い演習書だった印象です。

〇民事訴訟法

成績推移:A→D→F→C→B→B
(科目に対する印象)
 民事訴訟法に抵抗を示す受験生は少なくない印象ですが、私はそういったことがあまりなくむしろ結構好きでした。ただ、複数訴訟だけは苦手意識がありそこの学習は少し多めに時間を割きました。既判力などで躓いた記憶がないのであまり参考にならないかもしれません。
 論文の成績は1回目がAと華々しかったのですが、以降は今一つで悔しさが残りました。Fの年は複数訴訟で全く書けなかった記憶があります。
(使用教材)
・和田民訴
 基本書です。私が民訴に苦手意識を持たなかった理由の一つはこれだと断言できるぐらい読みやすい良書だと個人的には思います。好きな科目だったこともあって通読も比較的多くしており、特に複数訴訟については知識の整理がてら論文の直前期によく読んでいました。

〇刑法

成績推移:C→D→C→A→A→C
(科目に対する印象)
 刑法はちょうど予備試験の受験を決意した頃に学習を開始したのですが、苦手意識のある民法に触れたあとということもあり非常に学習しやすかった思い出があります。今年度の論文の評価を知るまでは民訴と並ぶかそれ以上の得意科目(主観)でした。
 論文の成績は並べてみると意外と微妙でした。昨年一昨年とAだったので今年度もAで締めたかった(手応えもさほど悪くなかった)のですが、携帯電話のGPSの使用を雑に扱ったのが響いてかまさかの今年度最低評価となってしまいました。司法でリベンジしたいです。
(使用教材)
・基本刑法
 基本書です。たしかちょうど私が大学に入った頃に「分かりやすい刑法の教科書」として評判で、評判どおりと感じたこともあり和田民訴と同じく何度も通読しました。学習初期から愛読していましたが特に口述対策では本当にお世話になりました。

〇刑事訴訟法

成績推移:F→D→E→D→C→A
(科目に対する印象)
 刑事訴訟法は7法の中で一番最後に学習を始めた科目で、時期としては学部2年の冬だったので学習期間は最も浅いです。
 刑法を学んだ時点で刑事系が好きだと確信しており、案の定刑事訴訟法も非常に親しみやすい科目の一つとして取り組んでいました。ですが、実は最初に手に取った酒巻刑訴が私にとって難しく、7回目の論文の合格発表後に基本刑訴に乗り換えています。結果的には正解でしたが時期的にはチャレンジングだったと振り返って思います。
 論文の成績は相対的に書き負けたり苦手分野(訴因変更など)で苦しめられたりと振るいませんでしたが、今年は念願のAが取れたので満足です。
(使用教材)
・酒巻刑訴
 基本書です。ちょうど私が刑訴の学習を開始する頃に刊行され、刊行前から話題だったこともあって刊行後すぐに買った数少ない基本書です。ただ当時の私にそれを読みこなす力はなく、他の科目の勉強で刑訴の優先順位が次第に下がったのもあって今は本棚の奥に眠っています。
・基本刑訴
 基本書その2です。そもそも刑訴は学習時間の少なさに加えて百選を参照することが多く、基本書に関してさほど重要性を感じていませんでした。ところが、7回目の論文の合格発表後に刑事実務基礎の教材を兼ねて購入したところ、論点理解編の分かりやすさに感動を覚えて酒巻刑訴の地位を奪うかたちとなりました。
 正直、刑訴は過去問と基本刑訴さえあれば司法試験に通用する力を身に着けるのに十分じゃないかと思っています。

〇法律実務基礎

成績推移:F→F→B→B→A→B
(科目に対する印象)
  私が実務基礎の対策を開始したのは受験3回目の論文の合格発表後とかそのあたりで、更に言うと本格的な対策をしたのはここ2年ぐらいの話です。論文前の応急処置的な対策に使った教材も多い都合上、主力となる教材以外はその他として簡単に紹介するにとどめます。
 論文の成績は、1回目と2回目がF、3回目以降はB以上と何気に最も安定しています。ただ3~4回目と今回とでは明らかに今回の方が答案の出来が良く、感覚的に受験生(特に上位層)のレベルがかなり上がっている気がします。昔と違って狙い目の科目と言えなくなってきているのではないでしょうか。
 なお、以下で紹介するのは論文合格までを意識した教材です。口述はこれに加えて民法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法の教材を併用しました。
(使用教材)
・大島本(民事裁判実務の基礎)
 民事実務基礎の基本書?です。口述はもちろん論文対策としても要件事実の項は繰り返し通読しましたが、他の項(たとえば二段の推定のあたりや保全執行など)もなんやかんや4~5回は通読していたように思います。
 いろいろ種類がありますが私が使用しているのは入門編と発展編です。もともと入門編のみ使っていたのですが、いつだったかの論文で請負と遅延損害金の要件事実が出て冷や汗をかいたので発展編も使い始めた記憶があります。どのみち口述対策として両方使用することになるので良かったのかなとは思います。他の大島本については、口述前に買い替える余裕がなかったこともあって何が違うのかよく分かりません。とりあえず入門的なものと発展的なもので2冊持っておけば差がつくことはないんじゃないかなと推測します。
 注意点としては、明らかに誤記だと思われる個所があるので内容を鵜呑みにするとやけどする可能性があるということです。ただ、誤記と分かるものについては文脈やそれまでの解説などから判断がつくでしょうし、逆に分からないものについては受験生のシェアが高い分みんな同じ間違いをすると思うのでさほど神経質にならなくてもいいかもしれません。
・刑事実務基礎の定石
 刑事実務基礎の基本書?です。学習に取り入れたのは結構最近で、これで対策をして受けた論文は今年度だけかせいぜい直近2回だったと思います(記憶力が悪く申し訳ありません)。
 そもそも刑事実務基礎は「刑法や刑事訴訟法の勉強と重なる」と言われることが多く、私も長らくどう対策したらよいかよく分かりませんでした。とりあえず、事実認定と呼ばれる分野(犯人性や勾留の要件該当性など)や刑事訴訟法の勉強で手が回りにくい箇所(時間軸に沿った捜査・公判の流れや公判前整理手続の細かな要件など)はこれで学習し、あとは普通に刑事訴訟法の勉強をしておけば他の受験生に遅れを取ることはあまりないんじゃないかなと思います。
・その他
 上記の教材を取り入れたのはいずれも最近で、それまでは民事実務基礎の教材として岡口判事の要件事実入門を、刑事実務基礎(刑事手続の流れ)の教材として三井先生と酒巻先生の入門刑事手続法を、両方の対策になるものとして民事裁判実務の基礎/刑事裁判実務の基礎を使っていました。
 3~4年前は一応これらの教材でBを取れたのですが、今の受験生のレベルからすると要件事実や事実認定(特に前者)で出題されうる範囲をカバーできずかなり不利になってしまうと思います。大島本や定石は口述対策だと必須レベルの教材(本当にみんな使ってる)なので早いうちからそれらを使っておく方が吉です。いずれも文章自体は読みやすいと思うので、民法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法の学習がある程度進んでいれば(論文ごりごり解けるレベルじゃなくても)それほど読むのに苦労しないはずです。

〇労働法(選択科目)

成績推移:F→B
(科目に対する印象)
 選択科目には様々なものがあるためどれにするか悩むところですが、私は将来的に労働分野を扱える弁護士になりたいと思っていたので自然と労働法を選ぶこととなりました。
 労働法は民法の特別法に位置づけられるものであり、正直なところ私にとってはどちらかというと苦手に属する科目でした。一方で将来扱うというモチベーションから得意になりたい気持ちがあり、対策に関しては他の法律科目と遜色ないレベルにしようという思いのもと行ってきたつもりです。
 論文の成績は昨年度がF、今年度がBで、いずれも答案の内容からして妥当かなというところです。飽くまで私の一意見ですが、「選択科目だからレベルが低い」「覚える量が多いからマイナーな論証まで手が回らない」という言説は、少なくとも論文受験者の平均以上の層についてはあまり当てはまらないように感じます。なお、論文1~4回目にあった一般教養は本当に点数の取り方が分からずずっとFでした。
(使用教材)
・水町労働法
 基本書です。労働法の勉強は選択科目が導入される年の1年前か2年前から行っており、主に通勤時間を利用して(家では論証暗記と過去問に努めていました)4回程度通読しました。たしか、最初に2回ざっと通読し、そのあと論証と過去問を1周(論証は2周だったかもしれません)したあと1回通読するみたいな感じだったと思います。
・辰已1冊だけで労働法
 論証集兼過去問です。労働法の学習は基本的に論証と過去問の繰り返しで、合間で基本書と判例集を挟むといった感じでした。使い方は趣旨規範およびスタンダード100と同じです。
・重要判例200
 労働法に関しては、1個1個の判例のボリュームが薄くとも多くの判例に触れておいた方がよいと思い百選ではなくこちらを使用していました。
 使い方としては、過去問で出てきた判例の該当ページに目を通したほか、適宜類似の論点に関する判例にも目を通していました。大内先生の解説込みで1判例1ページに収まっているので、複数の判例に目を通しても時間はさほど食わず横断的な学習はしやすいのではないかと思います。ただ編集の都合でどうしても割愛せざるを得ない記述(特に判旨)があったのではないかと推測されるので、百選とこちらのどちらが良いかは実際に読んでみて比較した方がいいかもしれません。

【余談:労働法という科目】
 私は各選択科目の特性などをきちんと比較して選択したわけではないので、選択科目の選び方に関して参考になる情報を伝えることはできません。せめてというわけではないですが、労働法がどのような科目なのかという点について私の印象を書きたいと思います。
 まず、労働法は民法の特別法に位置づけられますが、部分的に公法系や刑事系のような一面も見られる点で民法とまた違った色を持つように思います。たとえば、法令、契約、就業規則や労働協約といった各種ルールの関係性について学ぶのは行政法と似ていますし、懲戒処分の種別や内容を就業規則に定めておくべきものとされているのは罪刑法定主義的で刑法と似ています。また、労使の力関係の差から労働者の保護が志向されるのは言わずもがな民法が想定する対等とは少し異なります。私は民法に苦手意識があったため労働法も苦手なのではないかと少し懸念していましたが、科目として似ているかと言われるとそういうわけじゃないんじゃないかなと感じます。
 それとよく話題に上がる暗記の量についてですが、私自身他の選択科目で覚えるべき事項の多寡を知っているわけではないので正直なところそれについてはコメントできません。一応フォローしておくと、労働法で学ぶ内容というのは働く中で遭遇したり疑問に思ったりする問題に関するものが多く、何らかのかたちで雇用されている方にとっては身近で勉強中も仕事中もリンクして考えやすいのではないかと思います。自然と反復学習の機会にも恵まれるので、それによって結果的に暗記の労力は少し軽減されるのではないでしょうか。

6.予備試験合格までの学習

(1)学習開始~短答合格まで

時期:学習1年目(学部1年)~学習4年目(学部4年)
 一応法学部に在籍していたので、学習を開始した学部1年秋の時点のステータスとして
・法的三段論法が何なのかなんとなく分かる
・罪刑法定主義レベルの基礎的な概念や民法総則の著名な論点ぐらいは聞いたことがある
といった程度の知識は備えていました。金銭的に予備校やロースクールの利用が不可能なことは早い段階で悟ったので、「さほど勉強ができないのに独学」という最悪のルートを辿らざるを得ませんでした(以下では何度か「独学」という言葉が登場しますが、「予備校の入門講座や答案添削などの個別指導を利用しないこと」と理解ください)。
 まずはインターネットで情報収集を行い、「インプットではなくアウトプット中心の勉強をする」「過去問をきちんとやる」「基本書や百選は読み込まない(予備校利用者はなんならそうした教材自体が不要)」といったポイントを掴みました。その当否は人や状況により異なると思いますが、とりあえずトライする方向性としては今でも間違ってないのかなと思っています。
 情報収集をひととおり終えたあとは、定期的に合格者のブログやTwitterを読み漁りつつ学習を進めていきました。といっても学習のペースは亀の歩みで、7法全ての基本書を1周し終える頃には学部2年の冬になっていました。正直法律の学習がそれほど面白いものとは思えず、1日1時間でも勉強できればいい方、読みながら眠ってしまうことも時々ありました。
 ちなみに、その約1年前である学部1年の1月に予備試験の出願をしようとして結局断念しています。あのとき出願していれば合格がもう1年早かったかもしれないと今でも少し後悔しています。
 基本書の通読の1周目を終えた学部2年の終わりから、答案の型の習得を主な目的として論文の森を使った問題演習に着手しました。たしかはじめて書いた答案は民法の錯誤だったか詐欺だったかの問題だったのですが、現行の予備試験よりやや少ない程度の分量が想定されているにもかかわらず、私に書けたのはせいぜい条文といくつかの事実を丸写ししたルーズリーフ4~5行程度の分量でした。それからは殆ど答案例の写経に近いことをして論文の森(基本問題のみ)を1~2周しました。こうした写経と並行して、大学の書店でぶんせき本に載った答案を数通立ち読み(たくさんお金を落としたので許してください)したり、趣旨規範を購入して論文の森で出てきた論点の確認、追記を行ったりしました。また、学部3年の5月に初の予備試験を経験しました。直前に前年度の過去問を解いたところ刑法が20点弱、他が10点前後で、本番は法律科目80点ちょっと、一般教養20点ちょっとで計100点ちょっとでした。どうでもいいですが、緊張による不眠で全く頭が回らず、唯一期待していた刑法は10点もなかった記憶があります。
 学部3年の12月頃までに大半の科目で論文の森の写経を終え、年明けかその少し後から短答過去問での短答対策を開始しました。初回の正答率は公法系が4割程度、他が5割程度で、正解したものも「なんか正答率と選択肢からそれっぽいと思った」という始末でした。そこから間違えた問題を中心に2~3周し、最終的に過去問の正答率を8~9割にして本番に臨みました。他の教材は時間がなかったのでやっておらず、なんなら六法を引いていたかどうかすらうろ覚えです。そんなこんなで本番を迎え、法律科目132点、一般教養36点の合計168点で学部4年時に1回目の短答合格を果たしました。
 ちなみに、この年の1月頃から勉強と並行して就職活動を行っていました。幸い4月末に内定を貰うことができたため、先行途中だった数社を辞退して勉強に専念しました。一応私なりに「やらなきゃ」という危機感はあり、直前期で完全オフの日は6時間程度は勉強していました。

【余談:予備試験と独学について】
 今でこそ独学合格者をよく見かけるようになりましたが、私が学習を開始した平成26年当時は実施4回目の予備試験の合格者が出るかでないかという頃で、予備試験合格者、中でも独学合格者はごく限られていた記憶があります。今は分かりませんが、少なくとも当時Googleで「予備試験 独学」と検索しても「茨の道」「ほぼ不可能」といった文字を見た記憶しかありません。ただ、初期の予備試験は出題形式が今よりももっと後期の旧司法試験に近かったため、旧司法試験の独学合格者のブログなども有力な情報源の一つでした。
 今では独学合格者の情報発信も増えていますし、当時と違って有用な独習用教材も数多く出ているので以前より独学はやりやすくなったのではないかと感じます。少なくとも私はその恩恵を受けた一人です。とはいえ、「隣の芝生は青く見える」ではないですがやはり予備校を利用できるのであれば最大限利用した方がよいとは今でも強く思います。

(2)短答合格~論文不合格5回目まで

時期:学習4年目(学部4年)~学習9年目(社会人5年目)
 1回目の短答合格時はちょうどボーダーで付近で受かっている自信がなく、遊び惚けていた生活から一転、合格発表後があった6月頭から焦って論文対策をすることになりました。何をしていたか思い出せませんが、多分趣旨規範で7法の論証を頭に叩き込んでいたんじゃないかと思います。この年だけ成績通知が見当たらなかったのでうろ覚えですが、本番はたまたま書ける論点だった民訴がA、答案の形だけそれっぽい感じにした憲法と刑法がCかD、あとは全てFとかそんな感じで約1500位(当時の論文受験者は2200人ぐらいだったので下位30%ぐらい)でした。最初の科目である憲法を書くときに緊張で手が震えたのが懐かしいです。
 論文後はとにかく遊び倒し、その後は数年間にわたって「論文の合格発表後からゆるゆる旧司過去問を解き、短答の2か月前ぐらい前から短答過去問を、短答後から趣旨規範を回してとりあえず本番に臨むだけ」という長い暗黒期を過ごすことになります。1年のうち3~4か月(下手したら短答の2か月程度前まで)は1秒も勉強せず過ごし、試験の2~3か月前にとりあえず勉強するといった感じで、勉強時間は均して1日2時間もなかったと思います。受験4回目で短答落ちしたときは完全に心が折れかけ、勉強のことを一切顧みずちょっとした興味で多忙な仕事に転職したりしました。受験2回目と3回目の論文後は伊藤塾のコンプリート論文答練を受けていましたが、成績上位者になることもあれば一桁点を取ることもあり成績はおおむね平均でした。モチベーションが維持が第一の目的だったのと採点者の添削に懐疑的だったことから、解説もまじめに見なければ答案に書かれるコメントもあまり読んでいませんでした。
 このように酷い体たらくではありましたが、気持ちを持ち直して受験5回目で約1100位、受験6回目で約650位と順位は上がっていきました。この頃から「もしかしたら独学の俺でも受かるんじゃないか」と思い始め、論文後に軽く実務基礎や選択科目の勉強をしたり論文の合格発表後すぐに真面目に勉強するようになったりと徐々に勉強時間は増えていきました。それでも生粋の怠惰さはそう簡単に変わらず、平日は1~2時間、休日は3~4時間といったところでした。
 受験6回目となるとさすがに旧司過去問や論証の周回数もそれなりになってきて、予備、司法と取り組む過去問の範囲を広げていきました。同時に、同じような勉強をしてきたにもかかわらず科目毎の評価の差が如実に表れてきたことから、各科目の特性や自身の状況、相性などを踏まえた科目別の対策について考えるようになりました。たとえば、憲法で百選を学習の中心に置く、行政法で基本書通読の比重を高めつつ学者の演習書に手を出す、民法でこれまで解いてこなかったスタンダード100の問題を解いてみるなどしたのはたしかこの頃です。
 上記の改善策を進める中で迎えた受験7回目でしたが、結果は期待を他所に不合格、返ってきた成績に記載されていた順位は昨年より低いものでした。成績はC以上が5つ(実務基礎含む)、Fが4つで、前年度よりもFの数が増えていました。Fだった理由はすぐに見当がついたのでまだ良かったのですが、やはり成績表が突きつける「後退」の事実はかなり堪えました。このときから「結果が出ない努力はしても意味がないし、結果を出していない人間の言うことは全て負け犬の遠吠えだ」と自分に強く言い聞かせ、多少自分のからだに鞭打ってでも勉強に励むようになりました。

(3)論文不合格5回目~論文合格まで

時期:学習9年目(社会人5年目)~学習10年目(社会人6年目)
 受験7回目の論文の合格発表後は司法の過去問にも本格的に取り組むようになり、その中で行政法の事例研究行政法による問題演習、商法のリークエ会社法通読&条文全引き、刑訴の基本書乗り換えなどを進めていきました。答案構成のみとはいえ司法試験の検討は骨が折れましたが、採点実感は本当にためになりましたし、科目によっては予備対策の問題演習としても非常に有用でたくさんのことを吸収できた気がします。
 受験8回目の数か月前には異動により残業が増えましたが、少なくとも気持ちとしては以前と比べ物にならないほど熱心に勉強していました。昨年1月からStudyplusを使っていたため勉強時間を見返したところ、2~3月(仕事関係の資格の勉強をしていました)を除いて平日はおおむね2~3時間、休日は日により6~10時間といった具合でした。学生の方と比較すると少ないですが、月あたりの残業時間が平均して40時間だったことを考えるとほんの少しだけ頑張った方じゃないかなと勝手に思っています。
 以前から短答で最終合格率である上位4%以内に入ることを密かな目標にしていたところ、今年度は400位弱で無事目標を達成することができました。点数は196点(法律科目166点、一般教養30点)で、例年より少し簡単だったとはいえ200点に近い高得点を取れたのは素直に嬉しかったです。短答で高得点を狙って特別な対策をしたわけではないので、過去問+αというこれまでの勉強の積み重ねのおかげかなと思います。
 短答は翌日の自己採点でおそらく合格していることが確認できたので、翌日から切り替えて論文対策に移りました。やりたいことはいろいろあったのですが、とりあえず1)直近5年の予備過去問起案、2)論文模試受験、3)論証2周は全科目必ずやると決め、かつ得意科目の刑法と民訴はバッサリ切って昨年Fだった科目と刑訴に時間を割くことにしました。結果的に、バッサリ切った刑法、民訴、それから通勤時間だけ勉強した実務基礎の評価は振るわなかった一方、昨年Fだった科目は軒並み高評価になりお釣りが出たので悪くはなかったかなという気がします。ただ、他の受験生もそうであるように満足に勉強できたなんて到底言えませんでした(過去問起案も3年分にとどまりました)し、周囲の出来が良さそうでさほど自身の出来が良いとも思えなかったのであまり合格も期待していませんでした。
 以下が最後の論文の成績です。もはや得意科目と苦手科目の成績が綺麗に逆転していますが、不合格も全然ありうると思っていた私にはもったいないくらい良い順位だったので文句はありません。
 憲法:A(←昨年F)
 行政法:A(←昨年F)
 民法:A(←昨年C)
 商法:A(←昨年F)
 民事訴訟法:B(←昨年B)
 刑法:C(←昨年A)
 刑事訴訟法:A(←昨年C)
 労働法:B(←昨年F)
 法律実務基礎:B(←昨年A)
 280点台(←昨年240点台)
 80位台(←昨年700位台前半)

【余談:短答や模試の成績と論文の成績の相関】
 短答や論文模試の結果は、論文を受けるまでの一定時点の実力を測るものとして受験生の関心も高いのではないかと思います。これらの結果は論文合格を目指すうえでもちろん良いに越したことはないのですが、「〇〇点以上じゃないと厳しい」というのは考えなくていいというのが合格後の印象です。学習歴の浅い受験生をはじめとして短期間で爆伸びする方はいますし、(おそらく私がそうであるように)長年勉強していてもどこかでターニングポイントを迎えたりこれまでの積み重ねが実を結んだりする方もいます。
 加えて、とりわけ論文は出題内容、そのときそのときの判断、何気なく書いた一文、採点者の別、当日の体調などで誰しも実力に大なり小なりぶれが生じると感じています。私自身論文模試の成績は上位3割(受験者600名弱ではありますが)で割合的には不合格推定でしたし、模試の成績とは逆に本番の順位が私より良かった/悪かった方も「例外」では済まないほど多数見かけました。
 模試にしろ本番にしろ成績発表は一周の催しとして楽しみつつ、あまり結果の良し悪しで合格可能性を推しはからず何らかのかたちで自身の燃料にできるのがベストかと思います。

(4)論文合格~最終合格まで

 論文の結果にさほど期待を持てなかったことから、論文後は大島本や基本刑法各論を1周したのみであとは仕事に打ち込んだり旅行をしたりしていました。論文合格が分かったあとは友人知人への報告や祝杯もそこそこにまずホテルと模試の予約をし、合格発表の日から口述対策を始めました。
 使用教材は上でも少し触れましたが、民事実務基礎の対策の要として大島本を、刑事実務基礎の対策の要として基本刑法各論と定石を、両方の対策の要として伊藤塾からもらえる口述再現を3~4周しました。また、今年度から準備期間が1か月(従来の2倍)となり受験生のレベルが高くなると見込まれたため、それらに加えて短答や論文で身に着けた民法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法の知識を時間が許す限り復習しました。社会人はこの4法の復習まで手が回りにくく、私は結局
・上記4法の趣旨規範を2周ざっと見る
・民法(家族法以外)、訴訟法(規則は定石に出てくるレベルの主要な条文のみ)、弁護士職務基本規程を1~2周ざっと素読する
・和田民訴で主要な証拠方法と複数訴訟で取りうる各種手段を整理する
・基本刑法総論で刑法総論の不安な箇所を確認する
・基本刑訴手続理解編を1周ざっと通読する
・基本刑訴論点理解編で刑訴の不安な箇所を確認する
といった感じでいずれも流し読み程度の薄い勉強しかできませんでした。ただ、これによって民事実務基礎でややマイナーな弁護士職務基本規程6条を即答できたり、刑事実務基礎で訴因変更まわりの質問になんとか対応できたりとかなり救われました。誰しも論文合格に至る実力はあるので「記憶の喚起をすればいいだけ」ぐらいの認識でも大丈夫かもしれません。ちなみに、伊藤塾の口述模試は122点(両方とも61点)でしたが、たまたま自分が答えやすい問題だったのと詰まるところは詰まったので決して油断できませんでした。
 本番は民事も刑事も他の受験生と比べて出来が良いと思えず、社会人受験生で勉強時間が少ないこと、これまで独学で学習してきたことなどもあって不合格でも何らおかしくないと思って過ごしていました(このときばかりは仕事が忙しいことに感謝しました)。
 結果的には合格で、稀に飛び飛びになる連続した番号を追って自分の番号を見つけたときには心底ほっとしました。「終わりよければ全て良し」とつい考えてしまいますが、約10年にわたる受験歴は今後も自身の罪として背負い続けていきたいというのが正直な気持ちです。

【余談:口述試験の恐ろしさ】
 私は口述について「論文合格者の殆どが受かる試験」という程度の認識しかなく楽観視していましたが、あれは敷衍すると「論文に合格するほどの実力者が口述当日まで根詰めて勉強してもなお落ちる可能性のある試験」です。私は最初に何気なく口述再現を見たときに血の気が引き、そこで初めて試験の過酷さと社会人受験生のビハインドの大きさに気づきました。今年から準備期間が1か月になりXでは「年末年始ぐらい多少ゆっくりする」という趣旨のポストも見かけましたが、仮に私がそれに流されて勉強の手を抜いていれば今頃この記事を書いていなかったかもしれません。そう考えざるを得ない、つまり一時の気の緩みによる勉強の手抜きが致命傷になりうるほど気の抜けない試験だと今でも思います。この考えは自分の論文の成績を知った前後で変わりませんでしたし、まだ見ぬ口述の点数が何点だろうが絶対に変わることはないと断言できます。
 ここで私が考える口述の恐ろしさについて記載すると数千字単位で文字数が増えてしまうので詳述は控えますが、とりあえず不合格を避けるための最大の対策は「これまでの合格者が何をしてきたのか、他の受験生が何をするのかについて入念に情報収集して『自分だけ知らないこと』を潰しつつ、本番で実力を遺憾なく発揮できるよう時間、伝手、お金など持ちうる限りのリソースを投入する」ということに尽きると考えています。リソースの投入については合格率の高さもあって結果的に無駄になるかもしれませんが、少なくとも精神安定剤としての働きが期待できる以上は悩む必要はないと私は思います。

7.今後の抱負

 司法試験の難しさは過去問演習を通じてよく知っているので、予備試験合格者の合格率が高いとはいえ1回目で合格できる自信は正直なところありません。ですが、ここまで来たからには後悔のないようしっかり対策を行って万全の体制で挑み、あわよくば一撃で仕留めたいという思いがあることもまた否定できません。
 できれば、司法試験に受かったあとまたこうして合格体験記を書きたいです。お読みいただき本当にありがとうござました。

おわり


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