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晴れはすぐそこ 2023/06/02


2023/06/02  とても雨 部屋にて日々の記憶を


生きる為には必要な時間がある、眠る時間、ぬいぐるみを並べ直す時間、好きなひとたちの顔をぼーっと眺める時間、香水を選び振りかける時間、コップに水を汲んで飲む時間、コーヒーの時間、山盛りご飯を掻き込む時間。そういったささやかな、ありふれた時間が大好きで、それを割り振るための24時間があって、なのに、なんだかへたっぴで、毎日ちゃんとは出来ない。ひとつずつ、少しずつ、昨日よりも優しく生活できますようにと願って眠りに落ちる。お腹がいっぱいになって朦朧とした視界の中、付けっぱなしのパソコンから流れるバラエティを眺めながら、なんとなく今日を終えてしまう。わたしにとっての精一杯である、恥ずかしくてやりきれないけれど。


変わらない日々にも代謝はあって、前髪や爪は伸びて行く、メタボリズム、とくに爪は伸びるたび体の中に透明な箇所がふえたみたいなきもちになってうれしい。透明人間になれたらどうしますか?という質問があるけれど、わたしはだれかに抱きしめてもらいたい、と願う。見えないけど質量あるタイプの透明人間になって、ここに居るのねって頭撫でてもらって、そこは肩だよとか鼻だよとか言って笑いたい。抱きしめてくれた誰かは、見えないからじゃん、って困った顔をしてて、それをまたくすくす笑いたい。


透明人間にはなれないし、いま身体に存在しているのは半透明な爪のみだけど、身体の中でいちばん見る箇所だから、目に見えて変わっていくところだから、それだけで生きている感じがする。生活のまにまに、たまに脈を正すみたいに伸びた爪に色を塗って眺めたりして生きている。

心から愛する親友が東京に来てくれた時、小さな手に丁寧に塗られたネイルをわたしに見せ、「前勧めてくれたものだよ」と言った。そういえば似合いそうだなと思い伝えたんだっけ。生活の中の数十分を費やして貝殻みたいな綺麗な色にしてくれたのだと思うと、爪を塗るってやっぱりとてもかわいい行為だった。そんな彼女のやさしさに憧れて、数年ぶりにネイルの予約をした。はいとかいいえとか職業とか住む街の話とかを適当にしながら塗り重ねられてキラピカになった爪は別人みたいでくすぐったかった。


帰り道に古本屋に寄って漫画を買い、喫茶店で読んだ。忘れかけていた、生きるために必要な時間だった。いつもコーヒーばかり頼んじゃうけど、温かいお茶もいいかもね、なんて、どうでもいい事を心の中で呟きながらカステラセットをついばんだ。いつのまにか陽は伸びていて、喫茶店を出た後も空は明るかった。読み切ってしまった漫画が心に沁みて、主人公みたいな気持ちで新宿行きの電車に乗って、待ち合わせする友人の下へ向かう。わたしのために紅をさして、沢山息を吸って、少しずつうまくできるようになりますように。


祈りながら今日も眠る、つけっぱなしのバラエティ、ハムスターの滑車の音、塗り忘れたリップクリーム、飲みかけの水、おやすみ。げんきじゃない日のわたし、あなた、送り損ねたLINE、乱れた布団、言えなかった言葉、おやすみ。うまくできなくても、食べたご飯が美味しかったから、きっと明日も生きていけるね。

誰かにもある、やりきれない一日に
この文章がそっと寄り添えますように。

おやすみなさい  ⋆


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