善一丸

旅の僧が山間の隠れ里にたどり着く。
隠れ里には毒々しい朱色で塗りこめた寺がある。
その寺の僧侶は妖術を使って村人を苦しめていた。
旅の僧が寺の本堂に入ると、僧侶は台座に座って旅の僧を倒そうと待っていた。
僧侶は帷子を着た小さな子供のような奴だった。
頭巾の中の顔は青白く、白目のない真っ黒な両眼はバターにめり込んだ干し葡萄のようだった。眉毛もまつげもない。三日月のように笑った口の両端に、小さな牙が覗いてる。鼻は低く、二つの鼻孔から毒を持つ不気味な蛾の幼虫が顔を出し、旅の僧に向かって伸びてくる。
旅の僧は、腰につけたひょうたんの中に、ギリシヤ渡来の「善一丸」という丸薬を持っていた。その一粒を取り出して指で弾くと、「善一丸」は僧侶の口の中に飛び込んだ。
「善一丸」を飲まされた僧侶はたちまち無害化され、鼻孔から伸び出ていた蛾の幼虫は色とりどりの棒飴に変わった。
旅の僧は僧侶に歩み寄り、帷子をつかんで台座から引きずり下ろして床に転がし、足蹴にして仰向かせた。そして袖の中から一匹のハブをつかみ出し、弱々しく赦しを乞う僧侶の額にハブの頭をあてがった。
親指の腹に力を込めてハブの頭を圧迫し、その毒牙を僧侶の眉間に深々と押し込んだ。
僧侶の全身にハブの毒が回り、僧侶は顔を紫色に腫れ上がらせて絶命した。

2014.11.29

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